【魔女と猟犬 3】  カミツキレイニー/LAM ガガガ文庫

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“鏡の魔女”テレサリサと“雪の魔女”ファンネルは、キャンパスフェローの女騎士ヴィクトリアと共に船に乗り、大陸を南下していた。
そして、彼女たちの傍らには、九使徒の一人・召喚師ココルコとの死闘で酷い重傷を負ったままファンネルの魔法で凍らせた黒犬ロロの身体――。

一行が向かっているのは共和国イナテラの<港町サウロ>。大陸最南端の町だ。
そこには、とある人魚のおとぎ話が伝わっている。大切なものと引き換えに、どんな願いも叶えてくれる“海の魔女”が登場するのはその物語だ。
“海の魔女”には、死にかけた男を蘇らせたという逸話もあった。
肉体に何らかの変化を作用させる魔法の使い手なら、ロロの重傷を癒し、瀕死の状態から復活させることができるかもしれない。
だが、“海の魔女”は、イナテラ海で名を馳せる海賊の一人だ。
海を行き来する貿易商人や探検家たちにとって彼女はまさに海の厄災。話が通じるかどうかもわからない相手だった……。
一方、王国アメリアもまた“鏡の魔女”たちが船で南下中との報告を受け、九使徒たちが行動を開始していた。
「このライトノベルがすごい!2022」にもランクインした、超人気ダークファンタジー第3弾!



ロロがいない。主人公は死んでしまった。いや、正確には死の寸前で氷漬けに保存されて仮死状態になっているのだけれど。片手は切り落とされ、胸には剣を突き立てられた状態で、それを死体と言わずに何と言うのか。
物言わぬ仮死体となったロロは、でもかたや海賊からはお宝として、かたや9使徒からは連絡を立った仲間の手がかりとして追われることになってしまう。運ぶテレサリサは大変だ。
物言わぬ主人公でも、話の中心近くに居る以上ちゃんとこれ主人公やってるんだろうか。さすがに無理筋じゃない?
というわけで、主人公居るけど不在の第三巻である。
主人公居なくても話は進むの? と思う所だけれど、ロロを死ぬ前に治癒させるために彼を回復させる手段を有すると思われる海の魔女を探して女騎士ヴィクトリア、雪の魔女ファンネルとともに港町サウロを訪れる。
主人公はテレサリサが引き継いだのだ! というわけでもないんだろうけれど……いや、真面目な話どうしてテレサリサはロロを生き返らせようとしてくれてるんですかね? 別に彼女はキャンパスフェロー王国に思い入れなんてないだろうに。そりゃ、アメリア王国に対抗するためにはロロたちと協力するのが早いけれどもさ。どちらかというと、ロロ個人に対してテレサリサはなにか思い入れているようなんだけれど、その感情関係性がいまいち見えてこないんですよね。色恋沙汰ではないのは間違いなく、本当にただの義理なんだろうか。それにしては頑張りすぎているような気もするのだけれど。
その点、ファンネルの方がまだ単純バカな分、彼女の理屈はわかりやすい。徹頭徹尾戦士の理屈だ。

ファンエルはあの閉じこもっていた氷の城から出たことによって、閉塞から解き放たれてむしろそのキャラクターが開放されたような気さえしますね。彩度が増したというか、ネルという子がどういう子なのか、どういう規範理屈で動きどんな感情の動き方をするのか、というのがいろんな人たちと関わることでよりわかってきた気がします。
どこか陰鬱だった雪の国の人たちや、故国を滅ぼされて悲壮感たっぷりだったキャンパスフェローの面々に対して、このイナテラ共和国の海に生きる人たち、海賊連中は南国特有の陽気さとあけっぴろげな所、裏表のないカラッとした性格だったのが、愚直でシンプルであっけらかんとしているネルという魔女とうまいこと化学反応起こしてたんですよね。相性が良かったんでしょう。テレサリサたちと居た時よりも、海賊連中と一緒にいた時のほうがネルは生き生きしていたような気がします。
約束の結果とはいえ、ネルがブルハたちについて行ってしまったのは必然だったのかもしれません。

ともあれ、ロロという主人公不在の中で、テレサリサたちキャンパスフェロー組とブルハ率いる海賊団、そして地元で布教を続けていたルーシー教団の司祭たちと、外からやってきたルーシー教の九使徒二人。同じルーシー教でも、地元の連中と九使徒たちは密接に協力しているというわけではなく、むしろ九使徒を出し抜こうと地元のザリ司祭たちは動いていたので、実質四つ巴みたいな形でぶつかり合うことになっていく。
ただ、これまでのアメリア王国から現れたルーシー教の九使徒たちは情け容赦のない処刑人という感じで片っ端から殺しまくってた感じだったのに、今回のアラジンと帽子屋はあんまり積極的に殺すことを望まずにむしろ極力人死を避けるように動いていたり、と九使徒の中にも色々な人物がいるのだ、という事が伺える展開でも在りました。九使徒になるまでも、この二人は紆余曲折の経験をしているようですし。
敵ではあるが、一概に誰も彼もが話の通じない狂信者、という訳じゃないのだろうか。とは言え、このアラジンと帽子屋もそれぞれに信仰と信念を胸に秘めているようなので、話は出来ても和解ができるようにも見えないのだけれど。

こうしてみると、中盤あたりから海の魔女ブルハというキャラクターについてその人となりが明かされだした頃から、彼女の過去の事情とともに彼女が主人公となって話が動いていたような気がします。
テレサリサさん、わりと置いてけぼりだった気がするぞ! まあネル攫われるわ、ロロの腕持ってかれるわ、と大変だったのもわかるんですが。
人魚姫モチーフのストーリーラインだっただけに、いわゆる人魚に声と引き換えに人間の脚を与えてあげた魔女こそが、ブルハのテーマだったのはわかっていたんですが、その童話をこういう形で再編してくるとは……。
見てくれ、怖いヤンチャしちゃってるヤバい系姐さんなブルハですけれど、本来は心優しく大人しい感じの末っ子系少女だったのか。恋に恋する乙女だったのかー。
……何気に、実は妹属性の持ち主というあたりはびっくりなんだが、普段の姐御なキャラの裏に本来そういう側面があるというのは、なかなかギャップ萌えなんじゃないですか?
とはいえ、今のブルハはかつての自分、人魚を殺してしまった海の魔女なんですが……これ、いざあの人と再会したときはハルカリとして会うことになるんだろうか。海の魔女、最後にはテレサリサに名乗る際、ブルハじゃなくてハルカリって名乗ってるんですよね。ザリと決着をつけたことで、或いはかつて自分を裏切っていたと思っていた人が本当は裏切っておらず恋に殉じた事を知って、なにか自分のなかでケリがついたんだろうか。
いずれにしても、もう一度情緒ぐちゃぐちゃにされそうで、それはそれで楽しみ。

しかしカプチノ、無事で元気だったのはいいんだけど、この娘なんで一人で珍道中やり続けてるんだ? 確かに苦労しまくってるんだろうけれど、なんか一番楽しそうだぞ。いやそんな事言ってるの本人が聞いたら激怒しそうだけどさ。いじられ系のトップランナーだな、カプちゃん。