【乙女ゲームのヒロインで最強サバイバル】 春の日びより/ひたきゆう TOブックスノベル

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剣と魔法の世界シエルで孤児として生きていた少女アーリシア。ある日、彼女は自分が“乙女ゲームのヒロイン"であると知ってしまう。両親の死さえ単にストーリーの一部だったのだ。アーリシアはヒロインの役割を「くだらない」と一刀両断すると、冒険者『アリア』を名乗り、次第に複数の武器と魔法を操る「殺戮【さつりく】の灰かぶり姫」へと成長していく! だが、“悪役令嬢"の護衛依頼を受けたことで、気付かぬ間に貴族同士が争うゲームの舞台に巻き込まれていき――? 「私は“私"だ。ゲームの登場人物じゃない! 」 武器を作れ! 技を鍛えろ! 強敵との戦いに生き残り、乙女ゲームをぶち壊せ! 戦うヒロインが魅せる、壮絶&爽快な異世界バトルファンタジー!


これ、主人公のアーリシア。途中からアリアを名乗り始めるこの娘は本来この世界の元となった乙女ゲームの正ヒロインとなるはずの子なんですなあ。
それが、ある転生者の魔術師によって魂を入れ替える邪法によって体を乗っ取られかけた事によって、転生者の記憶を植え付けられてしまう。必死の抵抗で意識までは乗っ取られずに済んだものの、彼女は自分がゲームなどという運命にいくつかルートがあるとはいえ人生そのものを縛られているのだと知ってしまった。愛する両親の死でさえも、今孤児院で人の尊厳を踏み躙られるような扱いを受けているこの苦しみも、すべて運命の定めるままに起こっている事なのだと。
ここで彼女、アリアは覚悟ガンギマリになってしまうんですねえ。本来なら乙女ゲームのヒロインらしく、清楚で健気で庇護欲を擽るような愛らしいキャラクターになったのでしょう。しかし彼女は自らの意思でそんな運命に反逆し、自分の意思で自分の力で生きていくことを決意する。それは熱い氷のような冷徹な覚悟。
自分を消し去ろうとする転生者の女を、逆襲で殺してしまった彼女は、次に自分を虐げる孤児院の経営者を殺害し、自分を縛り付けていた檻である孤児院を脱出して自由を得る。
そうして、小さな狼は解き放たれた。
これは、いうなれば貴種流離譚の一種なのだろう。でも、彼女は華やかなお姫様としての人生に自ら背を向け、運命に叛逆して生きるアウトローの人生を選んであるき出したのだ。
まさに、ハードボイルド貴種流離譚w
いや、まじで覚悟ガンギマリなんですよね。大人に頼らず、組織や集団に所属することもなく、一人で生きていく事を生き様として自らにもう刻んでしまっているのである。孤高なる狼のような生き様。
勿論、まだ十歳にも満たない子供である。転生者の知識を手に入れたと言っても、そううまく生きていけるわけがない。おまけに知識のもととなった魔術師の女は、けっこういい加減な人生を送っていたようで勉強とかちゃんとしてなくて知識不足な所多いんですよ。もっとちゃんと真面目に勉強しとけよ、チャンスはあったはずなのに。おかげで、知識のもとになっているにも関わらず、アリアからはかなり軽蔑され続けている。まあトチ狂って体乗っ取ろうとしてきた狂人なんで、敬意の持ちようがもとからないのですけれど。
孤児院で虐待されていた事もあって、大人に対する警戒心はとびっきりに高く信用など一切していないアリアなのですけれど、それでもお節介で浮浪児なアリアに色々と生き方や戦い方を教えてくれたり、対等に仕事を与えてくれたり、親切にしてくれる大人、技術や知識を分け与えて生きる術を教えてくれる大人たちとわりとたくさん巡り合うことになるんですね。そういう大人たちとの出会いが、冷酷非情の殺戮マシーンにでもなりかねない冷たい炎のようなアリアの心に、人としての心を、信義を大事にする行き方を刻んでいくのである。
一方で、敵が相手となったら躊躇なくぶっ殺しにいくのですが。

そんな彼女が出会ったのが、本来なら悪役令嬢として将来自分の前に立ちふさがる王女エレーナ。
ふとしたきっかけで臨時の護衛監視用の使用人として雇われ、資質を見込まれて戦闘メイドとしての教育を受けていたアリアと、その護衛対象として出会ったエレーナは、やがてお互いが自ら孤独を選び、運命に立ち向かい反逆し戦い続けることを自らに貸した、同じ存在であることを感じ取り合うのである。
それは友達でも主従でもない、でも同じ生き方を選んだ者同士。それは同類であり、きっと同志であり、唯一無二の仲間というべき存在であることを認めあい、そして彼女たちは誓い合うのだ。
いつか、一度だけその時の自分が持つ全能を使って相手を助けると、一度だけ彼女が望む相手を誰であろうと殺してあげると。たとえその結果として逃れられない死が待っているとしても。

或いは、このままアリアは戦闘メイドとしてエレーナと歩んでいく、というルートも想像し得たのですけれど、覚悟ガンギマリになってしまったアリアには、誰かの従者になることも国の暗部に所属するという組織の庇護下に入ることも選べる道ではなかったんですなあ。自由なる冒険者こそが、彼女の生き様。でも、このまま行くとどう考えても孤高の暗殺者路線まっしぐらなんですが。
習得していってる技術や戦い方なんかも、完全にそっち系ですし。初期メイン武器がブラックジャックというのも渋かったですが、終盤には繰糸からの縄鏢みたいな暗器を駆使して、という既にプロの暗殺者みたいな戦い方になってるんですよねえ。これで何気に魔術系統は光と闇で、回復魔術も使えるという聖女適性持ちでもあるんですが、正ヒロイン的な方向へは一切進まなそう。
もはや乙女ゲーらしさはかけらも……ってか、攻略対象の男性陣ほとんど出てませんしね! はたしてこのハードボイルド貴種流離譚はどうなっていくのか。いわゆる乙女ゲー的なハッピーエンドは既にまったく想像できない状況なんですけどね。