【砂漠の国の雨降らし姫 ~前世で処刑された魔法使いは農家の娘になりました】  守雨/さんど GAノベル

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「雨の範囲が広くなってるから、いつか見つかってしまうわ」
『睡眠時に雨を降らせる』不思議な少女アレシア。
砂漠の国ラミンブに暮らす彼女は、その力を隠すため両親とひっそり暮らしていた。
実はアレシアは、大魔法使いアウーラの生まれ変わり。
その強力な水の魔法で国のために前線で戦い、国王との婚姻も決まっていたのだが、謀略によって、二十三歳の若さで処刑されてしまったのだ。
前世が悲惨だったからこそ、アレシアは農園で静かに暮らしながら人の役に立つことを願うが、彼女が降らす雨は植物の発育を助け、さらに【癒し】の効果まで秘めた特別な水だった。
「今度の人生こそ間違えたくない。正しい選択をしたい」
恵みの雨を降らす少女が砂漠の国で強く優しく生きていく、そんな御伽噺の始まりです


出てくる登場人物の殆どが善人でしたね。良い人ばっかりやん。
いや、いつ裏切られてアレシア親子が酷いことになるんじゃないか、とハラハラしながら見ていたものですから。
でも両親を筆頭に、善人であるからと言って人間みんな良い人だと信じ込んでいるような頭がお花畑の人達じゃあないんですよね。世の中には悪意がはびこり、欲望が優先され、ときに全体の利益のために少数に犠牲が強いられる事があると、アレシアの両親はしっかりと承知してるんですよね。
そして、自分達の娘であるアレシアの持つ力が容易にその対象になるものだというのも早々に理解していた。非常に聡い人達であり、むしろ強烈な危機感をもって警戒心強く立ち回っているんですよね。
それでいて、その原因となる娘を疎んじることは絶対になかった。それどころか、娘を守るためにそれまでの生活を放棄して住んでいた土地を離れてまで娘の為に生きることを選んだ強い人たちなのである。
一方で、娘の力の恩恵で得た豊かな暮らしを、自分達だけで独占しようとは露とも思わぬ人達でもあったんですよね。とても慎重に、ではありますけれど、アレシアの意向も汲み取って娘のもたらしてくれた水の力の恩恵を困っている人達に分け与えていくのである。
その過程で、本当に信頼できる相手と見極めた上でアレシアの秘密も打ち明けることで、誠意をも示していくのである。
本当にアレシアの身の安全だけを考えるなら、親子だけでやっていくことはなんぼでも出来たわけである。また、秘密を打ち明けることで自分達の身に危険が及ぶことも重々承知もしていました。実際、一度住んでいた砂漠の中の拠点の秘密がバレそうになって、早々に捨てて別の場所に移ってますし、いざとなれば現在済んでいる国の外に出て違う土地に逃げる算段もしているくらいですから、自分たちの置かれている立場の危うさを軽く考えているという事は一切ありません。
その上で、多少の危険も承知でアレシアの想いも汲んで、過剰な幸福や利益も求めず、貧しく苦しい砂漠の生活に汲々としている人々に、恩恵を分け与えようとする姿勢は、なんというか浮ついた善意じゃないんですよね。根性据わった気合入った善意というべきかもしれません。
そんな彼ら親子に助けられ、その恵みの恩恵を受けて救われた人達も、また親子の持つ危機感を共有した上で協力して、自分が受けた救いを、善意を、また他の人へと広げていくのである。
彼らのさらに尊敬できるところは、貧しい人達だけじゃなく、地位のある人やお金持ちの中にも心ある人はちゃんと居て、そんな人達の中にも病気やままならない理由で苦しんでいる人達がいるのだとしたら、助けの手を伸ばすことを厭わなかったところでしょう。
その姿勢こそが、現王家の王子たちと知遇を得る要因となるわけですが……。
そんな意見を率先して主張したハキームくんとしては、結果としてアレシアとマークス王子の間に繋がりが出来てしまったこと。マークス王子がアレシアに惹かれてしまった事は何とも複雑な想いですよね。
……私が先に好きだったのに。
と、嫉妬したっていい場面だと思うのに、そういう想いや、アレシアと王子とでは身分が違うから、と考えてしまう事に卑劣な考えだと自己嫌悪を抱いてしまう所なんぞは、むしろもう善人すぎてかわいそうになってしまいましたよ。人間もっと卑しくてもいいじゃない。
マークス王子自体はめっちゃ良い人なんですけどね。心ばえも清々しく、しつこくないし、相手の嫌がる事を押し付けてもこない。権威権力でゴリ押ししてこないし。それでいて、アレシアへと抱く感情は淡くて初々しくて、可愛らしくすらある。
でも、王子というだけで物語的にもアレシアの相手役筆頭になるのは、それはそれでズルいよなあ……と、もっと前からずっとアレシアのことを想い続けていたハキームくんがいるだけに、思っちゃいますよね。
今までは、交流がありつつもアレシアの秘密は王子たちにはずっと伏せたままだった農園の人達。でも、王妃様の不予によって彼らはついに自ら王子たちに手を差し伸べてしまう。アレシアの持つ秘密がバレるだろうことを予想しながらも。
これも、覚悟の善意だよなあ。それがどんな事態をもたらすのか。イイところで二巻へ続くとなってしまいました。