【貞操逆転世界の童貞辺境領主騎士 1】  道造/めろん22 オーバーラップ文庫

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最強騎士(の貞操)は狙われている――

現代日本から男女の貞操観念が真逆の異世界に転生し、その世界では珍しい男の騎士として育てられた辺境領主ファウスト。
前世の価値感を持つが故に、女王のほぼ全裸な薄着姿や巨乳公爵からのセクハラ的スキンシップに股間を痛める日々を送る彼だが、ひとたび戦場に出れば英雄的な活躍をする超人でもあった。
そして第二王女ヴァリエールの相談役として、彼女とその親衛隊の初陣に同行することになったファウスト。
しかし単なる山賊退治と聞いて赴いた村では、予期せぬ惨劇と試練が待ち受けていて……!?
貞操が逆転した世界で“誉れ”を貫く男騎士の英雄戦記、堂々開幕!!

よしながふみの【大奥】という名作漫画がある。あれも、謎の疫病によって男子の人口が激減してしまったために、男女の社会的立場が逆転して女性が社会や組織、一族、家庭の要職を担う労働力、権力の基幹となる一方で、男性が家庭に入り庇護される存在になった世界観でありました。
いや実はちゃんと読んだことないんですよね、恐縮ですが。
男女逆転世界というと、主にえっちぃ漫画や小説なんかで取り扱われる題材なんだけれど、この世界観を突き詰めていくとかなり面白いのは間違いないんですよね。
本作はこの点、かなりこの男女逆転した社会構造における女性の在り方というものを硬派に描写しようとしていると思います。単純に男を女に入れ替えただけじゃなく、立場は入れ替わろうともそこに女性ならではの考え方や子供に対する母性、或いは愛情に対する濃淡、理想と現実に対しての夢見がちな部分と現実的でドライな部分。そういったものが色濃く感じられるんですよね。

と、それ以上に熱い熱い激情の物語でもありました。特に、第二王女のヴァリエールの初陣編からめちゃくちゃ好みの話になっていくんですよ。
主人公含めた主要登場人物の中で、唯一と言っていいほど凡庸で野心もなく常識人でしかない凡人たるヴァリエール。その凡庸さは、第一王女という王権の後継者のスペアという意味での第二王女としても、母である女王から見切りをつけられそうになっているほど。
ここ面白いところで、女王のリーゼンロッテも第一王女のアナスタシアも、ヴァリエールについては王族としては冷徹に判断して切り捨てる事も考えているんだけれど、一方として肉親としてはちゃんと愛してるんですよね。ヴァリエールには伝わっていないのですけれど。いやまあ、ヴァリエールからしたら自分の無能さはちゃんと自覚あるし、実際冷遇と言って過言ではない待遇をウケてるわけですしね。この冷遇的な待遇も決して女王陛下はそこまで意図的にやっていたわけじゃないのですけれど。歳費が安いのは客観的判断に基づくものでしたし。またアナスタシアは明確にヴァリエールの事嫌う態度見せてましたしね。
アナスタシアの態度もファザコンを絡ませた情念深い嫉妬が絡んでいて大変複雑に入り組んだ感情に基づいているんですけれど、嫌ってはいても憎んではおらず疎んではいても恨んではおらず、妹への愛情は確かにあるんですよね。
このあたりの、肉親への愛情。特に母と子の愛情に関しては、主人公のファウストを始めとして多くの登場人物の生き様に関わる、その人の根幹に根ざしたものになってるんですよね。
ボーゼル領での反乱騒ぎも、突き詰めていくと我が子の才覚と反比例した行く末を悲観したがゆえの母親の愛情が原因と言えましたし。ファイストに至っては、その騎士としての誇り以上に母から託されたポリドロ領を守り通すことが、彼の超人騎士としての根幹となっていますからね。母からの歪ながらも深い深い愛情を、母が生きている間にちゃんと受け取れなかった事への後悔が、彼の中で深い情念として滾っている。
憤怒の騎士と言われ、誤解もあるのだけれど事実彼の中では騎士の誉れとして、溶岩のような熱くも粘り気のある激情が眠っている。それが憤激するとき、戦いの場ならずともリーゼンロッテ女王相手にその主命に生命と誇りをかけて逆らった時のように、実に熱い男と化すんですよね。
基本脳筋なんだけれど、筋が通った……というか筋通すためには壁だろうが何だろうが破壊して貫いていく一本気なところがまた、熱くてカッコいいんですよね。

