【大江戸コボルト -幻想冒険奇譚 江戸に降り立った犬獣人-】  風楼/はてなときのこ アース・スターノベル

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時は享保。異界と現世が混ざりあった江戸の町にて――

徳川綱吉が治める貞享の世にて、突然現れた“異界の門"より、子犬人――コボルトが江戸に降り立った。その愛らしい姿を見た綱吉公は彼らを深く愛し、保護をするよう命じる。
その後、時を置いてやって来たえるふやどわあふとも幕府は友好関係を築き、異界の知識を得ることになった江戸の世は一足早い文明開化を迎えていた。

さらに時が流れ――徳川吉宗が治める享保の時代では、コボルトをはじめとした異界の住人が江戸っ子としてすっかり町に馴染んでいた。
江戸城内に秘匿された異界の門の残滓、異界迷宮(ダンジョン)によって得られる資源を求めた吉宗公は、御庭番の青年、犬界狼月とコボルトのポチに異界迷宮攻略を命じる。
その日から、狼月とポチの、花のお江戸と迷宮を行き来する奇妙な生活が始まる――! !




まさか、生類憐れみの令がそんなタイムリーな効果を発揮するとは!
いやでも、普通の犬などの動物ですら「お犬様」などと呼ばれるほどに愛護することを強いる法が行き渡っている最中に、最初は言葉も通じなかったみたいだけれど温厚で知性のあるコボルトみたいな生き物が現れたら……保護しますよね、可愛いし!
うんまあ、可愛いはともかくとしても、コボルトなんて江戸の世の人々からすれば妖怪そのものじゃないですか。初動としてパニックが起こり攻撃的に対処してしまうのは当時の人々の民度を考えても仕方ないことでしょう。でも、法として生類憐れみの令が徹底され民草に安易に生き物に攻撃を加える事が自分たちの身の破滅に繋がるという事実が身に沁みて周知されていたら。
変に人間の理性や善性に期待するよりもよっぽど納得の行く、まず対話から交流が始まった理由であり要因じゃないですか。
この作品のコボルトが本当に温厚で臆病でおとなしい種族だった事も大きな理由だったのでしょうけれど。異世界側では完全に被差別種族であり、常に虐げられ搾取され続けていたか弱い種族だったみたいですしね。
逆に日ノ本以外の世界の国々では、それこそ宗教的とか生産力とか教育力の関係で突然異界から現れた異生物に対して、存在自体を受け付けないところは多かったようですし、向こうから来た魔物たちもコボルトのような温厚な種族など珍しいくらいだったこともあり、激しい抗争が巻き起こりもうシッチャカメッチャカになってしまったようですが。

コボルトたちを受け入れた経験が、その後に現れたエルフやドワーフとの融和と受け入れにも繋がり、彼らのもたらした異世界の技術や文化を取り入れることで飛躍的な発展を遂げることになった、時代劇とファンタジーが融合されたような世界観の江戸が、またこの作品の魅力なのでしょう。
当たり前にコボルトたちが、江戸の人たちと一緒に長屋に住んでたり、街の往来で行き交っていたり。微妙に洋風、というか異界の文化が取り入れられてハイカラになっている異界文明開化されたこの雰囲気。
コボルト自体がやたらと可愛いワンコ! ワンコな絵面なのも相まって、もうビジュアルから素晴らしいんですが、この江戸の街。

主人公の狼月とその相棒のポチは、将軍直属の御庭番として江戸の治安を守る御役目についている。といっても忍者とか密偵という風な秘密の任務を帯びた御庭番てなのじゃなくて、殆どこれ町方の八丁堀と岡っ引きみたいなもんなんじゃないだろうか。ふたりとも下町の長屋に家族と一緒に住んでますしねえ。
江戸と言えば長屋暮らしで蕎麦をすすり、てのがやっぱり風情でやんすよ。

しかし、力説するポチの解説じゃないですけれど、綱吉公はここではホントに名君だよなあ。理想的啓蒙君主なんじゃないだろうか。元々、五代綱吉公の治世は戦国から続くあらっぽい武士の気風がようやく吹き払われて、文治の時代に入っていった時期とも言われますけれど、綱吉公はさらにそこから異界の風を利用して一歩も二歩も進歩した社会体制を築いてるんですよね。他種族との融和や女性の地位向上、法治国家としての法整備や身分制度の緩和と家長制度の解消、個人の人権思想の発展に教育改革。
それを異界技術の取り入れによって人々の暮らし向きを向上させ発展させ続けることで、反対派を権威と実益でねじ伏せて達成していったわけですからねえ。
ってか、今の八大将軍の治世では中央集権化での立憲幕府制度まで至っちゃってるのか。

ともあれ、狼月とポチが上司である大樹 八代吉宗公から命じられたのは、新たに発見されこの度大々的に人員を募集し探索を開始することになった異界迷宮と呼ばれる場所の調査でありました。
とにかく様子も探索のやり方も何もわからないから、人員募集して好き勝手やらせてみて、そこから起こった問題や失敗に基づいて、一からダンジョン探索のためのルール作りに着手していくやり方は面白かったなあ。確かに、何もわからないところから手探りでやろうとしたら、トライアルアンドエラーを繰り返さないといけないですよね。いきなり初心者が強敵のいるダンジョン深層に潜ってはいけません、という初歩的な所から初期段階ではわかりませんもんね。ダンジョンボスとかの概念も存在しないわけですし、徒党を組む際の最適な編成とか、戦い方も戦場の作法とは全然違うわけですから、さっぱり不明なわけですし。

いやしかし、将軍様から授かった任務なのに、準備金もなしに自弁で装備整えていく狼月とポチの姿に、変に江戸時代を感じてしまいましたw
甲冑とか刀や鉄砲などの装備一式は支給されるものではなく、あくまで自弁、というのが武士の当たり前でしたもんね。近代になれば、支度金とか出してくれるんでしょうけれどw
とはいえ、ダンジョンで見つけて拾ってきたものに、多大な報奨金は出してくれたわけですけれど、これ最初は結構ハードル高いですよ。
馴染みの女商人ネイさん、馴染みってか幼馴染っていうか、彼女が先行投資してくれなかったら武具一式取り揃えるの結構大変だったか、難しかったんじゃないだろうか。

しかし、江戸ってなんであんな食べ歩きが似合う街なんですかね? むしろ、大江戸グルメツアーの方が本命だったんじゃないだろうか、というくらいダンジョン探索の報酬を使っての食べ歩き行脚が美味しそうだったんですけど!?
ライトノベルなんかで江戸が舞台だと、わりとこういうグルメなお話って欠かさない作品が多いんですよねえ。そして、江戸と言えば蕎麦。蕎麦を食えってなもんである。これが一番粋なんですなあ。

あと、なにはなくともコボルトがかわいいっ。見た目完全にワンコ寄りのワンコなんですよね。ワンコが二足歩行しているような容貌で、そこまで人に寄せてないのがまた逆にかわいいっ。
途中からパーティー入りするコボルトの薬師のお嬢さんのシャロンなんて、白くてふわふわしていて綺麗可愛いんですよ。
かわいいは正義。真理である。

まだ物語としては異世界迷宮の探索もはじめたばかり。世界観の紹介というか、雰囲気を味わい堪能するための第一巻という感じだったので、まだまだ話はこれからといった風情でしたが、堪能させていただきました。