【カーストクラッシャー月村くん 1】  高野小鹿/magako オーバーラップ文庫

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「カースト」に反旗を翻した、超絶リア充による青春ラブコメ!

月村響、高校2年生。彼は、カーストトップに君臨する超絶リア充である。
彼の周りには同じく飛び抜けた存在である友人達がいつも側にいた。
雑誌の専属モデルを務め、常に響に寄り添う牧田奏。
スタイル抜群で男子に抜群の人気を誇る千代田静玖。
誰しもが認める衝撃的な美少女、薬師寺ココ。
そんな彼女達と学生生活を満喫していた響だったが、カーストにまつわる問題を解決するため、クラスのオタク女子・桐谷羽鳥を「プロデュース」することになり……?
他者の物差しでランク付けされ、時に理不尽な問題を引き起こす「カースト」。
そんなカーストに反旗を翻したリア充による青春ラブコメ、ここに開幕!


高野小鹿さんって角川スニーカー文庫から出てた【メシマズ】の人じゃないですかー。懐かしい。
アズレンのノベライズでオーバーラップの方に移ってたのは知っていましたけど、それからも長らく音沙汰なかったですからね。久々の新作が真っ向勝負の青春モノというのは気合入ってるッ。

スクールカースト。昨今良く目にするようになったこれですけれど、言葉自体最近……と言ってももう何年も、十年単位の昔からあるんですかね。ただ、それ以前からもこうした空気は学校内クラス内で厳然として存在しました。その空気を言語化してみせたのが、このスクールカーストという単語なのでしょう。言語化することで、より視覚化されたと言ってもいいかもしれません。
ただ、あくまでこれは空気や雰囲気といったものであり、明文化された制度ではないんですよね。
自然発生したシステム。
逆に、だからこそタチが悪い。集団の無意識によって形成される暗黙のシステムは、それを利用することは出来ても根本から無くすことは不可能に近いからだ。
これに関しては、カースト上位…いわゆるトップカーストと呼ばれる位階に位置する人間たちですら変わらない。彼らもまた、カーストの支配の内側に囚われていてそれに逆らうことは難しいからだ。
現に、この物語におけるカーストトップに所属する月村響の友人たち。トップグループの少年少女たちは多かれ少なかれ、自由な言動を制限されトップカーストとしての振る舞いを強要され、意思を想いを踏み躙られている。
上位にいるからといって、自由であるとは限らない。むしろ、多数の注目を浴びることでより多くの制限を受けているかもしれない。

それでも、カーストの下位に位置する人間たちに比べれば、振るえる力は大きいだろう。彼らには発言力があり、カーストというシステムに則って利用するという前提だが、自分たちより下に位置する人間たちに対して影響力がある。何より、トップグループに立つというのはそれだけ人の空気を読む力を持ち、見られることへの意識が高く、他者に影響を及ぼすことへの強い自覚があるからこそ、そしてそれらを振るう才覚と努力を重ねている人間だからこそ、そういう立ち位置に立っている。

「正しい事をしたければ偉くなれ」
と老刑事が主人公に語ったのは、あれは【踊る大捜査線】だったか……え? 見たこと無い? 古典? ま、マジかー(大ショック)。
うちらの世代だと、【太陽にほえろ!】でこんなセリフ言ってたぜ、と言われるような感覚なのかしら。そりゃ大昔だわなあ。
……いやまあ話は逸れましたが、でかい組織やシステムを変えるには下からの突き上げよりも、上に立ち偉くなって権限を増やし、そうしてトップダウンで改革していく方がまだ容易、という話ですな。もちろん、あくまで比較的であって、上からだって既存の組織やシステムの根本を変えていくのは大変困難なことです。そもそも、偉くなるってのはそのシステムのロジックに則ってその立ち位置に就いたってことですからね。自分の権威や権力を裏付けているそのものを壊そう、というのはやはり容易ではない。
それでも、やっぱりそれが出来る権限を振るえるのは、上位者なんですよね。

月村響は、カーストのトップに立っているけれど、このスクールカーストというシステムそのものは憎んでいると言って良い感情を抱いている。スクールカーストってのは制度や役職じゃないので、本人が望む望まない関係なしに、それぞれの位階に押し立てられると言っていいでしょう。ただ、月村くんの場合は、その目的のために意図的にトップに立とうと努力し、そこに今立っている。
そうして彼が目指すのは、かつて自分が好きな人を決定的に傷つけ、またそれ以外の多くの人を肉体的精神的社会的に消せない傷をつけた、このスクールカーストという空気でありシステムの破壊であったのです。

同じグループの友人である藤代亮介と、桐島羽鳥というオタク女子が関わったトラブルは、月村くんの目的の遂行のために合致するうってつけの事例でした。
まあ「しめしめ、これを利用してやるぜ」などと考えてるほど彼は鬼畜ではなく、あくまでカーストという理不尽に踏み躙られる人を何とか傷つかないようにしてあげたい、という想いが根本にあるので、月村くんに悪印象を抱くようなことはないのですけれど。ちゃんと好青年ですし。
ただ、自分の根底にカーストを破壊したいという目的があることも彼自身大いに自覚しているので、羽鳥を助けたいという思いよりも利用しているという罪悪感の方が勝っている感じはあるんですよね。

ただ、月村くんが行おうとしている羽鳥の身に起ころうとしている問題への対処法は、決してスクールカーストを破壊するものではなくて、その枠組の中身をかき混ぜるという塩梅に留まっているやり方に見えるんですよね。
あくまでスクールカーストの価値観に則り、遵守して、順位付けをひっくり返しているにすぎない。
システムとしてのスクールカーストは、現状小揺るぎもしていないのである。
どれほどコップの中の液体をスプーンで掻き混ぜても、コップ自体が割れてなくなってしまうわけじゃないのである。
でも、月村くんもそれはわかっている様子なんですよね。ただ掻き混ぜても、カーストの上と下が入れ替わるだけで、結局同じこと。それ以上に、悪意や敵意が醸成されてヒドいことになるケースも有る。事実、彼は過去にそれで手酷い痛い目を見てしまっている。善意と好意と使命感によって行った行為が、誰かを助ける行為が、あまりにも多くの人に傷をつけてしまった。
そんな後悔と反省を抱えている彼が、果たして二番煎じに甘んじるのか。とは言え、今のところは月村くんの行動に、具体的にスクールカーストを破壊し粉砕するような何かを見つけることは出来ていないんですよね。
果たして、彼には何らかの方法が見えているんだろうか。それとも、取り急ぎ強烈な虐げの対象になりそうだった羽鳥を助けることを優先して、それ以上を考えていなかったのか。
いずれにしても、わかるのは次回になるだろう。月村くんの強い想い、という以上の情念に近い意思はひしひしと感じるだけに、彼の次の行動には大いに期待を抱いてしまう。

それはそれとして、奏とは普通にいいカップルだと思っていたので、普通にこのままお幸せになればいいのにと思っていたので、その真実はびっっくりだよ! びっっっくりだよ!
いや、だって。すごくお互いのこと理解していて、思い合っていて、これ以上無いくらいお似合いで、ってこれ同じ学校の生徒たちみんなが思ってたことなんだろうな。いやー、うんこれはびっくりだわ。完全に予想・想定、考えてもみなかった死角からの一撃でした。これ、色々と取り巻いている状況の前提も変わってくるんじゃなかろうか。

高野小鹿・作品感想