【魔弾の王と凍漣の雪姫(ミーチェリア) 10】 川口 士/美弥月 いつか ダッシュエックス文庫

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ファーロン王の肉体を使って地上によみがえり、ブリューヌを奪うと高らかに宣言した始祖シャルル。
ティグルたちは彼に奪われた城砦を取り戻すべく軍を進めたものの、城砦は焼かれ、シャルルには逃げられてしまった。
ティグルは敵の狙いが自分たちではなく、王都ニースであることを見抜く。
急いで引き返そうとするブリューヌ軍だが、ある事情からティグルたちはザイアンに軍の指揮を任せて、独自の行動をとる。
その先にはおもわぬ出会いが待っていた。
一方、シャルルはガヌロンとともに王都を目指し、両者の争いの裏で、アーケンの使徒たちもひそかに暗躍する。
かつてない強敵に挑むティグルとミラ。刃の輝きと鬨の声が、王都に迫る。


今回の主役はもうどうしようもなくガヌロンとシャルルでしたなあ。
二人の世界。二人の友情の物語だった。
こうしてみると、シャルルって本当に一兵卒からのし上がって王様になった戦乱の時代のカリスマなんですよねえ。自由で奔放。枠に縛られず、悪童がそのまま大人になったような太陽だった。隠者だったガヌロンを表の世界に引っ張り出すほどに。
ガヌロンは楽しかったのでしょう。本当に楽しかったのでしょう。ついぞ、それを忘れられなかった。
一国の王様になったような男が、それも今死の世界から蘇って後世の自分の子孫たちの国を奪ってやろうと兵を起こしている最中に、気まぐれに農家に泥棒に入って主に見つかって逃げ回る、みたいな事を稚気いっぱいにやらかしてるような、ほんとに子供みたいなところのある男なんだよなあ。
でも、それこそが魅力なのでしょう。ガヌロンはこの男がそこまで好きだったのだ。
……シャルルがわざわざ今そんな果物泥棒みたいな真似をガヌロン連れてやったのは、それなりに思う所あったんだろうなあ。多分、もう最初の方からシャルルはわかっていたのでしょう。ガヌロンがもう手遅れだということは。それでも未練だったんだろう。自分の前ではかつてと変わらないように見えるガヌロンを、信じていたかった。せっかく蘇って、今再び一緒に国取りという遊びに興じている。二人で馬鹿をやるという楽しさを、ずっと味わっていたかったのではないだろうか。
シャルル当人は、今更もう一度この国の王になる、という事自体にはそれほど執着みたいなものはなかったように見えるんですよね。それをガヌロンが願ったから付き合っているだけで。勿論、無理にやってるわけじゃなく、心底楽しみながらやっているあたりがこの英雄の無邪気さなのでしょうけれど。
でも、ガヌロンはやっぱり変わってしまっていた。魔物の思考に侵され、シャルルが望んでいるのが国王になるという結果ではなく、国を盗るその過程であったのを忘れて、どんな手を使ってでもシャルルが望まないやり方でも無理やり通して叶えようとしてしまった。
シャルルとしては、かつての昔、自分とともに戦った頃の気持ちをガヌロンが忘れてしまっていた事が悲しかったでしょうね。でも、そうなってなお、半ば魔物と化してなお自分との友情を忘れず、シャルルを王にするのだという一念は決して変わらなかったことは、二人の友情が終生どころか死してなお、魔物となってなお変わらなかったという事なのでしょう。
シャルルとしては、かつてガヌロンが魔物を喰らい、そしてちかった約束を果たすことこそが、この親友の友情に応える最後の術だったのでしょう。
……普通、死人を蘇らせたりなんかしたら、どこか精神に歪みが生じたり在り方に異常をきたすものなんだけれど、シャルルが本当に考え方やら思考まで生前と何一つ変わらずに蘇ったのは、シャルル当人の精神の強さもあるんでしょうけれど、ガヌロンのシャルルともう一度会いたかったという願いの強さも感じるんですよね。別人となったシャルルではなく、かつてそのままのシャルルともう一度、という。
ガヌロンが満足してついに死ぬことが出来たのは、なんとも感慨深いものがありました。

もっとも、その過程でガヌロンがどれほどの人間に地獄を見せて、非業の死を撒き散らしていったかは筆舌に尽くしがたいのだけれど。
ドミニクさんは、あの人はちょっと可哀そうすぎましたよ。ただただガヌロンの正体と所業をティグルたちに伝えるためだけに、その正体を世に知らしめるために生きたような人生だったじゃないですか。義弟もボードワンも、彼女には平穏な人生を歩んで欲しかっただろうに。

さても今回は主人公であるティグルと、ミラがついに結ばれる最重要の回でもあったんですよね。ティグルが望み手を伸ばし続けた星へと、ようやく手が届いた念願の瞬間。一方でティグルが国の重要人物となっていくことで、逆にミラの方が今は戦姫だからいいけれど戦姫引退すると身分なくなってしまう以上、ティグルと釣り合わない立ち場になってしまうかも、という状態になっているのがなんともはや。
そこらへんの人間関係や身分立ち場の機微を見事に捉えて、レギンという強力な伏兵の存在を示唆しつつ、ティグルのシェアをミラに納得させたリュディの手腕がうなります。なんだかんだとリュディならいいか、とミラに受け入れさせてしまうあたり、ほんと人柄が軽やかというか、懐っこいというか。今回もわざわざせっせとティグルとミラの逢瀬の場をセッティングしたりして、人間関係の潤滑油となり鎹となり、と無くてはならない人になっているあたり、抜け目ないなあと感心するばかりです。

またザイアンくんは、相変わらず根っこに卑しさが抜けないんですけれど、それでも憎めないというか、いざという時の判断を間違えず、ビビリながらも勇気出す所は気合い入れて突っ込んでいくあたり、一皮剥けたよなあ、となんだか微笑ましく。そんな息子に影響されて、ティナルディエ公もちょっと野心の方向性を変えたのが面白いところでした。ガツガツと王座を狙うよりも、息子の成長の方を喜んで自分の野心に利用しようとせず、そのまま本人が望む方に伸ばしてやろうとしているあたり、実はいい父親だったんだなあ、とw

あと、なんだかんだと他国で大暴れした挙げ句にロランの貸与をレギンにもロラン自身にも受け入れさせて、その身柄をもぎ取ったギネヴィア女王陛下がもうなんか大したもんだ、と言わざるをえない感じでした。仮にも一国の国主がやりたい放題すぎだろう。ある意味シャルルよりも好き勝手してないか、この人?