そしてまた、女性陣も熱い連中が多いのだ。それ以上に下品で野卑で変態で狂人な連中ばかりなんだけど。特にイカれているのが、ヴァリエールの側近であるザビーネで。これがまた鬼畜外道で無駄に頭が良い上に行き当たりばったりでえらいこと仕出かすために、本当にやっかいな女なんだけど、ヴァリエールへの忠誠と親愛は本物で、また身内である第二王女親衛隊……これがまた貴族の次男三男という穀潰しの中でも産廃を集めたような、ろくでなしと戯け者の集まりで……でも愛すべき馬鹿どもで憎めないんだよなあ。そんな筆頭がザビーネなんですけど、仲間意識は本当に強くて、初の初陣を経てのあの連帯意識と、ザビーネの抑えきれない滂沱となった感情の、涙の激流は思わずこっちももらい泣きしてしまいそうなほどで。実際、こいつやべえと引いていたファイストのマイナス振り切ってた好感度が、プラスに大きく揺り返しちゃうほど、ザビーネというキャラクターへの印象変わっちゃったもんなあ……やべえやつという印象はこれっぽっちも変わらなかったけどw

ともあれ、そんなやべえやつ、そしてチンパンジーと呼んで憚らない常識も持たないおバカの集まりに慕われながら、そんなおバカどもを慈しみながら、凡庸で無能という王女から少しずつ成長していくヴァリエール。これ、そんな凡人な彼女の成長譚でもあるんですよね。
面白いのが、超人揃いの登場人物ばかりの中で彼女は凡人のまま成長していくところ。頭がおかしい天才どもの中で、凡人であるが故に常識人でもある彼女が、胃を痛め人生そのものを振り回されながらも、輝く星となっていく。
本作の主人公はファウストなんですけれど、もうひとりの主人公とも言えるんですよね、ヴァリエール。もっとも、彼女に限らず、アナスタシアにしてもザビーネにしても、また終盤に出てくるマルティナや、以降に登場する様々な登場人物がそれぞれに自分の人生を背負って主人公しているので、ある意味群像劇でもあるんだよなあ。

そして、本作は異世界ファンタジーなんですけれど、男女が逆転しているという根幹の設定以外にも異世界ファンタジーらしいふわっとした世界観じゃなくて、中世の封建社会をモデルにした騎士という存在、それも自分の領地を持った騎士たち。領地を持てなかった騎士たちの苦闘と悲哀を描いた騎士物語としての色も濃いんですよ。
猫の額ほどの小さな領地を、命がけで守る領主騎士たち。彼らの忠誠は王家にあるとは言えず、自らの領地を保証する存在として王家の存在を認めているようなもので、どちらかというと一所懸命の理念の方が強そうなんですよね。また領地を持てなかった騎士たちは順当に落ちぶれて、アルものは傭兵に、さらに躓いたものは盗賊か浮浪者に。ただ生きていくだけでも苦しみもがき、そんな状態の中で果たして騎士は誉れを保っていけるのか。或いはそれに縋らなくては生きていけないのか。
華々しい騎士の物語とは裏腹の、泥臭い薄汚さを突きつけてくる非常に渋い世界観なんですよね。その傾向は、物語が進めば進むほどよく見えてくるので、その意味でも先々楽しみなんです。

それにしても、中世らしいというか、倫理と品性が欠けた野郎どもならぬ女郎どもの、あの野卑っぷりは逆転世界だからこそ、なんか面白いですわ。これ、むさ苦しいヒゲのくそ汚いオッサンばっかりだったら、絵面ひどいんだろうなあw 

書き下ろしの外伝。あれヴァリエールエンドって、IFルートなの!? むしろあれが正規ルート寄りなんだと思ってたんですけど!?