【高度に発達した現代工学ならば魔法すら打ち破れる】  藍月 要/凪良 角川スニーカー文庫

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ディープラーニング、パワードスーツ……工学の叡智は魔法にすら匹敵する!

ある日、俺は夜の公園で、異形の怪物と傷を負った妹・すずめを目撃した。怪物は異世界の魔法使いによって作られたもので、すずめは魔法少女として怪物と戦っていたのだという。
状況は飲み込みきれないが、妹が危険な目に遭っているのは見過ごせない。それに"魔法"なんて興味深い単語を聞いて黙っていられるわけもない。だって俺は高専生なんだから。
「魔法もなしに戦うなんて無謀すぎるよ!!」
「なら工学の力を頼るまでだ。『高度に発達した科学は魔法と区別がつかない』って言うだろ?」
パワードスーツによる身体強化、画像解析での索敵。現代工学の叡智は魔法に匹敵する!

ああ、これは確かに魔法は魔法でも中世ファンタジー異世界系の魔法ではなくて、ある種のロジカルな運用を求められる魔法少女リリカルなのは系統の魔法だ。
妹のすずめが魔法少女になっているけれど、すずめに協力を取り付けたペン姉さんのバックグラウンドとなる組織は「世界間秩序維持機構」という名の通り次元管理局みたいな所だし。
とはいえ、文明の発展方向としてはリリカルなのはの次元世界とは違って、科学方面での発展は進んでいないファンタジー世界みたいだけれど。

作者のデビュー作は高専生たちが異世界に飛ばされて、そこの魔法文明に科学的思考と技術で立ち向かう、という構図のお話でしたけれど、今度のこれは逆に異世界から犯罪者の魔法使いとその追跡者たちが現実世界の方に紛れ込み、密かに攻防を続けていた中で高専生の主人公たちが協力するようになり、という形で真逆と言えば真逆なんですよね。
認識阻害の魔法を、ああいう形で破るというのは発想としてはあってもこうやって具体的なエンジニアリングでやってのけられると、面白いですねえ。
単純な魔法VS現代工学という形にはせず、新たな知識新たな技術体系として、ペン姉さんが持ち込んだ魔法をも実用技術として盛り込んで、これこそが工学だっ、と魔法に対抗するものを開発していくのはばっさりと縦割りにして区切らずに活用するという意味で、工学の自由さと可能性を示すようでこれもまた良かったですよ、うんうん。

それはそれとして、人間関係のほうが激烈に重いのですけど!?
すずめともう一人の妹属性のアルエットさん、この二人のヒロインの感情がヘヴィもヘヴィ。自重が重すぎてアスファルトにめり込んで動けなくなる超重戦車並みに重いんですけど!?
その溜めに溜め込んだ激重感情を攻撃衝動に乗せてこの二人で殴り合いぶつけ合い自罰しあうあの攻防は、なんというかヘヴィ級の拳闘でしたね。攻撃の一つ一つが感情的に重いっ、投げつけ合う言葉の一つ一つがキレキレすぎて相手も自分もズタボロにする鋭利さで、なんかもう凄かった。
それでもあれ、溜めすぎてヤバいことになってた澱を発散することに繋がったんだろうか。すずめもアルエットも相談する相手も居らずぶちまける相手もおらず、ずっと一人で溜め込んできてたっぽいもんなあ。
アルエットはその激重感情の相手がすでにいなくなっているので、もうどうしようもなかったわけですし、すずめはすずめで自分の重さも病み具合も自覚あるもんだからそれを許さずに殺す方向へと全振りしちゃってたんですよね。単なるヤンデレなら、お兄ちゃんへの激重の愛情を自分勝手にぶつけ依存するだけだったんだろうけれど、この娘は自分のそんな感情の悍ましさを自覚してしまったものだから理性でねじ伏せようとしていたわけですし。そのお陰で、いい加減アタマおかしくなりかけてた気もしますが。
これ、絶対に時間経過とか空間的に距離を置くことで解消したり徐々に消えていったりするようなレベルの重さと密度の感情じゃなかったでしょう。おおむね鷹久お兄さんが悪いんですよ。この男はこの男で妹への愛情が深すぎる。いや、この密度と深さがなければ義妹になった時のすずめの心傷をまともに癒やす事がかなわなかったので、間違いではなかったのでしょうけれど。まあまともな形では癒やされなかったわけですが。
でも、あくまで彼の愛情は妹へのモノなんだよなあ。すずめもそれは嫌というほどわかっちゃってるから、そりゃ病むわ。元々病むほどの激重の感情を抱くことでそれを重しにして、心を現実という地面に着地させたようなものですから、その感情を手放したら手放したで心壊れてしまうわけですから、控え目に言っても地獄だわ、これ。
幸か不幸か、鷹久お兄さんはそんな義妹の感情に気づいていない、すずめが決死の思いで隠し通してきたからだけど、お陰で彼はなんにも負担感じずに居られているんですよね。最近ずっと義妹に避けられていることに相当傷ついてはいるものの、彼女の本心感情と向き合うことは避けられている。
その分、すずめが背負ってしまっているのですけれど、向き合ったら向き合ったで別にすずめのそれが軽くなるわけでもないんですよね。余計にヒドいことになるかも。それでも、現状維持というか現状から着々と悪化していくそれを何とかするには、すずめ一人ではどうしようもないと思うのだけれど……。

