【断頭台の花嫁 世界を滅ぼすふつつかな竜姫ですが。】  紫 大悟/かやはら 富士見ファンタジア文庫

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「世界を救うためです――さあ、愛しあいましょう」

『判決。呼称番号FF03-100、伊良子燐音を死刑とする』
世界を滅ぼす〔災厄〕として、少女は【断頭台】へと移送された――はずだった。
奇跡か運命か、彼女を乗せた航空機は何者かに撃墜され、少年・太宰龍之介の眼前に《竜》が降り立った。
「人類の危機を救うために、私とケッコンしてください」「!?」
《竜》の少女・燐音の暴走を鎮め、人類滅亡を避く唯一の方法は、龍之介が彼女と《結合魂魄術式》-略称:ケッコン-を結び、愛しあうこと!?
かくして、世界を救うためのふたりの同居生活が始まっ――
「もはや我々は番〈つがい〉です。私のこと、好きにしていいんですよ」
……このドラゴン娘、毎晩ふとんに入ってくるので困ります。


富士見ファンタジア文庫の新人賞大賞作【魔王2099】の作者・紫 大悟さんの新作シリーズであります。初期のデート・ア・ライブなどの系列を彷彿とさせる現代ファンタジーですなあ。
彼女らは何れ世界を滅ぼす。その意思、その願いの如何に関わらず、彼女らはいずれ世界を滅ぼしてしまう。幻想少女とは、そう宿命付けられた存在。
故に、彼女たちに与えられた未来は断頭台にあがること。
彼女らに与えられた現在は、僅かなる慈悲による処刑までの猶予期間。
故にこそ、彼女らに希望はなく、ただ諦観だけがある。この世の神秘を宿した幻想少女たち。たが彼女たちに示されたのは、何の幻想も抱けない冷酷無比な現実だけだ。

つまり、幻想少女たちにとって結合魂魄術式…つまりケッコン(仮)……いや、カッコカリはつかないか。ケッコンによって暴走という結末を消しされる太宰龍之介という少年の存在は、その機能として救済であり希望なのであるが。それ以上に、彼の、龍之介の心映えこそが燐音の、マリーの絶望と諦観を救うことになるのである。生き延びるために仕方なくケッコンするのではない、追い詰められ崖際に立たされたからこそ、それを救ってくれる力を持つ龍之介に恋をしたのではない。
彼だけが、彼こそが……世界を滅ぼす自分達を肯定してくれた。誰しもが生きることを否定し、存在すること自体を呪い、憎んだ自分達を祝福してくれた。
自分達の苦しみを理解してくれた、自分達の痛みに憤ってくれた。自分達の諦めを蹴飛ばしてくれた。
恋をするには、十分な理由じゃないですか。
たとえ環境や状況に強いられて生存本能が生き延びるために、その命綱である龍之介に好意を膨らませて恋を抱かせたかもしれない。幻想の因子そのものが見せている夢かもしれない。恣意され強制され洗脳のように植え付けられ、芽生えさせられた恋かもしれない。
でも、それは偽物なんかじゃない。今の彼女たちにとっては紛れもない本物だ。本当の恋だ。この本物を、彼女たちは誰にも否定させたりしない。世界が相手だろうと運命が相手だろうと、胸を張って言いのけるだろう。この恋は本物だ。
そして、恋する乙女は最強である。これは三千世界に共通する真理である。

この点、一貫して自分の恋を信じぬいているマリーは最初から最後まで強いんですよね。先に龍之介と巡り合い、彼と日常生活、学校生活という珠玉の時間を過ごしてきたマリーは、運命の出会いを果たしたものの諦観と絶望から急に龍之介によって引っ張り上げられた燐音の、経験値の不足故の上下浮動の激しさと比べると、根性据わっているのである。
そのわりに、先行逃げ切りどころかスタートダッシュ決めてるはずなのに思いっきり出遅れてしまっていた現状はどうか、と思う所なのですけれど。後半怒涛の後方一気の差し脚を見せてくれるので差し引きプラマイゼロなのかもしれませんけれど。
いずれにしても、めっちゃイイ女なのである、マリー。あとから現れて本命みたいな顔して龍之介の傍らに収まって、という憎き恋敵であり所属する組織同士の関係からも仇敵同士にも関わらず、この少女はライバルの恋を蹴り落とせないのである。好敵手の悲しみも諦めも許せないのである。
それどころか普段の生活から慣れない学生生活を何だかんだと言いながらも助けてくれてたし、世話好きというかなんというか。
何気にこのへん、主人公の龍之介とやってることそっくりなんですよね。否定スべき相手を肯定し、相手の否定を敢然と否定してのけ、相手まるごと受け入れる。恋敵であろうと、愚か者であろうと、自分の世界に収めてしまう。
このへん、主人公の龍之介とは相棒感すらあるベクトルの一致っぷりなんですよね。だからこその、ラストのクライマックスの連携なんでしょうけれど。でもそのぶん、ヒロインとしての振る舞いというかイイ所は燐音の方に持っていかれてるところもあるだけに、ヒロインとしては悩ましいところなんですよね。
とは言え、燐音の危機と龍之介が狙われていた機会を機に、自身もケッコンまで承知させた上で龍之介との距離感まで縮めて、ちゃんと得るべきは得ていつの間にか後方に追いやられていた位置を巻き返しているちゃっかりした所はあるんですよね。

と、当面の危機は回避でき、暗躍していた男の思惑は踏みつぶせたのですが、まだ全然明らかになってない事が多すぎるんですよね。なにより、主人公・太宰龍之介という青年自体が謎まみれ。
彼のどこか強迫的ですらある救わなければならないという想い。その源泉は果たしてどこにあるのか。彼自身、何も覚えていない上に、既に他の幻想少女の影が彼の中に根付いているあたり、彼が今回の一件で巻き込まれたわけじゃない、というのは匂わされているのですが。
残る幻想少女は五人、のはずなんだけど、ラストの描写からすると既に登場している? ともあれ、前作の【魔王2099】の続刊も待っていますから、その辺も考慮しながら続き期待したいところです。