【「美人でお金持ちの彼女が欲しい」と言ったら、ワケあり女子がやってきた件。】  小宮地千々/ Re岳 GCN文庫

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福岡のある大学に通う志野伊織(童貞)は、家族に漏らした不用意な一言から、
学内の有名人である天道つかさと婚約することに。

美人で、お金持ちで――でも「誰とでも寝る」と噂の婚約者に引き気味な伊織と、
そんな彼にグイグイ迫るつかさ……二人の明日はどっち!?

「恋する意味」を問いかける、“ちょっとオトナ"な婚約破棄系ラブコメ、開幕!



ヒロインの天道つかさはビッチである……いや、びっちって言ったら伊織くんに怒られるのか。
根も葉もない噂、などではなく実際に三桁(当人は三桁までは言ってません、ギリギリ!と主張しております)の男性経験を持ち、男遊びしまくっていた実録の持ち主天道つかさ。
まあなかなかいないですよね、これだけの経歴の持ち主がヒロインというの、ライトノベルでは。もともと、小説家になろう系列でも18禁の小説が載せられるノクターンというサイトにて掲載されていた作品なので、そのへん大胆に踏み込んでるんですよね。
このつかささん、家庭の事情から来る精神的負担を紛らわすために、もうどうせマトモな恋愛なんて出来ないんだし、遊んじゃえー、とハッチャケて後腐れない男相手に遊びまくっていたのですが、なんていうんだろう……後ろめたさでグジグジしない女性なんですよね。
自分でもちょっとやっちまったなあ、とは思ってるんだけれど、自分を蔑ろにしたという点については反省はしつつも、90何人とワンナイトプレイし続けた件そのものについては後悔はしてないんじゃないかな。セックスそのものについても、気持ちよくて好き!と公言してらっしゃいますし。
とはいえ、開き直って何が悪いか、と居直ってるわけでもないんですよね。伊織くんと婚約する事になって彼個人の事を非常に気に入って以降は、ピタリと男遊びを辞めているわけですし、自分の行状を包み隠さず伊織くんには伝えているけれど、その件について謝る事はしていないしかと言ってマウントを取る武器として振り回すわけでもない。あるがままの自分を曝け出した上で、すごく一途に熱烈に伊織くんへとアプリーチし続けるのである。

対して伊織くんはというと……「あ、無理」。バッサリである。
理由は性道徳の価値観の不一致。いやまあ確かにそうなんだろうけれど、オブラートに包むとかしないの? しません。
この男、情け容赦がないというかツレナイというか、思った事をズバズバとそのまま言ってしまうので、なかなか強烈なのである。とは言え悪意や皮肉が籠もっているわけでもなく、あくまで率直な感想であり意見であり、正論であり彼の発言によってつかささんが滅多切りの八つ裂きにされても、それは彼女のこれまでの行状が起因しているので反論し難く、つかささんはそのたびに野に骸を晒してノックアウトされるのだけれど、毎度のつかささんの反応というか切られ方が実に見事で面白いんですよねえ。
いや、ほんとに良くめげないよね、つかささん。確かに言われるつかささんが自業自得なんだけど、あそこまでバッサリと拒否られたら心折れそうなものなのに、全然へこたれずにやられるたびに立ち上がって向かってくるそのバイタリティは敬服に値します。メンタルまじ強なんだよなあ、つかささん。
伊織くんも最初は無関心故の辛辣な物言いだったのが、途中からつかささんの反応の良さがあまりに素晴らしいものだから段々と楽しくなってきて、意図的に弄りだしはじめてますしね。
それをつかささんも明敏に察して、徐々に以心伝心の掛け合いになっていくのがまたとてもおもしろいのである。
伊織くんも自覚あるんだけれど、この時点で伊織くん、もうつかささんの魅力にやられはじめてるんですよね。性への観念がぶっ飛んでいてちょっとお付き合いするのは無理ー、と思う以外は実は伊織くんの好みどストライクなつかささん。魅力にやられはじめるどころか、途中二、三度水着やなんやで意識飛ぶほどもってかれているわけで、めげずに食いつき続けたつかささんの完全勝利なんだなあ、これ。
まあつかささんも見る目高いです。この伊織くん、確かに変人もいいところで物言いが率直すぎるきらいもあるのですけれど、根っこの所で非常に紳士ですし女性の扱いうまいんですよねえ、無自覚ですが。
つかささんに対しての当初からの言動は冷たいと言えば……冷たくはないかな、雑ではありましたけど。いや、冷たいし辛辣だったよ!?
でも、つかささんの事を一度もビッチ呼ばわりしたこともなく、悪しざまに罵ったり悪口を言ったり、言葉にしなくても見下したり蔑んだり嫌悪したりといった事は一切していないんですよね。ただ淡々と事実を指摘して、ちょっと生理的に無理です、と主張するだけで……これ嫌悪じゃないですよね、単なる好みの主張ですよね?w
まあ確かに拒否する以上、ラインぎりぎりを攻めるような言動もあるわけですけれど、本気でつかささんが傷つきそうな発言をしそうになった際は、あっこれはいかん、とすぐに踏みとどまって謝りますし、その意味でも絶対に相手が傷つくことは言わないんですよね……フッてる時点で傷ついてる、事実を指摘されると傷つく、と言われるとまあ傷つけまくってるかもしれないが、と思わないでもないですが。
これ、まあ確かにめげないメンタル鋼のつかささんだからこそ倒れても倒れても立ち上がれましたけれど、普通のメンタルの女の子だと彼の率直なコメントはなかなか精神的に耐えられないものがあるかもしれません。つかささん自身も分析してますけれど、彼が自分はモテないと思ってる理由の大半はそこらへんにあるんだろうなあ。
その意味でも、つかささんとの相性はピッタリだったのかもしれません。グイグイと攻めに攻めて攻めまくるつかささんと、そんな彼女を逆に撃退し振り回し弄って遊んでいた伊織くんが、その魅力にアテられていき、いつしか抜け出せない沼にハマっていくかのように天道つかさという女性に溺れていく様子は、素晴らしくラブコメしていて本当に楽しかったです。

