【ロクでなし魔術講師と禁忌教典 21】  羊太郎/三嶋 くろね 富士見ファンタジア文庫

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絶体絶命のフェジテ決戦。そして、訪れる衝撃の幕切れ……!?

長きに渡って繰り広げられた死闘が、ここに決着を迎える。
「今からボクが、キミの”余計”を削ぎ落としてあげる」
全てを捨てた《剣の姫》と、捨てなかったリィエルの結末。
「貴方、まさか…殺したの……? アレは貴方の… !?」
パウエルの悪魔の所業に、アルベルトの頬をつたう一閃の跡。
「できるかどうかじゃない! やるのよ! 私はイグナイトだ!」
最強の魔術師・エレノアの闇を振り払う、最高の炎の輝き。
そして、彼らは帰還する。勝利を担う最後の鍵、希望を載せた一陣の風、すべての絶望を撃ち抜く光とともに。
フェジテを巡る戦いの舞台は衝撃のクライマックスへ――!

長期シリーズのクライマックスともなると、味方サイドのキャラクターも敵サイドのキャラクターも出揃っての総力戦となる事が多いから、必然的に盛り上がる。
物語の積み重ねがそのまま密度と厚みとなって、熱量をあげてくれるんですよね。

それでも、正直ラスボス前の敵勢力の幹部クラスとの前哨戦で、ここまでやべえのが出揃った例はなかなかないんじゃないだろうか。ただシンプルに強かったりトリックスターとして難敵だったりする敵には事欠かないけれど、<剣の姫>エリエーテ・ヘイブンにしても、【神殿の首領】パウエル・フューネにしても、エレノア・シャーレットにしても、スケールが半端ないんですよ。単純に強いだけじゃなく、強さが底知れず精神が超常に達していて単一で世界に伍するワールドエネミーの域に達していた。
もう、三人共が長期シリーズの締めを飾るラスボス担当して貰っても不思議じゃないくらいの敵だったわけですよ。
ラスボスに相応しい背景を携えていた、と言ってもいいかもしれない。
こういう敵を倒すためには、それこそその敵の背景に真っ向から立ち向かえるだけのバックグラウンドがないと、そもそも決戦の格好がつかないんですよね。ましてや、タイマンで対決するとなるとラスボスに立ち向かうには、主人公と呼ぶに相応しい格がないと釣り合わないんですよ。
因縁が在り、積み重ねた経験、挫折や成長、努力に覚悟、いくつもの過程が重なってそのキャラクターを主人公と呼ぶに相応しいほどの密度、厚みを詰め込んで、形作っていかなくてはならない。
この【ロクでなし魔術講師と禁忌教典】という20巻を超えたこの長期シリーズは、それだけの巻を使って主人公のグレンだけじゃなく、登場人物一人ひとりに本気で主役を担えるほどの、主人公を名乗れるほどの成長を、歴史を、物語を描いてきたんだなあ、というのを実証してみせてくれた、この三者三様の決戦でありました。
まったく、贅沢極まりないですよ。実質最終決戦が三場面で同時上映されてたんですからねえ。
ってか、アルベルトなんか完全に主人公じゃないですか。仇敵のパウエル神父とか、ラスボス裏ボス黒幕ボスで鳴らしまくってる例のアレが正体でしたし。
絶対に勝てない可能性0%を覆す、その勝ち方とかもうどう考えてもこいつ主人公でしょう。
リィエルにしてもそうですよ。王道と言えば王道なんだけれど、リィエルという少女の初登場からこっち長く長くその成長を見続けてきた読者としては、彼女の選択とそこから勝利を掴んでいく過程、自分のアンチテーゼと真っ向から正対し、乗り越えていくその姿は、まさにリィエルというキャラクターの集大成でもあり、感無量以外のなにものでもないのであります。

