【みんなのアイドルが俺にガチ恋するわけがない】 羽場楽人/らんぐ GA文庫

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女の子の本音は厄介でかわいい。
自分と向き合う、ちょっと不思議な分裂系(ギャップ)ラブコメ。

「君のように虹を浴びて影が勝手に動くことを、分裂現象と呼ぶ」
夜に虹がかかる不思議な島「夜虹島」では、虹に降られた者は自分の影(レプリカ)が勝手に歩き出す伝承がある。そんな島で俺こと瀬武継陽はある夜、自分の影(レプリカ)を追う元人気アイドル恵麻久良羽に出会った。分裂現象に悩む彼女を助けるために協力を申し出るも、
「男の人と馴れ合うつもりはないから」
と俺の話に耳を傾けない久良羽(オリジナル)。一方で……
「継陽くんだけは、アイドルのクラウが恋愛してもいい唯一の男の子」
俺へ好意を寄せるクラウ(レプリカ)。
まるで正反対な態度を見せる二人の久良羽(クラウ)は、どっちが本物の想いなのか――!?
女の子の本音は厄介でかわいい!?
恋を隠せないギャップラブコメ。



終わってみると、このタイトルってかの【俺の妹がこんなに可愛いわけがない。】みたいな、〜するわけがない(でも実際はそのとおりだよ)という反語表現ではなかったんですよね。
実際にはそうなっているのに、単に気づいていない鈍感さを示すものでも、信じられずに否定してしまっているというわけでもない。
タイトルそのままの意味ではあった。
でも、ヒロインの恵麻久良羽は主人公瀬武継陽にガチ恋することになる。
つまるところ、これは元人気アイドル恵麻久良羽が、ほんとうの意味でアイドルを辞め、一人の女の子として恋に生きることを選ぶまでの物語だ。

イベントで自らのファンの凶行によって心に大きな傷を負い、ステージに立てなくなってアイドルを引退して親族に縁あるこの島に隠遁……てのも変だけど、落ち着いて過ごすために島に越してきた久良羽。そこで、島について早々に彼女は自分に瓜二つの、しかし自分が捨て去ったはずのアイドルの振る舞いをする偽物と出会うことになる。
その偽物の正体はレプリカ。この島で、時折発生するという少し不思議なファンタジーの産物だった。
このレプリカという存在、というか現象の正体はよくわからない。いや、主人公の瀬武継陽。以前にレプリカにまつわる事件の体験者でもある彼が一応説明してくれるのだけれど……いまいちよくわからなかったんですよね。
ただ久良羽のレプリカ・クラウは彼女にとっての未練であり本音でもあり、無念でもあるようだった。望まずして引退せざるを得なくなったアイドルとしての自分。それが形となって姿を表し、久良羽に迫るのだ。自分に本当の体をよこせ。お前が思い描いた心傷つくことのない理想のアイドルである自分が、お前の代わりにお前の未練を叶えてやる、と。
レプリカとは、本物の体を狙い、本体に取って代わろうとする存在らしい。
その実際のサンプル例。以前にレプリカにとって替わられた成れの果て、それが主人公瀬武継陽なのだという。
なぜ継陽が、初対面見ず知らずだった久良羽がレプリカにとってかわられようとしているのを助けようとしたのかはわからない。何故か彼は使命感をもって自分と同じ存在が生まれることを阻止しようとしている。
なぜだろう。彼はレプリカだ。ならば、同じレプリカを肯定する側の存在なんじゃないだろうか。ところが、彼は常人よりも感情が薄く情動の乏しいどこか壊れたような人間になっている。
そんな状態が本体の継陽が本心で望んでいた姿だったんだろうか。そんな自分を彼は受け入れられず、今の継陽に乗っ取られたのだろうか。
レプリカの彼が本体を乗っ取ってとってかわった件については、そういう事があったのだと大まかな概要を継陽自身が語るばかりで、実際に何があったかについては殆ど語られることがない。関わった人間も幾人かいるようだが、皆それに関しては口をつぐんでいる。
なので、レプリカという存在のサンプルケースとしては継陽はあんまりアテにならないというか、よくわからないんですよね。
今の継陽と、久良羽のレプリカであるアイドル・クラウはちょっとキャラクターも違いすぎるし、そもそも本来アイドルやってた頃の久良羽のキャラクターとこのクラウってどれだけ似てるんだろう。
いや、このクラウってキャピキャピしすぎてて今の久良羽の原形が殆ど存在しないんですよね。全然別人じゃない? それは果たしてレプリカだからなのか、それともアイドル時代久良羽ってこんなキャラ作ってたのか。
過去回想的なものが一切なくて、アイドル時代の久良羽の描写も全然ないから、実際どんなもんだったのかわからないんですよね。
だから、このアイドル・クラウが久良羽と同一の存在とはあんまり思えなくて、彼女の本音・本心・未練・理想・諦め・無念といったものを具現化した存在と理解はしつつも、あんまりにも重ならないんで異形感、怪物感ばっかり強かったなあ。
これと向き合え、というのはちょっと怖いだろう。いつも一方的でまともに対話できるようにも見えなかったし。
そもそも久良羽は、今まで自分を支えてきた足場そのものが崩壊してしまっているような状態で、男性不信か他人を信じられないようになってる警戒しまくってるハリネズミみたいな様子だったんですよね。島に来た当初は。
よく継陽のことを信じてくれたよなあ。当然、最初はレプリカなんて意味不明な事を言いながら助けてやろうと近づいてくるもんだから不審者扱いだったのですけれど。
元レプリカだからか人として壊れた結果なのか、継陽が絶対に嘘をつかないからこそ久良羽は心開いたわけですけれど。さて、彼のどこに惹かれたのか。
それこそ、嘘をつかないところ? 決定的な恋に落ちる場面があったわけではなく、常に久良羽を助けようと駆け回ってくれる彼の姿を見ているうちに、て感じでしたが。
結局、久良羽は未練と決別し、無念を感じながら夢を諦めた結果アイドルを辞めるのではなく、新しく得た恋に生きるという道を選択することで、ようやくレプリカを、もう叶うことのない自分の夢を過去として受け入れることが出来た。
彼女はほんとうの意味で、みんなのアイドルである事を辞めたのだ。

「みんなのアイドルが俺にガチ恋するわけがない」

だが、アイドルではなくなった一人の女の子である恵麻久良羽にはそれはもう関係のない話である。