【創成魔法の再現者 2.無才の少年と空の魔女(下)】  みわもひ/花ヶ田 オーバーラップ文庫

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今ここに明かされる創成魔法――その最強たる所以(ゆえん)

兄クリスとの因縁に決着をつけたエルメス。
冤罪をかけられたカティアと共に依然として逃亡中のエルメスであったが、無辜の民への蛮行に及ぶ第二王子アスターの暴走を止めるべく彼との対決に臨む。
エルメスの導きにより、自身の『血統魔法』の本当の使い方を知ったカティアの力で勝利は目前――かと思いきや、今代最強と謳われるアスターの『血統魔法』が秘められた本領を発揮して!?
その伝説級の力を前にしてもエルメスは動じることなく――。
そして今、争乱の果てに『創成魔法』の真価が解き放たれる!
無才の少年が世界の常識を覆す最強魔法譚、第2巻!

ああ、そうだよなあ。アスター王子に喧嘩売られたのって厳密にはエルメスじゃなくて、カティアの方ですもんね。
これでエルメスが代わりにアスターをケチョンケチョンにしばき倒してくれるのは、それはそれで王子さまムーブではあるのですけれど、そういう守られお姫様気質とは遠くはなれているのが、気高いカティアなのでしょう。そもそも、そういう子からエルメスと再会したときに彼のことを執事としてそばに置こうとはしないですよね。
少なくとも、エルメスの凄さを実感した上でカティアは彼に並び立とうという意気がある。好きな相手だからこそ負けたくない、という意地がある。そんな彼女が、アスター王子如きに見下されっぱなしというのは納得行かないだろうし、エルメスの方だってカティアがあんな王子に負けっぱなしというのは我慢ならんかったんじゃないだろうか。わりとエルメスも、幼馴染に対して評価高いというか、最高と思ってる節あるし。ある意味べた惚れである事は間違いないんですよねえ。
まあ、あの王子の下劣っぷりを見せられるとねえ。敵役としては文句なしの最低さでしたからねえ。なかなかあそこまで自己中拗らせている世界観の持ち主はいないですよ。それだけ彼を増長させてしまう環境ではあったのでしょう。
自己本位さ故に絶体絶命のピンチで覚醒までしてしまうくらい、ある種世界に愛されていたのは確かなのかもしれません。まさかの能力覚醒には唖然としてしまいましたもんね、彼にとって都合が良すぎる展開は、アスターにとってはこれまでずっと当たり前の世界観だったのかもしれません。
そんな彼にとっても、幼い頃の神童としてもてはやされていたエルメスの存在は、一種のコンプレックスだったんでしょうけれど、その屈辱を彼はなかったことにして生きてきたんですよね。
エルメスの兄であるクリスが、弟への劣等感をマイナス方向ながらもエネルギーにして生きてきたのと比べても、自分の中のものと向き合ってこなかった、見ないふりをしてきた、という意味では常に逃避してきた人生だったのではないでしょうか。
ついには、現実すら直視できなくなってしまったようですが。
それに比べて、幼い頃にエルメスによって挫折し続け、屈辱に胸を焦がし続け、そのあとの逆転劇にも心の片隅で自分の卑しさを自覚していたクリスは、その熱意を己への克己へと向けることが出来たのではないでしょうか。
根本のところで、クリスもエルメスと血の繋がった兄弟だったんだなあ、というのがわかってちょっと嬉しかったです。今更仲直りなんて出来ないのかもしれませんけれど、お互いに認めあえるようになれればいいですねえ。

と、このアスター王子編だけでなんかもう一冊読み切ったような満腹感があったのですが、まだ2巻の半分すぎたくらいで全然終わってなかったんですけど!?
幕間扱いですけど、ローズ師匠襲来編だけで半分くらいあったんですけど!?
むしろローズ編だけで一冊分といわずとも1エピソード。一部の分くらいはあったんじゃないでしょうか。
そうかー。カティアからすると、ローズって昔から有名な魔女ですから、年配の女性を想像してしまいますよね。それが、自分のエルメスにだだ甘に甘えまくる同世代にしか見えない麗人で、エルメスの側もめっちゃ甘やかして当たり前な顔してる、となると複雑を通り越して情緒ぐちゃぐちゃになるでしょうさ。それがまた可愛いんですが。
ローズの側からしても、唯一の親友たちの娘である上に、超常の存在として畏怖されて敬遠されている自分に対して真っ向から突っかかってくるカティアは、可愛くて仕方ないんでしょうねえ、これ。実際、カティアに対してはっきりと可愛い可愛いと明言してますけれど。
国や世間、あるいは魔法使いそのものに失望していたローズにとって、エルメスという弟子の存在は希望だったかもしれません。でも、ある意味彼は託して送り出して、ローズ自身は見送り置いていかれるつもりだったんじゃないでしょうか。
彼を旅立たせた覚悟の源泉には、そういう想いがあったように思います。まあ折に触れてエルメス成分を接種しに来る気満々だったでしょうけれど。ともあれ、魔法使いとして……血統魔法の使い手として行き詰まりを感じていたローズにとって、エルメスの存在は魔法の可能性を切り開いていく希望でありつつも、いずれ自分の手の届かない高みへと去っていく自分にとっての閉ざされた未来の象徴だったんじゃないでしょうか。
でもエルメスが切り開いていってくれた希望は、自身が絶望していた血統魔法に新たな可能性を見出させてくれた。カティアや、クリスといった次世代の若者たちが見せてくれた、壁を壊して突き進む克己心は、彼ら若者たちだけじゃない自分自身の可能性をも広げてくれるような想いだったんじゃないでしょうか。
待って待って、いずれ見送るばかりと思っていた愛しい弟子を、発展の余地のない未来のないと思っていた血統魔法を以て、追いかけることが出来る。一緒に歩んでいくことが出来るという確信。それは、ローズにとって何れ来て、通り過ぎていくのを見送る寂しさを待つのではなく、たどり着いてきた彼らを待って、その先に一緒に歩んでいけるという喜びを手にしたのだ。
だから彼女はもう、孤高の魔女ではないのだ。