【天才王子の赤字国家再生術 12 ~そうだ、売国しよう】  鳥羽 徹/ファルまろ GA文庫

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アースワルド帝国の皇位継承戦も決着し、ようやくナトラ王国にも平穏が訪れたかに見えた。
だが、ナトラ王国と、その王子であるウェインには、さらなる試練が待ち構えていた。
帝国の皇位継承問題をも凌駕する、ナトラを根幹から揺るがす大波乱。
シリーズ第12弾、ここに開幕!

帝国の皇位継承戦が終息し、大陸の情勢は新たな局面を迎えていた。
帝国は安定を取り戻しつつあり、西側からはカルドメリアが来訪するなど、ウェインは依然として東西の間で難しい舵取りを求められていた。
そんな折、ナトラ国内に新たな動きが生じる――フラム人による独立国家。
そして本人も望まぬ形で、その渦中へと巻込まれていくニニム。
内憂外患、かつてない試練に直面するウェインにさらなる衝撃が。

「――お兄様、今いいかしら?」

思い詰めたフラーニャから発せられたひと言が、ナトラを揺るがす。
ニニムの苦悩、フラーニャの決意。疾風怒濤の第12弾!




…………(絶句)

いやこれ、ラストの展開そのものへの衝撃じゃないんですよ。あの展開はまああって然るべきかな、と思う可能性の中の一つだった。
もっとも衝撃だったのは、ウェインという男の本質を明らかにしたニニムとの出会いを描いた過去回想ですよ。
いや、うん。そうか、自分はこのウェイン王子という人物をまったくもって勘違いしていたのだろう。いや、勘違いなのか? まだ、わからない。でも、果たして普段ニニム相手に見せているあの感情豊かな素顔は……本当に彼の素顔だったんだろうか。
ニニムに会うまでの彼は、いわば王族という機構そのものだった。人間という血の通った生き物から逸脱した、生けるシステム。王族として他者に望まれる在り方を一切の感情を挟まず機械的に執行する人為機関、だったのだろう。
だが、あの日彼は変わってしまった。或いは、その意を汲む対象をただ一人に絞ってしまった、というべきなのかもしれない。
きっとあの日を境に、ウェイン・サレマ・アルバレストはただただニニムという少女の願いによって動くシステムへと不可逆の変転を起こしたのだ。

……そりゃあ、国も売るさあ。フラム人なんざ、どうでもいいさあ。「彼女」を侮辱されたら相手がどんな相手だろうとどんな状況だろうと即殺するのも、これなら理解できる。
フラーニャは正しい。おそらく、妹姫自身が考えているよりも圧倒的に彼女が感じた危機感は正しかった。恐るべきは、妹姫のそうした思考や行動すらウェインの思惑、想定、或いは誘導の範疇であることだろう。どう考えても、彼は遠からず妹に国の実権を放り投げる算段をしていた節が伺える。果たして今回の一件がその一環なのかはわからないが。
そして、問題はそんなウェインの本質について、ニニムは全然気づいていないって事なんですよね。自分が何のスイッチを押してしまっているか、彼女はまだ何もわかっていない。
……これ、完全にウェイン、キャラクターの在り方がラスボスなんですけど? 
自分は、シリーズ初頭…売国を企図しながらもナトラ王国の国民自体に対しては以前と変わらないかそれ以上に安定した豊かな生活を確約した上でなければ、国の運営を投げ出さないようにしていたウェインの行動方針について、彼の王子としての責任感などのたぐいだと思ってたんですよね。
でも今こうしてウェインの本質を見てしまったあとだと、そんな責任感だとか王族としての云々は欠片もなかったのかもしれない。
ただ、ニニムが……ナトラの国民を、フラム人の幸福を願っていたから、行く末を案じていたからなんじゃないのか?
その後ナトラが発展して大陸全土にウェイン王子の名で影響力を発揮できるようになったあとに、どこか裏側でフラム人の被差別民としての地位そのものをひっくり返そうとしているんじゃ、という動向も、いずれニニムと真っ当にくっつくための舞台づくりの一環なんじゃないかと想像もしていたんだが。
そんな世間体とか建前とか、この男は必要としているのか? そもそも、最初の段階では帝国に亡命してニニムと二人で隠遁するつもりだったんですよね。フラム人の行く末までどうこうする様子はなかったはず。
フラム人全体の行く末を考えられるようになったのはごく最近。ナトラという国が力を得てから。
図らずも、それはフラム人たちの独立の機運の盛り上がりという形で証明されていますけれど、初期の段階ではニニムだってフラム人全体の未来なんて考えてもいなかったはず。可能性が出てきたからこそ、思い描く余地がでてきた。
望みが、願いが出てきた以上、可能性は手繰り寄せなければならない。そういうことだったんじゃないの?

冒頭でも触れた通り、ラストの驚愕の展開はぶっちゃけきっと大した問題ではないのだ。国際政治的には大問題だろうけれど。そして、ニニムという一人の女性にとってこそ大問題なんだろうけれど。
彼の生死については、考えるだけ無為である。だが、それが及ぼす影響については大いに構えなければならない。きっと、ニニムこそがもっとも直面することになるのだろう。今、世界がウェインを介して自分自身を核として動き出していることに。
そして、自分の原初たる望みが何なのかを。彼の最も大事なものになって、それから……それからどうするのかを。
それがはっきりしないことには、きっと彼は魔王になる。国を売るどころか、世界を売り払い、彼女にすべてを捧げることになるだろう。

この巻は、だからすべての開幕の号砲だったのだ。彼は死んだのではない。消えたのではない。
本当の意味で……動きだしたのだ。

というのがただの妄想なら、ねえ。これだと、ウェイン完全にラスボスルートだもんなあ。それはそれで非常に面白そうなんだが。