【リコリス・リコイル Ordinary days】  アサウラ/いみぎむる 電撃文庫

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これは、喫茶リコリコの日常的な非日常を描いたささやかな物語!

「喫茶リコリコへ、ようこそ!」
あの破壊された旧電波塔をのぞむ東京の東側にあるオシャレでおいしいカフェ――それが、喫茶リコリコである。
本作はオリジナルテレビアニメーション『リコリス・リコイル』では描かれる事がなかった錦木千束や井ノ上たきななど、看板娘たちが織り成すありふれた非日常のちょっとした物語。
おいしい甘味に、ガンアクションに、ゲームに、人情ドラマ、ゾンビと怪獣にロードムービー……そしてほのかに愛!? もちろんコーヒーに人助けだって!!
「どんなご注文も……おまかせあれ♪」
そんな日々を積み重ねていくことで彼女たち絆が生まれていく――オマケ付きお菓子のバラエティパックのような何でもありの詰め合わせを原案者自らがスピンオフ小説化!

原案者アサウラさんによるTVアニメ【リコリス・リコイル】の短編集。DAってダイレクトアタックなんて名前だったのか。
アサウラさんと言えば、ちょっと前にリコリコ始まる前に記事にしたけれど、ど派手なガンアクションから女の子二人の百合モノからロードムービー的逃亡劇に、どん兵衛を頭おかしくなるくらい美味そうに描く飯テロ描写と非常に多芸な作風の持ち主でもあるのだけれど、本作ではそれら全部詰め込んでるという感じで、買い得というべきバラエティに富んだ色んな物語を千束とたきなの二人の喫茶リコリコでの日常を通して味わえて、非常に楽しかった。

リコリコってアニメでもチラッとミカが手掛けた工夫をこらした和菓子が出てくるけれど、コーヒーと和菓子の店というコンセプトだったんですねえ。
自分も偶に和菓子を緑茶じゃなくてコーヒーでいただくことあるんですけれど、インスタントでもあれアンコなんかと結構合うんですよねえ。
舞台が喫茶なんで、がっつり系のご飯ものはあんまり出てこないのですけれど(たきなのまかない飯編では出てきますが)、スティック最中や五色のおはぎなんか、ヤバいくらい美味しそうでたまらんかったです。


「閉じゆく人生にスイーツを」
一発目は新たに常連となった早くにセミリタイアしたものの、余した時間を無為に消化していくことに鬱々としていく土井さんと、彼に何かと絡むことになる千束とそれに巻き込まれるたきなのお話。
喫茶リコリコでの営業中の情景が伝わってくる……てか、お客さん引っ張り出してご飯奢ってもらいに行くんかい!
人生の潤いをなくしていた五十代の独身男性が、元気いっぱいの千束に引きずられてあちこちに引っ張り回されることでちょっとずつ元気を取り戻していく姿は、何ともおじさん的には身につまされる所があるんですよねえ。彼の抱いている虚無感というのは、年配の人間が少なからず感じているものでしょうしね。そんな彼に対してのミカ先生の含蓄ある言葉が沁み入るんですよねえ。
ミカ先生、この巻の中でほんとセクシーなんですよ。どこか繊細でありながら落ち着いた懐深い佇まいで、コーヒーの味わい深い香りをまとわせた姿は、ふっと心縫い留められてしまうものがあるんですよね。
彼の口から語られる人生訓には、千束のあの騒がしくも全力疾走し続けている生き様の根源を見守っているがゆえの慈愛が伝わってくるんですよね。そして彼女の生き様を見届ける覚悟……が決まっているかはわからないけれど、受け入れているがゆえの透徹としたものを感じるのです。
土井さんの50代なんてまだまだこれからじゃん!という千束の、裏表もないだろう前向きな言葉に、老いゆく身に共通する実感を語るミカの心情はどんなものだったんだろう。
土井さんに、千束の生き様を通じて未来が短いからこそ全力で駆け抜けることへの充実を語った時の想いはどんな重さだったんだろう。
アニメで千束の課せられている運命を知っていると、なかなか思いに耽ってしまうお話でありました。
それはそれとして、千束おまえいい加減にしろよ!? 全力でやらかしたおかげで、大惨事じゃねえか! 大惨事だよ!! 本気で土下座案件だからね!? 


