【八城くんのおひとり様講座 After】  どぜう丸/日下コウ オーバーラップ文庫

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ぼっちとリア充、それぞれが旅する秋の鎌倉

「なあ八城。寅野さんと一緒に俺たちの班に入らないか?」
校外学習で古都鎌倉に行くことになった俺・八城重明は、リア充のリーダー格である羽鳥くんからそんな提案を受けた。
現地では別行動で良いという彼の言葉に甘え、俺とヌエこと寅野つぐみさんはリア充グループと一緒に鎌倉へと向かう。
鎌倉にてガールフレンドであるヌエとの時間、そしてひとりの時間を満喫する俺。
一方で“ぼっち術”を覚えたリア充グループのメンバーもそれぞれの思惑で行動しており、俺とヌエもいつの間にか巻き込まれて……!?
ぼっちの達人とリア充たちが紡ぐ最先端の青春ラブコメ、アフターストーリー登場!




おおう、今度こそ本作の真ヒロインであるところの寅野つぐみ、通称ヌエの表紙絵デビューだぁ!
ストーリーの構成上仕方なかったとはいえ、栄光ある第一巻の表紙は偽装ヒロインな花見沢華音に持ってかれちゃいましたもんねえ。
まあ一巻からヌエが表紙にどーんと居たら、それはそれで全部台無しになってしまっていたのですが。
でも満を持しただけあって、口元を文庫本で隠してはにかむ真ヒロイン様は大変可愛らしゅうございます。いや、まじで可愛い。
さて、本作は八城くんのおひとり様講座の第二巻でありつつも、巻数表記はなくアフターとなっています。「その後」ってやつですね。単なる後日談ではなく、アフターってしたのはやっぱり本題であるところの【八城くんのおひとり様講座】の講座、教授の部分が終了してしまっているからでしょう。もう教える事は何もない、あとは実践するだけだー。まあ、一巻で色々と実践してみて身につけてはいたのでしょうけれど。
その成果を存分に発揮するべく訪れた機会が、この鎌倉遠征、というか校外学習という名の遠足なのでありました。
……自分の頃も勿論校外学習ってありましたし、実際遠足みたいに日帰りで観光地とか訪れるイベントでありましたけど、こんな自由度はなかったよなあ。
完全に集団行動。修学旅行とかならともかく、校外学習では班で別れて自由に行動なんて全然出来なかった。ましてや、個人でぶらぶらなんてとんでもない話で、そんなんしてたら絶対教師飛んできて怒られたでしょうね……いや、そもそも集団行動だから、一人で行動ってなってたらはぐれてる、といことになるんですが。
昔は今は、という古今の違いではなく、単に学校の方針によるのかもしれませんけれど。買い食いとかアリえんかったですよー。いや、こういうのに関しては時代背景の違いはあるだろうなあ。

そんなこんなで、一緒に班を組んで鎌倉を歩くことになった八城くんとヌエ、そしてお一人様講座を受講して仲良くなった花見沢たちのグループ。これまで、八城くんの影に隠れて存在を消していたヌエと仲良くならんと狙いを定める花見沢華音たち。
でも、そこで無理にグイグイきて一緒に行動してワイワイするのが正義、という価値観から解き放たれたが故に、この子たち実に絶妙のバランスで接近してくるんですねえ。
一人になりたい子を一人にさせてあげるのは相手への気遣いである。でもそれはそれとして、仲良くなりたいという自分の気持ちを押し殺すのもまた違うだろう、ってことで白か黒かではなく、どちらの価値観も認めた上で、どちらも楽しもうという塩梅が素敵なお話でもありました。
無理に一緒に行動しようとするのも気持ちしんどいけど、一緒に遊びたいという気持ちを無理に押し殺すのも同じベクトルでしんどいですもんね。
こうして見ると、みんなで集まってワイワイ騒ぐのも楽しめて、また気分を変えて一人で自由気まま他人に煩わされずに好きなことをして過ごす時間も作れて楽しめる、という両方を楽しめることが出来るようになったら、それは人生楽しいだろうなあ。
いやこれ、なかなか難しいですけどね。その価値観を共有してくれる友達がいなかったら、成立しない話でもありますし。
そういう意味では花見沢さんたちは、自分から八城くんに教えを乞おう、なんて思う時点でなかなか得難い資質の持ち主なんですよね。八城くんたちが積極的に自分たちの価値観を布教したわけじゃないんだから。自分から、変えてみたい、色々と違った見方で楽しみを見出してみたい、と思ったからこその自発的な行動なんですからねえ。
そんな集大成である、この鎌倉観光は、錯綜した構成になってて話の転がり方じたい面白かったですねえ。
通常はあんまり推奨されない、視点の多発移動。いろんな登場人物にコロコロと視点が移るやり方をしているのですが、別にこういうのやったらダメってわけじゃないんですよ。頭から、こういうやり方構成はダメです、と決めつけるもんじゃないんだよなあ。
うまく構成に落とし込めれば、面白く読めるのならどんなやり方だっていいのです。そういう意味では、登場人物全員の視点に順繰りに移動しながらそれぞれの鎌倉観光の様子をそれぞれの視点から描いていく今回の描き方は、大変面白かった。一緒に行動する場面では同じシーンが被ったりもするんだけれど、それも視点が違うことで新鮮な見方が出来て面白かったですし。
途中まで一緒に行動して、じゃあここで別の所行くからバイバイ、と別れて行動して、また別の人と偶然に行きあって一緒にお店まわったり観光したりすることになって、とついて離れての入れ替わりも楽しかったですしねえ。
特にヌエと華音の道楽道中はヌエが八城くん以外とでも一緒に行動して、一緒に遊んでちゃんと楽しめている、距離感に疲れたり我慢したりせず、華音とのびのび過ごせていたのは、ヌエの歩み寄りもあったんでしょうけれど、華音のコミュ力の高さよ、と戦慄すら覚えるほどでした。
これで何気に一番一人でブラブラを楽しそうにしてるように見えたの華音でしたしねえ。あれほど物怖じせずに一人堪能できるのって、けっこう難しいと思うんだけど、すごい子だなあ。

みんなとワイワイだけでもなく、一人で自由に、だけでもなく。両方を好きなように好きに楽しめる、そんな価値観を共有し、違うスタイルも尊重しあえる関係。それなら、確かにちょっと生活の中の時間や空間が離れても、すぐに疎遠になってしまうのではなく、自由にまたいつでも会えるとなりますよね。生涯通じての友達、そんな関係になっていく彼らの姿はとても眩しかったです。

ラストの大人になってからのシーンも、とても幸せそう……という以上に人生楽しんでいそうでしたもんね。しかし、華音なんかは付き合えてる男とかいるんだろうか。もうこの娘、束縛強いとすぐ鎖千切って自由にどっか行ってしまいそうなだけに、器が大きくないと内に入ってくれなさそうだなあ。