【フシノカミ 7 ~辺境から始める文明再生記~】  雨川水海/大熊まい オーバーラップノベルス

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本を守り、意志を繋ぐ。

『古代文明の伝説にあるような便利で豊かな生活』を今世に取り戻すため、文明の再興を続けるアッシュ。
その活動拠点となるサキュラ辺境伯領を襲った人狼の群れを、研究所の成果によってアッシュたちは殲滅する。
そんな彼らに届いたのは、隣領の壊滅とそれに伴って大量に発生した難民がサキュラ領に押し寄せているとの報せだった。
難民の受け入れと隣領の再生を決断した領地改革推進室だったが、前例のない事態の上、圧倒的な物資不足により無理難題に思われた……。
しかし、決して不可能ではない。
廃村の危機から村を再興した経験を応用して難民を受け入れ、技術交換や留学を機に築き上げてきた人脈を駆使して人材を手配する。
さらに、王都ではアリシアが神殿に協力を仰いで物資を支援し――。
領地改革推進室の一同は、崩壊した領を再生し、人々を救うため奔走する――!
理想の暮らしを手にするため、世界に変革をもたらす少年の軌跡を紡いだ文明復旧譚、第七幕!


堂々の完結。どれほど激しく文明が崩壊し、長く長く暗黒の時代が続いても、人という種が続いている限り、いつか世界には火が灯る。叡智は、紡がれていく。
この世界には、再現性こそ失われて伝説としてしか残ってはいなかったけれど、かつてあった文明の知が多く多く書籍という形で残されていたんですよね。
それにも、ちゃんと理由があったんだなあ。どれほど強固な意思をもって文明を後代に託そうと叡智を尽くしたのだろう。彼らが、そのいつかに世界を届けるためにどれほどボロボロになりながら、託されたものを繋ぎ続けたのかを思うと、胸が熱くなるんですよね。
そして、アッシュに到るまでのどれほどの不死鳥たちが、自らを灰へと焼き尽くしながら、いつか来るだろう復活の日のために、記録を残し続けたのか。
そう思うと、アッシュは最初から独りではなかったんですよね。最初から、託されたものを受け取ることで無数の意思を、願いを、受け止めていた。
そして彼はそれを一人でやろうとはしなかった。賛同者を見つけ、協力者を募り、同志を見出し、仲間を集め、野望と志を同じくする者たちを育んでいった。
希望の灯火となり、暗闇に火をともし、続く人たちの先頭に立ち続けた。そんな彼についていくだけじゃない、追いついて横に並んで、助けるんじゃない一緒に引っ張っていこうとしてくれる人たちまで現れてくれた。
アッシュというムーブメントに巻き込まれ、期待し、いつしか一緒になって世界を動かすうねりの原動力となってくれる人々の群れが、増えて広がっていく。文明を照らす灯火がいくつもいくつも増えていく。
それでも、アッシュという凄まじい輝きは衰えることなく周りを照らし続けていたけれど、それに負けないいくつもの光が彼と一緒にはしゃぎまわって、世界を引っ掻き回していく様子は本当に楽しかったです。

でも、そんな光を厭う人たちも現れてしまうんですねえ。アリシアは結局、王都側をも巻き込むうねりにはなれなかった。先を見ず、足元しか見ない自分の立場だけを守ろうとする旧弊が、彼女や辺境の波に乗るのではなく、遮る壁になろうとする。
公私混同の最悪の一つを見てしまいましたね。公の立場を私を利するために利用うるってのは最悪も最悪だけど、公の立場と私の立場を中途半端に曖昧に解釈して、その時その時に都合の良い方の立場で対応しようとするのって、一貫していないし公私のどちらの利益にもならず当人の気持ちが楽になるだけ、という意味でホントに最悪なんですよねえ。しかも、大概にしてそういう人って公私を分けてちゃんとやってるつもり、の場合が多いし。
王子も自分勝手で酷かったですけれど、今回の場合は王様の方が何につけても中途半端で自分の気持ちが楽になる方なる方へと逃げてばかりで、それが事態を収集のつかない形に追いやってしまったかと思います。
アッシュが本気になってぶち壊そうとすれば、王都側の保守勢力なんて鎧袖一触だったんでしょうけれど、辺境勢力による反乱なんて無駄なリソースを費やす必要も感じられず、文明復古を辺境中心に行うことで、文明文化の中枢を辺境側に移動する方が簡単だったという判断だったんでしょうねえ。
歴史の岐路は、アリシア王女殿下が降嫁して辺境へと降ったことで、もう分かたれてしまったんですね。世界の発展進化の重心は辺境へと移り、王都側はただただ衰退していく側になってしまった、と。

個人的には、アーサーが帰ってきたら女の子になってた、しかも王女様、という疑似TS展開にびっくり仰天ひっくり返る面々の姿を見てみたかった所ではありますけれど。そのへん、サクっと流されちゃいましたし。

本を開くことによってはじまった物語は、本を閉じることでひとまずの終わりを迎える。
アッシュの前世というか、古代文明時代の記憶がどうして残っていたのかについても、明確な答えが示され、文明の復活は成ったことが確約され、役割を果たしたものたちは安心して眠りについていく。
じんわりと胸に染み入るような終わり方で、よき幕引きでありました。意外とこう、ストンとああ終わったなあ、と感じ入る余韻の響くエンディングってなかなかお目にかかれないのでねえ。
なあ、アッシュ個人に関しては最期までゆっくり眠ろうなんて発想なかったみたいですけれど。何なら、永眠してもあんた全然寝てないんじゃね?という疑惑までありそうでしたけれど。
大人になってもジジイになっても、このやろう全然変わらないどころか余計にはっちゃけていたみたいで、子孫の苦労が伺えます。この世代、マイカのみならず往々にしてアッシュと同類と化してただろうから、次世代以降は大変だっただろうなあw

あとがきを記す編纂者さんのコメントというか、お話がこれまた面白くてねえ。この方の口から語られるアッシュのエピソードがまたすごく面白いんですわ。なんなら、この編纂者さん主体のアッシュの人生を各地を旅行しながら辿る紀行文みたいなのでも読んでみたいくらい。
書籍版では、マイカやアリシアなどヒロインたちや脇を固める人たちの視点による話も多くあって、アッシュの居ないところでもそれぞれ激動の働きをしてたんだなあ、というのがよくわかって、作品全体をより盛り上げる形に、物語そのものを大きく膨らます感じになっていたように思います。
彼女たちがどんな思いでアッシュを追いかけ、そうして追いついていったのか。それが綴られるのもまた、本であり、本を読むことで明らかになり伝わる想いもあるんですなあ。

なんか、本編が終わったあとも結構なペースで断章が書かれていたみたいなので、まだ何らかの形でもう一冊本が出てもおかしくないくらいのストックはあるんですねえ。できれば、これも書籍で読みたいところです。
なんにせよ、物語の完結、おつかれさまでした。大変、楽しかったです。ありがとう。