「ガンファイトとコーヒーと千束の赤いアレ」

あの千束のゴム弾が着弾時に赤い粉になって飛び散るの、彼岸花モチーフだったのか。
今回はDAからの依頼によるゴリゴリのリコリスとしての任務。ちらっと、リコリス内でのランク、ファーストからサードの実力について触れている箇所がありましたけど、フキ姐さんてファースト・リコリスとしてあれ化け物級だったんか。アニメだと現状まだ彼女の実力のほどが見えるシーンなかったんですけれど、セカンドが束になってかかっても敵わないレベルらしい。ゴキブリ呼ばわりされてるのはマジでひどいと思われますけど!?
てかもう、この話では嫌というほど千束とたきなの戦闘スタイル。使用している銃の仕様から(千束のあれって非殺傷弾の使用だけじゃなくて超接近戦用に仕立てた特別仕様なのか)、銃の構え方のあれこれまで、実に詳しく語られています。ゴム弾、弾道が安定しないだろうなとは思ってたけど、それ見越しての超接近戦スタイルだったのか。相手の体に銃口ねじ込んでの接射に関しても、それ用の仕様になってるんですねえ。
この話の相手は、ゴム弾どころじゃないライフル弾でも持ってこないと貫けない超防弾仕様の防備で全身をガチガチに固めたモンスター。いやこれ、絶対アニメ映え、動画映えするアクションでしょうに。
個人的にこの話で一番好きなシーン、現場から逃亡した組織のボスを電車内で確保したあと、千束とたきなとボスの三人でゾンビ映画談義で盛り上がるところでした。


「Takina's cooking」

アニメでも言葉にしてはならないアレなパフェを創造してしまっていたたきなの、まかない飯のお話。喫茶リコリコではまかない、全員の当番制にしてるのねえ。
クルミにまでやらせてるの? と思ったけれど、無難に冷凍食品とかで済ましているのは賢い選択だなあ、と。そして肝心のたきなである。
この娘、別にメシマズとかではないんですよね。普通に丁寧に調理した凝った料理も作れる……作れるんだけど。ほんと、極端から極端にしか走れないというべきか、適当に丁度いい塩梅というのを自分の中で測れない、あるいは計る概念がないというか。
DAをクビになりかけた時の暴走っぷりも、リコリコに来た最初の事件で護衛対象を囮に使って犯人を確保しようとしたときも、目的を達成するためならそれ以外の要素は眼中から外れてしまう、というのが井ノ上たきなという娘の特性なのだろう。
これがまかない飯にも適用されてしまって、まかないだってのに美味しい料理を出さないといけないという事に頭が一杯になって、時間と素材というリソースを目一杯使ってしまってリコリコの業務の方を完全に無視してしまったり、それをみずきに叱られたら逆に料理に使うリソースを全部削ってプロテインによる栄養補給で済ませようとしてしまうとか、中間がないんですよね。丁度いい感じのバランス調整がない。
千束が「まかない飯」の何たるかをたきなに教えるために土井さんに行きつけの店教えてもらって、そこで絶品のまかない飯を堪能させても、根本からたきなは千束が店に連れてきてくれた趣旨を全く理解していなかったオチが、何とも最高というか、この娘にそれ教えるの無理なんじゃないの? と思える苦笑モノの結末でした。
それはそれとして、喫茶店では味わえないガッツリとしたご飯物の描写がこれでもかと盛り込まれていて、飯テロ話としても最強クラスの一品でした。てかこの娘ら、常連さんたちに色々と連れてって貰うにしても、結構いい店行ってるよなあ。


「リコリコ・オブ・ザ・デッド」

気がつくと、世界はゾンビで溢れていた。いや、夢オチなのはわかっていましたけれど、かなり最初の方で千束もたきなもこれ夢だろうと自覚している明晰夢でありつつ、それはそれとしてガンガン進行していく展開は面白かった。
ゾンビなんて、千束のゴム弾なんて一番役に立たないだろう、と思ったらやりようはなんぼでもあるんだねえ。
というか、ゾンビだろうと人を殺すのは、と躊躇っていた千束なのに、相手がミズキのゾンビだと認識した途端に躊躇なく殺りやがったw しかも、釘バットホームランでw
ミズキなら殺しても全然オッケーなんだ!

