【虚ろなるレガリア 3.All Hell Breaks Loose】  三雲 岳斗/深遊 電撃文庫

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暴かれたヤヒロと珠依の過去! 大殺戮の再現を目論む統合体の狙いとは!?

無名の配信者として活動していた彩葉の動画再生回数が、一夜にして百万回を突破する。その背後には暴露系配信者ヤマドーこと、山瀬道慈の暗躍があった。
山瀬の動画によって、龍の巫女であることを公表されてしまった彩葉は、世界中から身柄を狙われることになる。
これ以上の情報漏洩を防ぐために山瀬の捜索に乗り出すヤヒロだが、逆に連続殺人事件の犯人として、ギルドに拘束されてしまう。
ヤヒロ不在の中、襲撃されるギャルリー日本支部。そして出現したヤヒロの命を狙う新たな不死者たち。
世界を混乱に陥れようとする山瀬の真の目的とは――
廃墟の街で出会った少年と少女が紡ぐ新たなる龍と龍殺しの物語、第三巻!


今度は表紙絵にもなっているベリト姉妹がメインの回になると思ったら……。
サブタイトルの「All Hell Breaks Loose」。直訳するとすべての地獄が解き放たれる、みたいな意味になりますけれど、英語の表現としてこの文言は最大級の「大騒ぎになる」という意味があるみたいですね。それこそ、地獄が解き放たれたみたいな大混乱、というような。

そのサブタイトルが示すように、開幕冒頭、彩葉の動画がバズりまくり百万回再生を軽く突破。全世界に彼女の存在が明かされることになる。と、同時に龍の巫女を狙うあらゆる世界中の勢力が一気に彼女の身柄を狙って今彼女たちが居る横浜に集まってくる。
それこそ、新たな龍の巫女とその従者たる不死者(ラザルス)までもが現れて。
と、タイトル通り大混乱から始まるこの第3巻だったのですが、これがまだ序の口。ただの呼び水。本当の大混乱と大騒ぎはこれからだったんですなあ。

いや、今回は一気にこの世界が置かれた状況と今まで謎とされていた部分が真実とともに明らかになったんじゃないだろうか。
日本人絶滅という衝撃的なアポカリプスな世界観からはじまったこのシリーズですけれど、国が滅びるどころか人種としての日本人が根絶やしにされた、なんて凄まじい展開だったのはこれが理由だったのか。
魍獣とは一体どういう存在なのか。その正体は激震の真実でありました。これが事実なら、この世界の前提そのものからひっくり返るわッ!
実際問題、日本が滅び日本人がほぼ絶滅状態。残された僅かな日本人たちは各国の派遣した軍隊の管理下などに置かれて、先行きの見通しなんてものはもう存在しなかったわけである。
主人公の八尋としては、当面の目的はこの大虐殺を引き起こした妹の珠依に落とし前をつけることであり、また出会った彩葉を守ることだったわけですけれど、そこに未来の展望らしきものはなかったんですよね。
珠依の件はともかくとしても、彩葉のことはずっとベリトに庇護して貰いながらやっていくしかなかったわけで、着地点みたいなものが存在しなかったわけです。平和な日常を取り戻すにしても、もう日常自体が取り返しのつかないほど壊れてしまっているし、現状ではそれを自分たちで作っていくほどの力もない。
いずれにしても、ずっと受け身の姿勢で行かざるを得ず、能動的に何かをやっていく取っ掛かりがなかったんですよね。
しかし今回、魍獣の正体が明らかになったことで、明確な達成スべき叶えるべき目標が出来た。虐殺を引き起こした原因の一つである八尋にとっても、それは果たすべき使命である。とにもかくにも、やるべきことが出来たんですよね。そして、それを達成すればもう一度日常が取り戻せるかもしれない。

ただそれを願うには、あまりに八尋が犯してしまった罪は大きいのだけれど、新たに現れた巫女と不死者である清滝澄華と相良善の二人は虐殺の純粋な被害者にして八尋への弾劾者として現れたことで、逆に八尋に対して許しを与えてくれる存在にもなってくれると思うんですよね。
筆舌し難い地獄を味わい、さらなる地獄が引き起こされるのを止めるために現れた正義の味方。と、それ以上に塗炭の苦しみを味わった者同士で支え合ってきた二人の男女、というカップリングがなかなか味わい深い二人なんですよね。堅物の善が年下で酸いも甘いも噛み分けた澄華の方がお姉さんという組み合わせもなお良し。
今までの巫女とラザルスは、そこに愛情や親愛があったとしてもある種歪んでしまった関係が多かったので、そんな中でまっすぐな善と器が大きくて何でも柔らかく抱きとめてくれそうな澄華の二人はこのアポカリプスは世界ではびっくりするくらい真っ当で、真っ当足ろうと努めている姿は非常に好感の持てるものでした。この二人には真っ当に幸せになってもらいたいな、と思えるカップルでしたねえ。
もう一方の風の龍の不死者たる山瀬のおっさんが、戦場ジャーナリスト的な強かな食わせ者的ムーヴを噛ましていたのに、他の登場人物たちより一回り以上年輪を重ねたオジサンらしい、年上からの色々と助けてくれたり経験から助言してくれたり、なお助けキャラを期待していたら予想外に底の浅い人でがっかりさせられてしまいましたからね。その分、風の龍の巫女のみやびさんは底知れなさが垣間見えて面白いキャラクターにここからこそなりそうですけれど。