そして本当の意味で天道つかさという女性にのめり込んでしまった時。志野伊織という青年がつかさという女性と関わることになった最初に怖れ危惧し彼女と距離を置こうとした理由である、女性経験のなさ、童貞ゆえの面倒臭さ、彼女の男性経験の豊富さに対して醜い感情を抱きかねない怖れが、伊織くんを苛みはじめるのである。
本質的に彼女に対して無関心であった頃とは劇的に異なる、惚れたが故の彼女との価値観の違いの痛苦。まあそこに苦しみを感じてしまう事こそが女性経験のなさの露呈なんですけどね。自己分析出来ているにも関わらず、そういうのは処理しきれないんだよなあ。
とはいえ、そこで引け目を感じてたり後ろめたさを抱えてたりしていないつかささんの強さである。こういう場合、女性の側も後ろ向きだったりすると色々と拗れるんだろうけれど、この女性は本当に強いよなあ、素敵である。
まあ伊織くんも最終的に押されっぱなし、持っていかれっぱなし、などではなく、つかささんが家の人に行状がバレてヤバいことになった際など、ササッと積極的に動いてつかささんの立ち場を回復して守るわ、長年彼女を迷走させた実家の問題をパパッと根本から解決してしまうわ、あかんこんなん惚れてしまうやろう、とつかささんがさらにメロメロになってしまうだろうアレコレをさらっとやってのけているので……まあお互いにドツボにハマったんだろうな、これ。
肉親、一族とくらべて自分だけモテないと自認してる伊織くんだけど、いやそんな事無いよ。祖父さんとかとそっくりじゃん。こいつ、本質的にめちゃめちゃモテるタイプの男だぞ。
まあ、あれだけ華麗につかささんの周辺を解決しておきながら、そのままサッと帰ってしまって連絡もせず完全放置してたあたり、釣った魚に餌はやらないヒドい男であるのも間違いなさそう。
そこでしばらく待ちぼうけくらって放置されてた件について、ブチ切れて向こうからドア蹴破る勢いで襲撃してくるつかささんとは、本当に相性ピッタリだと思いますよ。
ちなみに、つかささんはピタリと男遊びはしなくなりましたが、セックス自体は大変に好物なので伊織くんを完全陥落させた暁には、これまで相手してくれなかった分の欲求不満は全部彼にぶつけることになります。ノクターン出身の作品なので、そっちの描写もしっかりあるので読む際にはご注意を。
いや、まったく本当に楽しく素敵な二人でした。続編あるんですよね、伊織くんの冷酷非情なコメントがまた聞けるのが楽しみです。