【魔弾の王と聖泉の双紋剣(カルンウェナン) 5】  瀬尾 つかさ/ 八坂 ミナト ダッシュエックス文庫

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円卓の騎士ボールスという犠牲を出しながらも、ティグルたちは魔物ストリゴイを滅ぼした。
アスヴァール全土を覆わんとした影法師の災禍は終わりを告げ、ギネヴィア軍とアルトリウス軍は雌雄を決するべく互いに軍を進める。
決戦の時が迫る中、ギネヴィアは、アルトリウスの剣によって命を落としたリネットのことを夢に見る。
それはただの夢ではなく、善き精霊モルガンと猫の王ケットの導きによるものだった。
一方、アルトリウスは円卓の騎士サーシャを見舞い、彼女から神器を受けとる。
そして、悪しき精霊マーリンは、己が野望の達成のために、両軍が激突する瞬間を静かに待ち受けていた。
よみがえる伝説と、超常の悪意に、ティグルとリムは決死の戦いを挑む。

ああ、本当に死んじゃったのかリネット。
一度病気で死んでいたはずなのに、アルトリウス配下とはいえ自分の意思を持ったまま生き返っていたサーシャの前例があったので、もしかしたら敵方とはいえ生き返らせてもらえるんじゃないか。そもそも、リネットを自陣営に引き込む事こそが目的なんじゃないか、と細い希望ながらも願っていたのですが、それも叶わず。
ここまで、もう彼女がこのシリーズのメインヒロインなんじゃないのかもしかして、なんて思わせてくれるほど、後方支援担当とはいえ実務から交渉、時に謀略やメンタルケアまで、縦横無尽に活躍していたリネット。彼女こそがギネヴィア軍の要であると同時に、物語そのものについても牽引役と言わずとも支えとして重要なポディションを担っていましたし、ラブコメ的にもギネヴィアでは出来ない積極的なアプローチで大いにリムを刺激してくれましたし、本当に大いなる存在感の持ち主でした。
それをバッサリと切られたこの衝撃。
なにか大きな失敗をしての逃れられない運命とかでもなく、彼女の立場から見て王道と言って良い無謬の判断のもとに行動していたら、全く違うルールに基づく即死トラップを踏み抜いてしまったようなもので。
そもそも前線で戦う騎士などではなかったわけですから、本来なら死ぬ可能性は非常に少なかったわけです。全軍が壊乱して撤退戦の混乱の中で犠牲に、くらいだったんじゃないだろうか、可能性としては。それこそ、女王であるギネヴィアの方が神話の武器を得てしまった以上、前線に出て戦うことも多かったから、戦死の危険性は高かったくらいだったんですから。
特に、自分が死ぬ可能性については覚悟していただろうけど、親友が先に逝くなんて露とも思っていなかったギネヴィアのショックは想像にあまりあります。ほんと、ここのギネヴィアはリネットと二人三脚でずっとやってきていたわけですしね。親友にして幼馴染にして同好の士にして腹心にして同志にして、もはや姉妹とも言える相手。比翼の鳥。リネットがいれば何も迷う必要はない、彼女と今後もずっといっしょに歩いていく。その確信があったからこそ、女王として立ち上がる事も自ら武器を持って戦う勇気も持てていただろうに。
背骨が抜かれるような思いだったでしょう。片腕どころか両腕だったはず。あるき続けるための両足ですらあったはずだ。それどころか、リネットこそが頭脳であり、リネットこそが心臓であった。
彼女を失ったギネヴィアが、抜け殻になってしまったのも無理はないのでしょう。彼女が居なければ、何のために女王として頑張るのか、理由そのものがなくなってしまったようなものなのですから。
自分が居なくなれば、ギネヴィアがどうなるか。それを一番良く分かっていたのがやはりリネットだったんでしょうね。死んですら、この娘は眠りもせずにギネヴィアの為に尽くすのか。
人でなくなってすら、心のあり方が変わってしまってすら、彼女のギネヴィアへの想いは変わらなかったのか。

人ならざるものになってしまったリネットの、その思いがまた辛かった。彼女だって、ずっとギネヴィアと一緒に歩んで行きたかっただろうに。でも、自らを礎としてギネヴィアへの成長を促した。彼女を本物の王にしたのは、間違いなくリネットだったのでしょう。
ギネヴィアは、この魔弾の王の各種シリーズに皆勤で登場しますけれど、シリーズによって全然在りようが違ってるんですよね。女王として立つシナリオも他にもあるのですけれど、どこか奔放で自由だったり、配偶者を立てて控えめだったり。
ただこのギネヴィアが一番、王として覚悟と決意を胸に宿した女王ギネヴィアなんでしょうね。担ぎ上げられた王ではなく、自らが切っ先として、光の導き手として立つ女王。その言葉で騎士たちを奮い立たせ、その行動で兵士たちを立ち上がらせる。カリスマともいうべきその立ち姿に、ヴァレンティナが感化されていく様子がまた興味深かったです。
心に秘めた王になりたいという野心を今なお滾らせているヴァレンティナ。でも、王として覚醒したギネヴィアの姿を目の当たりにして、自分がなりたいと望む「王」とはなんなのだろう、と彼女は自問しはじめるのである。
ここのヴァレンティナは、安易に王の座を狙うことはなくなるのではなかろうか。少なくとも、自分なりの王という在り方を見出すまでは。その座の重さを担えると確信するまでは。

結局、アルトリウスや円卓の騎士たちは時代を逆行させようという勢力の手駒として現れたにも関わらず、その騎士としての志故に、むしろ改めて時代の橋渡し役として騎士道に徹した、と考えるべきなのでしょうね、これ。
時代は進む、人もまた在り方を変えて強くなっていく。剣をもって人々を、国を守ってきた騎士たちは自らの役割はもう終わった事を戦いを通じて理解して、安心して還っていったのだ。
今度こそ、神話の時代の終わりである。そして、友との永遠の別れでもあった。
魔弾という、これも神話の時代の名残を持つティグルとリムが、戦いのあとひっそりとアスヴァールを去っていくのも、またどこか象徴的でしたね。元々、戦いに決着がついたら大陸に戻る予定だったとはいえ。
英雄は、ただ去るのみ。だが、戦いは終わりではなく、また大陸に戻れば新たな戦雲が、そしてもうひとりの魔弾の王が待っている。シリーズはもうちょっと続くんじゃよ。