【手札が多めのビクトリア 1】 守雨/藤実 なんな MFブックス

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凄腕元工作員、夢に見た「普通(しあわせ)」な人生を楽しみます!

各国で工作員が暗躍する時代、とある国――ハグル王国の工作員クロエは、類まれなる変装技術と体術で、難しい任務さえも次々と完遂する日々を送っていた。
しかし、上司の裏切りをきっかけに彼女は組織から忽然と姿を消してしまう。なぜならクロエは、隣国アシュベリー王国の一般市民ビクトリアとして、夢に見ていた「普通(しあわせ)」な人生をやり直す計画を立てていたのだ。
そんなビクトリアはセカンドライフ初日にとある少女を保護したことで、想定外だが幸せなスタートを切り、多くの人々と関わっていく。
新天地で彼女は歴史学者の助手・語学の先生・凶悪犯の脱獄補助と、工作員時代に培った経験と才能を活かして大活躍!!
一方でビクトリアの強さに興味を持つ第二王子や組織の追っ手など、手札が多い彼女に対して迫る影も多く――!?
アクションと心あたたまるビクトリアの人生修復物語、ここに開幕!!

これ、てっきりビクトリアの事まだ十代の少女なんだと思ってたんですよね。表紙で一緒に映っている女の子は同級生か何かで大事な友だちになっていく、どちらかというと百合寄りのお話かなあ、と。
ところがである。このビクトリアさん……もう27歳の立派な大人の女性じゃないですか!
諜報組織から抜け忍よろしく脱走した彼女。このまま他国の学校に潜り込んで、普通の学生生活を送るのだと思いこんでた、思いこんでたよ。もう学生なんて歳じゃない以上、そりゃ普通に働かなきゃいけないですよね。
とはいえ、現代と違って後ろ盾のない外国人の女性の一人暮らしとなると、働き口を探すのも大変じゃないか、と思ってしまう所なのですが、そこは元凄腕工作員。脱走計画からして、まず脱走したと思われない失踪の仕方をした上で、ちゃんと他国で生活していく上での算段は整えてあったのである。
予想外であったのは、訪れたアシュベリー王国で生活基盤も確保していない初日も初日に、親に捨てられた小さな女の子、ノンナを保護してしまった事なのでしょう。
そのまま現地の公的機関に預けるはずが、幼い頃に別れ別れになった妹の姿を垣間見て、思わずノンナを引き取ってしまうビクトリア。
……百合寄りどころじゃない、血の繋がらない母子モノだったのか、これ!?

潜入工作でも辣腕を奮ってナンバー1の座を不動のものにしていたビクトリアである。気難しい老未亡人に気に入られて住む所を確保して、これまた気難しく頑固で使用人が定着しなかった老言語学者にもノンナ付きで気に入られて、仕事もゲット。
そうして生活基盤を手に入れたビクトリアは、ノンナと二人で暮らしながら日々を謳歌していくのである。
本来、逃亡者であるビクトリアにとってノンナという存在は余計なお荷物でしかないんですよね。常に追跡者の事を考慮におかなくてはならず、自分の正体についても知られてはいけない彼女にとって、フットワークの軽さ。いざとなれば、すぐに姿を消してしまえる身の軽さは必定のものだったはずなのだけれど、敢えてノンナの事は重石であろうとなんであろうと置いていかず、一緒にどこまでも連れていく覚悟を抱くに至るのである。それだけ、この子に愛情を抱いてしまい、またノンナも自分を守り安らぎを与えてくれたビクトリアに、この上なく懐いてくれるのでありました。
また、ビクトリアは家主となった老婦人や、雇い主である言語学者やその一族と交流を深めていき、また街の中で出会った人たちとも親しくなっていきます。
それは工作員時代の仕事としての仮面を被った付き合いではなく、色々と偽りはあったとしても心から親愛を傾けあった関係。いざとなれば捨てていかなければならない関係でありながら、情が湧き未練が生まれ、この街そのものを愛おしく思えてくる。確かにこのアシュベリー王国の王都はビクトリアの居場所となっていくのである。
本来なら目立たずひっそりと生きていかなければならないのに、何かと工作員時代のスキルを活かして人助けの為に暗躍してしまったり、ついつい目立つ真似を辞さずに動いてしまったりするのは、工作員としては完全に失格だったのでしょう。現役時代ならまずしなかった真似を、今こうして度々繰り返してしまったのは、それだけ彼女が心赴くままに振る舞った結果。自由に生きると決めた結果だったのでしょう。
ノンナの願いもそこに含まれてたかもしれません。ノンナと自分の生活を守るために、これまで以上にひっそりと隠れて生きようかと悩んでいたビクトリアに、ノンナは我慢に我慢を重ねた末に自分を置き去りにして失踪してしまった母親の姿を重ねて、我慢しないでほしい、と泣きながら願うんですよね。幼子なりの心配り、かつて自分の母には言ってあげられたかった言葉を、今母親として愛してくれるビクトリアのために勇気を振り絞って告げるノンナの健気な姿には胸打たれるものがありました。
ほんと、この二人の義理の母娘の様子はひたすらに尊い、尊い。
そんな二人が一緒に暮らすきっかけとなった事件で、彼女らを助けてくれたこの国の騎士であるジェフリーと、ビクトリアとノンナは穏やかな愛情を育んでいくんですね。
ビクトリアってほんと聡明で賢く愛情深く、それでいて性格は柔らかでピリピリしていなくて、一方で自律した女性として誰かに寄りかかることなく毅然とした生き方をしていて、ある種の女性の理想像なんだろうな、これ。
ジェフリーを含めて、この国で出会った人たちとの温かな交流は、家族を失い拠り所も居場所も失っていたビクトリアにとって、本当に大事なものだったのでしょう。
それは、ある事情からノンナだけを連れてこの国を離れなくてはならなくなった時により顕著にわかることになります。ノンナという大事な子供がいながら、ビクトリアはどんどん孤独に苛まれていくんですよね。寂しさに囚われ、不安定になっていく。ノンナが居たからこそ、なんとか自分を保てていた、と自分でも述懐するように。それだけ、幼少の頃から育てられ植え付けられた機関への所属意識は強く、殆ど洗脳レベルだったみたいですし。
でも、アシュベリー王国で暮らしていた頃はそういう様子微塵も出なかったんですよね。その頃の彼女は、生きる喜びを、楽しさを全身で表すように幸せそうにしていた。彼女にとって、ここで得た人たちとの関係というのは、それだけ大事なものだったという事なのでしょう。
いくつもの優しさが重なり合い、愛情の尊さを味わう事のできる良い物語でした。ビクトリアには、このままぜひ幸せになってほしいし、いつかはこの街に帰ってきてほしいものです。

しかし、ノンナはビクトリアによって英才教育受けてるものだから、後々えらいことになりそうだなあ。既に現状で同年代の子とはかけ離れた知能と身体能力を得てしまっているような気がするぞ。
あと、これ巻数表記ついてますけど、この一巻で完結ってわけじゃないのかしら。お話としては見事にこの一冊でハッピーエンドまで行ったように思えたのだけど、続くの?続くの?