また、これまで見えていたものが思いっきりひっくり返るほどの大混乱となった、と言えば人間関係の方。そう、珠依さんですよ。ヤンデレ系妹ちゃん。日本を壊滅させ大虐殺を引き起こした原因、というか犯人。なんでそんな事態を引き起こしたのかについては、これまでもヤンデレ拗らせたのが原因っぽいのは匂わされていたのですけれど、実は兄である八尋のためになにか理由があって思わぬ形で事が起こってしまったのでは、という可能性も想像はしていたのですけれど……思いの外直球でヤンデレた結果じゃねえか!!
というか、虐殺を引き起こす前に自分の手で殺戮起こしてるじゃないですかー、この娘!? あかん、完全にギルティや。

ところがである。このヤンデレ妹、兄を手に入れるためだけにあれだけの事を仕出かしておきながら、その実……いわゆる「BBS」(ボクが先に好きだったのに!)を喰らっていたのである。
ちょっ、えーー、八尋って珠依によって不死者に変えられたんじゃなかったの!? あくまで先に彼を有したのは珠依であって、八尋が彩葉によって火の龍の不死者になったのは第一巻のとき。彩葉は後から現れたポッと出の邪魔な泥棒猫、ではなかったの!?

わはっ、珠依さんアカンやん! 完全に掻っ攫われて寝取られてますやん! 
本命がいる相手に余計なちょっかい出して蹴飛ばされてるの、自分やないですかぃ
先に運命の番としての盟約を奪われ、今あらためてパートナーとしての傍らの場所を奪われて……すげえ、ポディション全然残ってない。完全に彩葉のモノだ、八尋くん。マウント取るどころじゃないや。
そして何より、鳴沢八尋……侭奈彩葉によって、伊呂波ワオンによって調教済み。躾け完了済。割って入る余地なしである、少なくとも珠依さんには。
大丈夫ですかー? 息してますかー?
ヤンデレをブチ切れさせると後が怖そうですけれど、ある意味マウントを取ることに成功するとヤンデレってあんまり怖くなくなるからなあ。
おまけに、ヤンデレ……かどうかは分からないけれどほんのりと暗い闇を抱えた妹枠ですら、絢穂に持っていかれそうな気配があるんですよね。
黒幕としても、ある程度底が見えてしまった今回の一件で、妙翅院迦楼羅の方が得体の知れなさ、神秘性、不可侵性の奥深さで上回れちゃった感もあるんですよねえ。
……珠依さんの明日はどっちだ。

と、思わぬところで彩葉が守っていた子どもたちの最年長である絢穂に、色々とフラグが立ってましたけれど、彼女に限らず今まで個別にキャラクター描いていなかった孤児の子どもたち、一気に全員キャラ立てて来ましたね。ってか、描くとなると全員濃いというか個性的というか。え、むしろ絢穂が一番大人しくない? ってくらいに、ちびっこども元気でしたなあ。まだ10歳前後だろうに、すでに危ういバランスの三角関係が成立しはじめている、ほのか・京太・希理の少年探偵団の三人とか、別に短編かなにかでメインやってくれないかな、と思うくらい面白い子たちでしたよ。

あと、今回表紙にもなってメイン張るのかな、と思ってたベリト姉妹のジュリエッタとロゼッタ。確かに、他のベリト支社から対立する兄妹たちが現れて、とベリト一族の様子も明らかになりつつ彼女たちの話も進んでいたわけですけれど、こっちはほぼベリト関係者だけで完結してしまって、八尋たちは殆ど関わらないまま片付いちゃったんですよね。八尋たちは八尋たちで自分たちのことで忙しかったのもあるし、彼らの手助けを必要としないくらい、ロゼもジュリも出来る女だった、という事なんですけれど、ロゼもジュリももう少し心を開くというか、深い部分で八尋と絡むチャンスがあっただろうにスルリと抜けてしまったなあ、とちと残念に思ったり。未だ、彼女たちが八尋に本音を吐いたり弱い部分を見せたり、ビジネスパートナー以上の距離感にはなかなかなって来てないですからね。
二人共魅力的なヒロインなだけに、本格的なヒロインとしての立ち位置になってくれないかな、と期待してしまうのですが。

……そう言えば、風の龍たちも暴露系とはいえ配信者だったわけで。これで今まで登場した巫女と不死者の5組のうち3組が動画配信者だったんですよね。澄華と迦楼羅はやんないんだろうか、動画配信w