夢とはわかっていながらも、世界で生きているのは千束とたきなの二人だけ、と言わんばかりの二人きりの逃亡劇。このまま二人でどこかに逃げてしまおうか、という千束の言葉に揺れ動くたきなの心情がなかなか印象的でした。あのロードムービーめいたシーンはなんともキレイだったなあ。
そのあとの、真夜中のハイウェイで横転した車の上で直火で炒ったエスプレッソを二人でアルフォートを齧りながらちびちびと飲むシーン。こういうのホント好きですわー。
そのあとのイントロダクションで、アイスクリームにエスプレッソをかけて食べるアフォガードというスイーツも、贅沢だけど美味しそうだったなあ。


「ご注文は」

そして、ラストはリコリコの常連客の一人である女子中学生の、家庭でも学校でも生きる場所、息をする場所を失って、溺死しかけていたときに偶然武器となる銃を手にしたことによって、未来をなげうって復讐のために走り出す話。重苦しいシリアスな話なんだけど、ある意味一般人である少女が必死に現実に抗おうとする話でもあるんですよね。そして、いつも千束やたきながバンバンと撃っている銃の引き金がどれほど重たいか。どれほど呪い憎んだ相手に対しても、殺意を抱き決意と覚悟を宿しても、引けない重さがあるのだということを今更のように思い知らせてくれる。
これを躊躇なく引けるリコリスという存在がどれだけ一般人とくらべて異質な存在なのか、というのがなんとなくわかるんですよね。
前のゾンビものでもチラッと触れていましたけれど、軍隊とも違ってリコリスのような組織のエージェントは、抵抗しない出来ない相手に対しても躊躇なく引き金をひけるように訓練された一団なんだよなあ。そして、そんな娘たちを育成するためには中学生くらいの年齢では既に遅すぎる、という話まで出てくる。怖い話だ。
でもこの話は、アニメ本編では曖昧模糊としていて具体的な事例があったわけじゃない、錦木千束の志が実際に果たされる話でもあるわけだ。
人を助けたい。
その際立った殺す才能ばかりが注目され、非殺傷の弾丸を使って不殺の信念を貫きながらも、結局は犯罪組織や敵対勢力の人間たちをなぎ倒すばかりで、具体的に誰かを助けるために何か出来たことがあっただろうか。たきなと組んだ最初の事件では、護衛対象の女の人をちゃんと守り通せたけどね。でも、あとの事件では何度も守ることに失敗してるんですよね。くるみが仲間になる事件でもあれ、実質護衛対象守るの失敗してるし。
それに、それらの仕事は守ることであって、何ていうんだろう。千束が思い描いている人助けとはちょっと違うと思うんですよね。喫緊の物理的な危機から守るだけじゃない、その人の人生そのものを救うような助けの手に、なれることをこそ千束は望んでいるんじゃないだろうか。
でも、リコリスの仕事は大きな枠組みで見たら、治安を守り多くの平和に暮らす人々を助ける仕事かもしれないけれど、千束はそれでは納得いかなかったからDAを離れたんじゃなかっただろうか。喫茶リコリコで受ける小さな依頼から、手の届く範囲で誰かを助けることが出来るんじゃないか。そう思ったからこそ、今リコリコにいるんじゃなかったかな。
だから、この事件で常連の小さな少女の人生そのものを救うことが出来たのは、その戦闘能力だけではなく錦木千束という人間の明るさで、一人の女の子を救えたというのは、千束にとっての本懐だったんじゃないだろうか。
千束をずっと見守ってきたミカにとっても、誇らしかっただろうなあ。

うん、本当にバラエティパックのお菓子のごとく色んな味わいを堪能できました。アニメ本編では描ききれない隙間の部分を塗り尽くし、さらにはみ出してあっちこっち飛び散らせて跳ね回りながら踊るような感じで、楽しかったです。あと、やっぱりお腹空くわー、アサウラさんの作品は飯テロが強烈すぎる! まだ、大分飯テロ描写については手加減してたと思うけど。