最後の展開の記憶にまつわる問題、あれわりと致命的じゃないですか!?
ペン姉さんと協力しての、悪い魔法使いとの対決は言わばすずめの事情に踏み込む機会でありきっかけになれたと思うのですけれど、思いっきりはしご外されちゃったからなあ!
いや、はしご外されたといえばペン姉さんもかなり大変な立ち位置に立たされてしまったままはしご外されてしまったような。
おまっ、鷹久お兄さん、あんた矢印そっち向けてたの!? この男、ずっと良きお兄ちゃん、良き先輩として振る舞っていたせいか、もしかして癒やし甘えられる系のお姉さんが好みだったのか!? 包容力あって甘えられて、でもちょっと頼りなくて自分が支えてやらないとと思える隙のあるちょっとポンコツ気味のお姉さんがストライクだったのか!?
実はすずめからのプレッシャーに無意識に気づいていたのか。まあ義妹との関係拗れてしまってて悩んで疲労していた部分もあったでしょうし、気持ちはよくわかるのだが。
すずめの激重感情知ってしまったペン姉さんとしては、錯綜する人間関係を外から見ていたと思ってたらいきなりど真ん中に立たされてしまってなかなかヤバい立ち位置になっているという有様だったわけですが、記憶問題ははしごを外されたというべきか、取り敢えず致命的な状況をあやふやに出来た緊急回避というべきか。……緊急回避だよね、これ記憶残ってたら鷹久くんそこからはグイグイ押しはじめるだろうし、そうなるとペン姉さんの胃がえらいことになる展開になりかねなかったのではないだろうかw
とりあえず、すずめは感情激重友達が出来て、ある程度気持ちを共有共感できる相手が出来たことで一人で抱え込まずに済むようになったし、ある程度発散も出来たんだろうけれど……解決の目処は全然立ってないんだよなあ。すずめをあの感情の沼からすくいあげるには、よほど繊細なアプローチで丁寧に時間をかけて解きほぐしていかないとダメそうな感じだし、いずれにしても放置しておいて良くなるとは思えないんだが、現状鷹久くんの方からの取っ掛かりが全部消え失せてしまっただけに、これどうなるんだろう。すずめ側から自力で這い上がっていけるんだろうか。

この作品、枠こそデビュー作の【俺たちは異世界に行ったらまず真っ先に物理法則を確認する】に準じていますけれど、中身……特に人間関係恋愛方面に関しては前作の【あなたのことならなんでも知ってる私が彼女になるべきだよね】のラブコメ……ラブコメ? の経験が色濃く反映されていた気がします。コミカルな部分引っこ抜いて、ひたすらディープな方にのめり込んだ気もしますけど。
ただ、結局鷹久お兄さんはすずめにしてもアルエットにしても、彼女らの激重感情に関しては直接触れる機会もないままで、当事者というか対象者である彼が放置、或いは蚊帳の外のまま彼女たち自身の間だけでぶつけ合うことになってしまったのはもったいなかったかもしれませんね。若干、どっちつかずの中途半端になってしまった感もうかがえます。
もし続編があるのだとしたら、そのへんしっかりと描かれると嬉しいなあ。