【ドラキュラやきん! 5】  和ヶ原 聡司/ 有坂 あこ 電撃文庫

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勤勉吸血鬼×ポンコツシスターの日常ファンタジー、第5弾!

ザーカリーとの一件で急接近した虎木とアイリス。
未晴たちに追及されながらいつもの日常を過ごしていると、室井愛花と同じく日中に活動する吸血鬼《デイウォーカー》についての噂を耳にする。
半信半疑でいたある夜の池袋、虎木はファントムに襲われていた少女・羽鳥理沙を救い出す。 鉈志と名乗る脱走犯……虎木と同じ力を使うこの男がその《デイウォーカー》なのか!?
吸血鬼――その深淵に迫るべく虎木たちは奇妙な脱走事件を追うことに。


未晴さんが、女性がしてはいけない顔をしていらっしゃる(挿絵
いやー、でも虎木の反応がねえ。アイリスからの告白に対しての虎木の反応が明らかに満更じゃないんですよ。
今のところは虎木は吸血鬼から人間に戻る事が最優先で、それ以外の事は考えられない。特定のパートナーを自分が持つ事も、何もかも自分が人間に戻ってからでないとはじめられない、とアイリスに対しても未晴に対してもちゃんと断ってはいるのだけれど、未晴に対してはバッサリとお断りの返事になっているのに対して、アイリスへの返事としてはどこか言い訳と言うか……。人間に戻るまでちょっと待ってください、的なニュアンスが感じられるんですよね。
その人間に戻るという目標も、長期目標じゃなく弟・和楽の健康状態もかんがみて近日中に何とかして、となるべく早い時期に急いで、という短期目標として絞っているのである。
将来の話としてではなく、近日中に結論を出すつもりがある、と見るのは決して間違いではないだろう。
この二人へのニュアンスの違いは虎木自身は自覚無いものかもしれませんけれど、未晴からすると焦る以外なにものでもないですわなあ。
自分のほうが先に好きだったのにぃ、しかもずっとアプローチし続けてたのにぃ、てなもんである。
だがかわいそうだが現実だw

尤も虎木からすると、いちばん大事な和楽の状態を教えられてそれどころではなくなってしまうのだけれど。いや、アイリスの告白を意識から外すことなんて出来ないから、相当精神的には色々と焦らざるをえない状況に追い込まれつつあったのかもしれない。色々と考えることが多すぎる。
そういう意味では彼は未だ怪物というには程遠いただの人間、のメンタルなんですよねえ。そりゃ、大人ですよ。十分大人の成熟した精神の持ち主だ。
でも、和楽や甥の良明と比べるとやっぱり若いんですよ。老成や達観というものには到底達していない。今更のようにアイリスの想いに動揺したりと、そういう所は遅れてきた青春というべきなのかもしれない。そういう若い時代を彼は経験する余裕なんてなく、ひたすら懸命に這いずってきた数十年だっただろうし、自身の吸血鬼という体の問題のこと以外では和楽の家族の事で精一杯だっただろうし。

吸血鬼モノの物語って、大概が人間から吸血鬼になる際の事件が主軸の話となるか、或いは歳を経て人間だった過去を遠い昔に置いてきた吸血鬼の話の場合が多いんですよね。
ところが、本作はそのどちらでもなく、それらの中間と言ってもいい時期の吸血鬼のお話だ。人間から吸血鬼になった者の、人間だった頃の家族がまだ生きている。
家族と一緒に生きている。一緒に暮らしているわけではないにしても、家族として良く連絡を取り合い家族として繋がっている。
それは時間の流れの中で置き去りにする者と置き去りにされる者がまだ、一緒に居ることの出来る時期。でも、そろそろその縁に差し掛かっている時期。
時間の流れの隔たりを、心に釘を打ち付けるようにして味わいはじめる一番つらい時期のはじまりだ。それまでだって、刻々と人間と吸血鬼の時間の流れの違いを味わい、離れていく辛さを味わっていただろう。虎木と和楽たちは、その辛さを踏まえてより強くキズナを結んで家族としてのつながりを深く強くしていったのだろうけれど、だからこそ余計に辛いものがある。
虎木の焦りは、ほんとよくわかるんですよね。
デイウォーカーという存在を知った時の虎木の並ではない動揺は、それだけ焦りの強さを物語っているのでしょう。
一方で、デイウォーカー騒ぎを引き起こした連中の根源にあったのも、自分たちを吸血鬼にした存在への恨み、人間社会への強い未練。そして残された家族への苦しい思いがあったわけで。
これは怪物としての暴挙じゃなく、むしろ人間としての執着が起こした出来事だったと言えるのではないでしょうか。一方で、人間への未練をそれほどに強く残しながらも、それにしがみつくために人間性をかなぐり捨ててより怪物のように精神を変容させていく皮肉さもまた然り。
虎木たちとは裏腹に、家族としての繋がりをずっと保ちながらも、その関係性がいびつに変化してしまっていた子もまた居たのです。
彼女の兄がこれまで、どんな思いでこの娘と一緒に居続ける人生を選んだのか。人生の大半を費やしたのは間違いないのです。逃げられなかった、と言うべきなのかもしれないけれど、彼女を残して去らなかったというのも確かです。彼女の方もまた、彼のことをイラつくと一瞬だけ本音のようにこぼしていました。ただのモノ、道具扱いならそんな事思わないんですよね。彼女にとってもずっと拠り所で在り続けたんだろうなあ、と思うわけです。
でもいつか、この娘もまたそんな肉親を喪う時期が訪れる。それをどうやって乗り越えていくのか。
生きて行くのか。
虎木だって、もし今人間に戻れたとしても、和楽との数十年に及ぶ年の差は如何ともし難い。もし和楽が今の病気を克服できたとしても、いずれ先に行くのは向こうの方だ。別れはもう必然なのです。

ただ、和楽の方はもう焦ってはいないように見えるんですよね。警察を退官した当初は、公安に目をつけられるほど脇目も振らない動きを見せていたのを見ると、その頃は随分と焦っていたようにも思えます。定年退職するような年齢を迎えて、兄を一人残していく時期を実感として痛感したのかもしれません。でも今は、兄虎木を託せる相手が出来たことで随分と安心したようにも見えるんですよね、和楽長官。
アイリスはそのへんも和楽と話してて、全部背負いつもりでいるんだろうな、というのが伺えます。強い強い覚悟があって、虎木と寄り添って生きていこうと考えている。彼女のそんな姿勢は、やっぱり虎木にとって嬉しいんだろうなあ。もう挨拶のキスくらいではほとんど動じないようになっていたのを見ると、虎木の方も……ねえ? というか、表紙絵見たらだいたいなんかわかるじゃないですかw