【断罪された悪役令嬢は、逆行して完璧な悪女を目指す】 楢山幕府/ えびすし TOブックス

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悪辣な異母妹(いもうと)に騙され、娼館へ売られた公爵令嬢・クラウディア。病死の果てに14歳の頃へと逆行した彼女は、もはや、初心でも愚かでもなかった。"健気さ"を演じて冷徹な兄を手玉にとると、"罪悪感"を餌に家庭を顧みない父親を籠絡(ろうらく)。身につけた知恵と手練手管で、学園では新入生代表を務め、生徒会入りへ。さらには意図せず、大商会の令息や王太子までも味方に! それぞれの思惑が渦巻く中、ついに学園で女同士の戦いが幕を開ける! 「大切なものを守るためなら、手段は選ばない。妹が"悪女"なら、それを超えてみせるまでですわ」 元娼婦の令嬢が「悪」で正義を貫く、痛快ラブファンタジー開幕!



悪女と言うと、呂后、西太后、則天武后と権力を壟断して人の命を弄んだアレヤコレヤが思い浮かぶのだけれど、この作品の主人公であるクライディアが目指すという悪女は、そういった我欲を満たすために謀で人を陥れ、尊厳を踏みにじり、悪徳に酔いしれる、と言ったタイプの悪女ではなさそうなんですよね。
峰不二子とかアッチの方の、ファム・ファタールというべきか。父や兄に取り入って自分を陥れた異母妹に打ち勝つために、異母妹よりももっと強かに巧妙に相手の心を掴んで魅了し、手玉に取って多くの人たちに好かれ味方を増やしてしまおう、という意味で悪女だった義妹に勝るためのより完璧な悪女を目指す、という目標なのだろう、これ。
ぶっちゃけ、ネガティブな怒りや憎しみ、嫉妬や復讐の念といった情よりも、前世で自分に優しくしてくれた人を助けたいと願ったように、クライディアって基本優しいし情が深いので、悪意で他人を傷つけるような行為はそもそも出来なさそうなんですよねえ。

ワガママで他人の事を思いやる事なんて思いもよらず、傍若無人に振る舞い続けた結果、父が愛人と作った子である異母妹のフェルミナにすべてを奪われ、追放された挙げ句に娼婦にまで堕ちてしまったクラウディア。彼女はそこで初めて自分の思う通りにならない世界に叩き込まれ、でもそこで働く娼婦たちに面倒を見てもらい、特に姉と慕った元貴族の令嬢だったというヘレンに助けられ、一廉の高級娼婦としてのし上がっていく。
追放受けた悪役令嬢でも、実際に娼婦まで堕ちた子はなかなか珍しいんじゃないだろうか。娼館にて新しい人生を送るものの、姉と慕うヘレンは病に倒れて苦しみながら死に、自分もまた流行病に罹って倒れてしまう。
そうして意識を取り戻したクラウディアが置かれていたのは、厳しくも正しかった母が亡くなった直後という遠い昔に過ぎ去った過去の時代。
そこでもう一度、クラウディアは失墜した人生をやり直していくのだ。

もしここで心が悪に染まっていたのなら、とそうでなくても自分を陥れたフェルミナへの憎しみが募ろうというものなんだけれど、クラウディアは自分の振る舞いにこそ問題があったと認めて、今度はフェルミナを逆に陥れるなんて考えは抱かずに、敵意を抱かれないようにうまくやろうと考えるんですね。
不仲だった兄や、愛人を家に連れ込んできて自分たち子供を蔑ろにした父とも今度はうまくやるために、娼婦時代に培った男を手玉に取り、人の心の懐に滑り込む手練手管を弄して、距離が出来始めていた家族に自分を意識させ、またワガママな振る舞いから敬遠されていた使用人たちからも敬愛を獲得していくのである。
老獪な魔女のような娼婦としての手管を持ちながら、でもクラウディアの心根は真摯なんですよね。やり方が悪女方式なだけで、中身は全然悪女じゃないよなあ。前世では不幸な末路を辿ってしまった恩人であるヘレンを、今世では救うために奔走したり、と悪の道を自分のためではなく他人のために歩くことになるんですよねえ。

男の扱いはお手の物、という経験を沢山積んでいるクラウディアですけれど、一方で本気の恋愛はまるで経験のない雑魚でもあるので、婚約者候補となった王子のシルヴェスターとの関係はどうにも的外れなことばかりしてしまうんですね。自分の中に生じる初めての感覚にも、冷淡でどこか歪んだ人間観を持っているシルヴェスターへの印象にも引っ張られて、どうしても自分の中の恋にも王子が向けてくる本気の情熱にも気が付かないクラウディア。
王子からすると、初対面ではおもしれー女、くらいの印象だったのにしばらく一緒にいると自分と同い年の年若い青い少女にも関わらず、知性と教養に溢れると同時にやたらと色気やら艶っぽさを振りまいている、という初心な少女性と賢者のような知性と娼婦のような妖艶さを併せ持つ得体の知れない魔女に見えてくるわけですな。
いくらクールと言っても思春期の少年である。こんなえちえちな少女が自分の婚約者候補として侍ってくるのである。理性飛ぶよなー。なんかもう色々と我慢きかなくなるよなあー。気持ちはわかる、すごくわかる。男心を手玉に取りながら、取ったそれを無頓着に扱うわ自身も無防備だわ、とわけのわからんムーヴかましてくるし。
いやもう候補とかイイから、この娘ください、となるのは納得である。無論、宮廷政治のバランス的にも一般的な常識からしても、結婚前どころか正式に婚約者に決まってもいないのに手を出してしまうのはご法度。というか、婚約者と決まっても結婚するまではお預け、なんですよねえ。
にもかかわらず、やたらと色っぽくて無防備な自分のものとなる花に手を出せない。なかなかの拷問である。王子、大丈夫だろうか。アタマ沸騰して煮物にならないだろうか。見てても結構限界がはみ出す事が多い気がするんだけど。

まあ控え目に言っても、クラウディアに夢中な王子様である。脇でフェルミナがなんかやってても眼中にないんですよね。というか、フェルミナが悪女としては未熟を通り越して矮小もいいところなんですよねえ。
クラウディア自身、あれ? こんなしょうもない小物に前世の自分、追い落とされちゃったの? と拍子抜けするくらいでしたし。あまりにやり方が稚拙ですし、クラウディアの方は別に復讐するつもりもなく、仲良くやろうと歩み寄ってすらいるのに、自爆するみたいにクラウディアを陥れようとするんですよね。おかげで、みんなからは虚言癖ありの妄想娘、しかもたちが悪い、とみなされる始末。
可哀想なのが父の愛人である彼女のおかあさんで。なまじ常識人で温厚なまともな人だから、父に召し上げられて本家で暮らすのも恐縮してたくらいなのに、娘がアホなことばかり仕出かすものだからほんとに肩身狭いことに。
父もイラんことをしなければよかったのに。

目的のためには手段を選ばない。というわりには結構選んでいる気もするけれど、正義のためでも秩序のためでもない、ただ大切な人たちを守るために、強かに老獪に。悪を知ることでフェルミナのような悪を退けるために、自ら悪女になることを志す、清冽なるファム・ファタールとでも言うべき令嬢クラウディアの物語のはじまりでありました。
しかし、この娘本当に無意識からエロすぎて、お預け喰らってる王子が可哀想すぎるw