【おお魔王、死んでしまうとは何事か 2 ~小役人、魔王復活の旅に出る~】  榊一郎/ 鶴崎 貴大 講談社ラノベ文庫

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人類と魔族の戦争に終止符を打つために、人類との講和を求めながらも殺害されてしまった〈魔王〉復活のための旅に出たクレトたちは、魔族領域を馬車で進んでいた。いくつもの戦いを経て、〈魔王〉の墓まであと少し。そこで〈勇者〉メルダに変化が訪れる。すぐに塞がるはずの傷が、塞がらなくなってしまったのだ。〈勇者〉の無敵を保証していた各種法術に綻びが出たことは、彼女が人類最強の戦士でなくなることに他ならない。その理由は、彼女が恋をして、心や体に変化が訪れてしまったから。「恋」か、それとも「強さ」か。歴戦の将との戦いの中で、クレトはある決断を下すことになる。恋もバトルも最高潮の異世界ロードファンタジー第二弾!


あっさりこの2巻で完結。打ち切りに近い形なんでしょうけれど、キレイに話をまとめてちゃんと着地させているあたりはさすがベテラン作家さんだなあ、と感心させられるところである。
ストーリーだけを着地させてるんじゃなくて、メインの登場人物各々に対してもそれなりの心の決着をつけているところなんぞは特に。とは言え、丹念に掘り下げて、とは行かないもので。特に勇者メリダの心の成長。戦闘マシーンとして育てられ、というよりもこれ造られ、といった方が正しそうな歪な心の金型に収められた彼女の、恋をすることで人としての心が動き出した事へのアプローチを、強引に斬り伏せられてしまったのは、本当に悲しいことでした。
でもタイミングが非常に悪かったんですよね。クレトたちが敵中に捕縛という形で潜入して、魔王の復活と彼らの救出という重要な作戦をこなすには勇者のハチャメチャな力が絶対に必要という場面で、メルダの心が動き出したことで勇者の力が減衰してしまって、作戦失敗、パーティー全滅という瀬戸際に立たされてしまったときに、果たしてそれでも彼女の芽生えゆく心を守るべきだったのか。
クレトは現実的な判断として、涙を飲んで彼女の心、彼女の恋を封印することを選択したわけですけれど、それもまた役人としての現実主義か。いや、何が大事か、何を優先するべきかをちゃんと判断したが故の、誰にも否定できない決断なのだろう。
でも、ちゃんと余裕があったらクレトだって、メルダの成長を喜び、でも自分が対象であることに戸惑い困惑しながらも、ちゃんと向き合って答えを出すくらいの甲斐性はあったはず。答えをなかなか出せなくて、ミユリとメルダの間に挟まれてあわあわしている未来もあったはず。
でも、そんな悠長なことをしている余裕はなかったのだ。
きっと、巻数の余裕もなかったのだ。強引に物語に幕を引かなければならない余波として、メルダの成長を押し殺さなければならなかったというのなら、それはそれで大いなる皮肉な話である。或いは、2巻で完結になったからそこに分量割く余裕もなくなったんだよ、という暗喩をコメて、最終作戦中にメルダの心が目覚めてしまった展開になったのかもしれない。

さても、人類と魔族の戦争を止めるためにその鍵となる和平派の魔王復活のために、魔族領域に侵入したクレトたち。そこで彼らが巡り合った、魔族の中央政権とは道をわかった少数民族に伝えられている、魔族誕生の真実。
元々相容れぬまったく別の異種族、であったのなら価値観の違いも、世界の捉え方の違いも仕方のないものだったのだろう。これ、難しいところなんですよね。本当に進化系統の全く異なる別種族だったら、それこそ相互理解というものが本当に成立するか怪しい部分がある。果たして和平なんて出来るのか、相容れぬ価値観同士では確信できない。でも、完全に違うからこそ、違うことを受け入れて妥協はできるかもしれない。違うことを受け入れ合うことも出来るかもしれない。そこから、違うが故の相互理解が進んでいくかもしれない。そこには両方の可能性があったと思う。
でも、真実は違ったんですよね。人類と魔族は、その歴史を遡っていくと種として同一であった事がわかった。そも、魔族の誕生とは人為的なものであった。
両者の対立というのは、生存のための対立であり、生み出したものと虐げたものの感情的な破綻であり、価値観の違いには恨みと憎しみという負の感情が根底にあったのだという。
元は同じ人間で、価値観の相違も人為的なものだから、いつかはわかりあえる。というのは正の考え方だろう。逆に、その対立の根底に負の感情が根強くこびりついていて、それが何百年も堆積して魂にまで刻まれるような民族の業となっているのなら。それはむしろ、全く異なる別種族という断絶故の相互不理解よりも、本当の意味での和解は遠くなるかもしれない。民族単位の憎しみって、恨みって、どれほど理性的にあろうとしてもどこかでこびりついて消し難いものなんですよね。
今のこの時代になっても、人間はそれを何度も思い知らされている。否応なく目の当たりにさせられている。
とはいえ、それでも表面上だけでも仲良くとは言わずとも、戦争なんてしなくて済む、相互に行き交うことの出来る関係は構築できる、と信じたい。文明の発展ってのは、そのためにあるんじゃなかろうか。
果たして、この真実は突破口となるのか。それとも地獄の釜の蓋をあけてしまったことになるんだろうか。でも、その真実こそがミユリの心を救ったのなら、人を愛する事への後ろめたさから開放されるきっかけになったのなら、良かったのだろう。
あとは、その時代を生きる人の努力次第である。……ところでクレトくん、最後のそれは浮気解禁ルートですか?