【浅草鬼嫁日記 十 あやかし夫婦は未来のために。(上)】 友麻碧/あやとき 富士見L文庫

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浅草に平和を取り戻すため、「最強の鬼嫁」夫婦は再び巡り会う!

茨木真紀と天酒馨。千年前に悪名を轟かせた鬼の夫婦“茨木童子”と“酒呑童子”の記憶を持ち、浅草であやかしを守って暮らす。今世こそ幸せになるために。やがて前世の嘘を暴き、また恋をして、地獄をも越え――二人は再び、浅草で巡り会う。
異様な妖気に閉ざされた浅草。原因である宿敵ミクズを止めるため、真紀と馨は浅草の地下へ向かう。そして千年前から二人を見守る“安倍晴明”こと叶冬夜もまた、ミクズと対峙するのであった――。
宿命が集う地で、彼らの物語に幕が引かれようとしていた。

そうかー。浅草の地下街の原型を作ったの、そもそもがマキちゃんだったのか。いわば、創設者じゃないですか。スイが黎明期からここに拠点を構えていたのも、そもそもが茨姫に付き従っていたからだったのか。たまたま、真紀ちゃんと馨が二人の居場所として住むことにした浅草にスイが居たんじゃなくて、色々と因果は逆だったわけですね。
そもそも、真紀ちゃんが人間に転生したにも関わらず、馨にお小言を貰いながらも用心棒みたく浅草地下を守ってまわってたのも、当然彼女の人柄というのもあるんだろうけれど、創設者としての責任感みたいなのもあったんだろう。何しろ、そこは彼女がはじめた土地だったんだから。

ほんと、茨姫にとっては酒呑童子と過ごした日々というのは黄金にして宝石だったんだろうけれど、彼女の人生を振り返れば酒吞が討たれたあとの人生の方がとてもとても長いんですよね。大魔縁と化したその途方もない時間で、彼女はいったいどれだけの経験を積み重ねてきたのか。
のほほんと明朗快活な普段の姿からは伺えないけれど、茨木真紀という人の中には一体どれほどの密度で人生が渦巻いているんだろう。馨ずっと死んでた分負けてる……てのは変だけどちょっともうこれ頭あがんないんじゃないだろうか。前からあがってないけどさ。
でも、大魔縁とかしながらも彼女は自分達がはじめた起源を忘れていなかった。居場所のない妖怪たちのために、ずっと頑張ってきて、浅草は真紀ちゃんにとっての大江山の再現みたいなものだったのかもしれない。愛する人の首を追いかけ続ける狂気の中で、彼女は自分に与えられた愛を忘れなかった。自分が与えられたように、かつての自分のように苦しんでいるものたちの為に愛を分け与えることを惜しまなかった。それが今、浅草として形をなし、もう一度あの夫婦を迎え入れる場所としてここにある、というのは何とも壮大で胸をうつものがあります。
茨姫の一生ってそれだけで一冊の本、どころか一つのシリーズになりそう。罷り間違えば、下手をすれば、馨って生まれ変わってみたらあの頃のままの茨姫と再会する可能性もあったのか。茨姫が死んだのってかなり近年に入ってからだったわけですし。それはそれで凄いラブロマンスになりそうな形なのですけれど、清明先生としてはそれは本意ではなかったのでしょうね。結構焦って頑張って茨姫を仕留めたのか。彼としては、茨姫は人間として生まれ変わって酒吞と再会するのがベストだったのでしょうから。

ともあれ、そのもう一度地上に生み出した第二の大江山である浅草が、結局最終決戦の地になるわけですね。大江山の戦い再び、となるのか。真紀ちゃんとしても、浅草がかつての大江山のように蹂躙される光景は、耐えられるもんじゃないでしょう。あのとき守れなかった楽園を、また守れなかったら……。すでに、かつての惨劇を彷彿とさせる犠牲は出てしまっているわけですしね。忸怩たる思いだろうなあ、これは。

一方で、すべての黒幕ともいうべきミズクの方にも、個人的な欲望だけではない使命があって行っていた行為であることが、清明な叶先生の正体とともに明らかになっていく。
居場所を作ろう、としているという意味では本来なら決して相容れない相手ではない、はずなんですけどね。でも、ミズクたちは人の居場所を奪って自分達の居場所を作ろうという略奪に侵略に終始している。それはもうこれまでの犠牲も相まってお互いに譲れないところまでキているのだけれど、果たして真紀ちゃんはただ生存競争の相手としてミズクたちを排除するだけ、になるんだろうか。この娘の生き様からすると、そう簡単に割り切れなさそうではあるんだよなあ。
とはいえ、ミズクはもう論が通じないほどどこか正気失っているし、恋愛的な意味ではないかもしれないけれど酒天童子への執着は茨姫としては許容できないものだろうしなあ、これ。

あと、由理くんと妹の若葉ちゃんでこれ完全に新しい物語はじまっちゃいましたよね。若葉ちゃん、これ本格的に術者の道に進むのか。消えていったお兄ちゃんを追いかけて。自分がいつか妹に追いつかれ、捕まえられることへの予感に密かな喜びを抱いて震える鵺さまのメンタル、ちょっとこう複雑化してるよねえ。若干面倒くさい系攻略対象になりそうな感じなんですよね。もちろん、主人公なヒロインは若葉ちゃんである。
……何気に凛音が若葉ちゃんと接触してて、自分の記憶に違和感を覚えて苦しむ若葉にアドバイスを送ったり、見鬼の才に目覚めた若葉にあれこれと妖怪や術者のことについて教えてあげたり、と若葉ちゃんからリン君と呼ばれて親しい関係になっているの、由理くんは油断したらいけないと思うのよね。乙女ゲーなら、絶対凛音も攻略対象キャラですよ、これ!?