【最強魔術師の弟子は冒険者ギルドの始祖となる】  新張 依澄/マキトシ 講談社ラノベ文庫

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異世界に転移してしまった少年、アオイ・ツキシマ。ひょんなことから世界に冠たる七曜魔術師の一人メリッサに拾われ弟子入りする。彼女に実力を認められるほどの魔術師となったアオイは、メリッサへと依頼された、パトレット辺境伯の領地にはびこる魔獣を退治する仕組み作りを命じられてしまう。智恵を絞ったアオイが考えたのは、魔獣を倒すことが収入に繋がるようなシステムを作り組織化する――魔獣退治ギルドを立ち上げる、というもの。依頼主である辺境伯の了解を取り、従者である亜人の少女ルルや辺境伯の一人娘ユーティらとともに、誤解や軋轢を解きほぐし、時には圧倒的な魔術の実力で黙らせながら取り組むがやはり難題は多く――!?


これ、表紙見て普通に主人公女の子かと思いましたよ。てかカラー口絵見ても女の子かと思ってましたよ。あらすじ読んでなかったんで。
女性に間違われやすい、という女顔な主人公は珍しくはないですけれど、ここまでガチで女性みたいに描かれたデザインはなかなか珍しいんじゃないかと。いやあ、絶壁だなあとは思ったんですけどね。
作中でもガチで間違えられているし、何なら自分でも女の子のフリとかしてる場面もあるので、もう女の子でいいんじゃない?
ヒロインのユーティさんは困ると仰っておられますが。

本作はいわば「冒険者ギルド」という異世界ファンタジーでは定番の組織の創設秘話であります。本作の世界では魔物も多く出没するし、被害も多く出ているのだけれど、その討伐に関しては各地を収める領主の兵力に頼っていたわけですね。
そして魔物を倒しても、それを現金化する仕組みが存在しなかった。魔物とは倒しても食料にも出来ないし、素材を加工してどうこう、というのも出来ない本当にただの役立たずで、大きな人的被害社会的ダメージを与えるだけの害獣でしかなかったんですね。
経済的には損失しかもたらさない存在なわけだ。領主サイドとしても持ち出しばかりで、税金上げるしかないよなあ。
アオイが師事する世界最強の七人の魔術師たち「七曜」の一人「紫」のメリッサの元に、スクロールという魔法を込めた巻物の取引相手として懇意にしている地方領主から、魔物被害どうにかなりませんか?アイデアください、という依頼があったのはそんな時。
この依頼をきっかけにして、アオイは従者にして妹分のルルと、その領主の娘であるユーティとともに、魔物を討伐してお金を稼ぐ互助組織「冒険者ギルド」を誕生させることになるのです。

ゼロから組織を立ち上げることそのものを題材としてエンターテインメントに昇華させる経済小説としては、まあユルユルでそういう見方で求めるといささか物足りないのですけれど、概論としてはなかなか面白いアプローチだったんじゃないかと。
いやまあね、組織を一から立ち上げるとなるとこんな最小の人員でトントンと進むもんでもないとは思うし、実際に事を起こして現実に詰めていくと、途端に噴火するみたいに湧き出てくる問題のあれこれとの取っ組み合いの格闘こそが、こういうお話の醍醐味だと思うんですけれど、本当にスムーズに進んじゃいましたからねえ。
障害が、頭の悪そうな商業ギルドの跡取りの嫌がらせだけ、というのは大分にイージーモードだった気がします。単体ではなく、集団としての商人が本気で潰しにかかってきたら、海千山千の妖怪どもが相手ですから、まあガチで潰し合うくらいの覚悟が必要となったでしょうけれど、いやあのぼんくらを後継者としてフリーにさせていたあっちの上の連中もどうかと思いますし、これを娘の嫁ぎ先にしようと思っていた領主さまも、ちょっとどうかしてると思いますよ。政略結婚にしても相手がこれでは、ユーティ個人だけじゃなくて絶対に領主家にまで迷惑かけてくるどころか積極的に損害かぶせてくるような手合じゃないですか。
でも、アオイはわりとクレバーというか潔癖じゃなくて、必要とあれば自分の七曜の紫の弟子という権威を振りかざすことに躊躇なく、振りかざすどころか所々ではぶん殴ってはたき倒すくらいまでやってたので、そういう所は結構好きw
しかし、これまで誰もなし得なかった魔物の活用、というか魔物の遺骸から希少かつ有用な魔石を抽出する技術を確立することで、魔物の討伐を経済活動に取り込むことに成功したわけですけれど、これってアオイの独占技術なんで彼がいなくなると途端に破綻する、何気に危ういラインなんですよね。
いや、弟子に出来るんだからメリッサ師含めて七曜レベルなら出来るんだろうけど、今は技術の独占による優位の獲得は必要としても将来、アオイの手を離れるくらいの先の話になったらどうするんでしょうね。技術を公開して広めていくんだろうか。てか、既に冒険者カードもあれアオイの手作業による生産なんで、将来どころか早晩アオイが過労死しそうなんだが、そのへん解決策出来てたっけ?
まあ実際の運営に関してはほぼユーティが責任持って構築して動かしているんで、アオイは特に役に立ってないとも言えるのだけどw
アオイは誰にもない技術をもって魔物の金銭化に成功し、ゼロから構想自体は立てられてぼんやりとしたグランドデザインは構築できるんだけれど、それらを具体化する能力はほとんど持ってなかったんですよね。イメージはある、でもそれを現実のものにするためにはどうしたらいいかわからない。
それを全部やってくれた実務の鬼がユーティである。これ、ユーティがいなかったら、ほんとに何にも実現しなかったんじゃないだろうか。
そのあたりは、アオイも大いに自覚するところで、ユーティが政略結婚で組織運営から引き剥がされそうになった時、たしかにユーティが嫌がっているというのもあっただろうけど、実務面からも彼女がいなくなったらその途端組織止まっちゃってただろうから、アオイが阻止に動いたのは感情面からだけではないんでしょうね。
ユーティの方は最初の方から自分のことをちゃんと見てくれて、能力を見極め仕事も任せてくれて、と尊敬する父にも認められずに生きてきた中で最初に自分を信頼してくれたアオイに大きな好意を抱いていたけれど、アオイの方はどうだったんだろう。わりとなし崩しにユーティと妙にユーティ推しなルルに押し切られた感がある。いつ好きになったんだ、ユーティのこと?
まあそのあたりの人間関係も含めて、全体的にわりとフワッと進んでフワッと着地したなあ、というお話だったなという印象でした。