そして何よりイヴ・イグナイト。いやもうずるいよ。リディアという姉を通じて繋がった姉妹のヨスガが最後の勝利のピースを手繰り寄せる最後の一手になるというのも、ずっとイリアの動向を有耶無耶にしていた甲斐があったというもので。
それ以上に、もう絵面というかイヴの覚醒が映像的に絶対に見てみたかったほどにド派手なんですよね。もうこれ、人間活火山の大噴火というか、イヴってゴジラだったのか、とでも言いたくなるような火生三昧。ただでさえクライマックスバトルで熱量が上がってたというのに、イヴ一人で温度あげまくるあげまくる。他の面々も人間辞めてるかのような暴れっぷりでしたけれど、イヴはこれもうやろうと思ったらあんた一人でフェジテの街一瞬で焼き尽くせるだろう、ってくらいに覚醒していて、いやもうなんていうか、凄かった。
それでいて、最後までヒロインの座を譲らないと言いましょうか。遥か数千年の過去でグレンが出会ったイグナイトの始祖の少女。あの出会いがただの血の縁として繋がるのではなく、ダイレクトにイヴに血に刻まれた記憶として投げ渡されるとは想いませんでした。あれで明らかにイヴにブースト掛かりましたし、過去の出会いはあれただの感傷となるエピソードじゃなかったんだなあ。
てか、イグナイトの魔法って言うたら初恋の炎の魔法と言っても良かったのかもしれない。それが巡り巡って最後に行き着いた果てでイヴが受け取り、その人グレンが戻ってくる場所を守るために結実した、というのは悠久の歴史を跨いで届いたわけで、ロマンティックこの上ないじゃないですか。

大導師フェロードが述懐してますけれど、結局彼ら天の智慧研究会の計画はほんとに片っ端から失敗したんですよね。この最終戦争にしても、戦争としてフェジテで決戦が行われてしまった事自体が彼らの計画からしたらあってはならない破綻の結果で、その強引な修正を目論んだ戦争ですら綱渡りに綱渡りを繰り返しながらも、イヴの天才的軍略によって完全に完膚なきまでに失敗してしまったわけである。
……いや、ここまで敵組織の目論見というか企みというか計画が完璧に防がれてしまった、というのはホント珍しいんじゃないだろうか。大概、敵組織の計画というのはなんだかんだと主人公サイドの行動で予定外の事が起こりながらも、結局は手の届かないところで粛々と進行して取り返しのつかない段階になって発覚し、という過程を辿るものなんですけど。
天の智慧研究会の計画が杜撰だったか、というとそんなことはなく、ほんとに用意周到に変に目立つこともせずに影に日向に陰謀策謀を繰り広げて、進めていたんですよね。
フェロードはグレンが全部悪い! と一人に責任を押し付けようとしているけれど、確かにグレンが起因となっていた部分は大きいですし、関係者たちが動き連携する要となったのは確かにグレンですけれど、アルベルトを始めとして女王陛下から組織の末端に到るまで文句なしに優秀な人員が揃っていたからこそ、なんですよねえ。とはいえ、その優秀な人員というのも最初からそうだったわけではなく、様々なエピソードが介在した結果望外の成長を見せた人、精神の変革を見せた人も少なくなかったわけで、こうした見違えた人たちが居たからこそ、天の智慧研究会の緻密で振れ幅余裕もあっただろう計画を破綻に追い込む要因になったんだろうなあ。
特に後半のイヴの天才的な軍略の手腕は、ほんと歴史に名を残す偉業というほかなく。この人一人でどんだけ敗戦確実な局面をひっくり返したんだ? と感嘆する他ないんですよねえ。

にしても、大導師さまはまさかまさか本当に最後の最後まで完膚なきまでに大失敗するとは、ここまで何もかも上手くいかない結果に終わるとは思わんかっただろうなあ。
最後の最後に自分が出張れば、今までの負け分を全部ひっくり返せる、と自負していたわけですから。
いやうん、グレンたちの帰還までは色んな意味で想定内でした。大盛りあがりでしたけれど。
魅せますよねえ。グレンたちが戻ってきたシーン。完全に映像で目に浮かびましたよ。映えます、映えます。アニメ動画なら、こういう構図だったんだろうなあ、というのが容易に想像できて、脳裏に再生できるような、実に見栄えのする魅せてくれるシーンでした。

そこから、さらにひっくり返してくるとはさすがの流石に予想もつかなかったけれど。
いや、絶対に彼、出てくるとは思ってたんですよ。絶対に満を持して此処ぞという場面で出てくるに違いない、と。まさか、此処ぞという場面が此処だったとは、ほんと予想してなかった。
どうすんの!? これどうすんの!? 次の巻どうなるの!?
ここまで火をつけまくっておいて、次回に続く、というのは小憎いにも程がありますw

にしても、何にしても、面白かったっ!! この一言に尽きますわー。