【物語の黒幕に転生して ~進化する魔剣とゲーム知識ですべてをねじ伏せる~】  結城 涼/なかむら 電撃の新文芸

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世界的な人気を誇るゲーム『七英雄の伝説』。
その続編を世界最速でクリアした大学生・蓮は、ゲームの中に赤ん坊として転生してしまう。
『七英雄の伝説』の主人公に転生?
そう思った彼は、母の口から自分の名前を聞いて耳を疑う。
それは、物語の途中で主人公たちを裏切る同級生の名前で、彼こそ世界を絶望の底に突き落とし、陰で暗躍する謎の強者だった。
平和に生きたいと願う蓮は、ひっそりと辺境で暮らすことにする。だが、ゲームで自分が命を奪うはずの聖女に出会い懐かれ、思いもよらぬ数奇な運命へと導かれていくことに――。

壮大なドラマが展開する胸アツの冒険活劇ファンタジーから、もう目を離せない……!



ゲームの登場人物に転生した際に有利なのは、ゲームシステムの理解なんかもそうなんだけど、ストーリー展開を知っている、シナリオを把握しているというケースだ。登場人物それぞれの行動原理や心情などを全部承知していて、これから起こる出来事を把握しているというのは一種の未来予知や心を読む能力とも言えるだろう。
本来のゲームのシナリオのままでは転生した自分にとって不都合だったり、不幸になる人物などを救うためにシナリオブレイクを目指す、というのがこの手の作品の定番であり、そのためにゲーム内の正史ともいうべき本来のシナリオの知識は必需品と言えるでしょう。

ところが、この作品においては少々事情が違っていたりする。主人公が転生したレンという人物は、ゲーム内においてはさながら黒幕のように意味深な行動を取り、ゲームの主人公たちを翻弄するキャラクターだ。レンがどのような目的を以て幾つもの事件を起こし、ゲームの主人公たちの前に姿を表して謎めいた言動を見せるのかは定かではない。非常にミステリアスなキャラクターなのである。
……おかげで、レン当人に転生してしまった「彼――蓮」もまた、レン・アシュトンというキャラクターが一体何を考えどのような事情を抱えて、黒幕めいた行動を取っていたのか、知らないのである。
自分がなってしまったキャラクターについて、さっぱりわからないのだ。おかげで、幾つもの事件を起こす自分の未来を避けるために、具体的になにをすればいいのかわからず、苦慮するはめになる。
ゲーム知識ですべてをねじ伏せる、とかタイトルにあるけれど、少なくともシナリオの知識に関しては後出しで、あれはこういう事情あっての出来事だったのか、と事が起こってしまったり、致命的に正史から脚本が外れてしまってから、顧みるはめになっているので役に立っているのか立っていないのか。

ともあれ、将来自分が殺してしまうはずの聖女に近づかないようにしたり、そもそも暮らしている村から出なければ厄介な事件に巻き込まれたりしないよね、と具体的なシナリオ回避の方策が取りようもないために堅実かつ誠実に、自分を大切に育ててくれる両親のもとで真面目に生き、将来的に父の跡を継いで集落の長を引き継ぐつもりだったレン。
しかし、運命はやはり向こうから近づいてくる。
同時に、両親のために、村の人達のためにと直向きに努力し続けたそのレンの積み重ねの日々が、小さな勇気が、その運命そのものを彼の知らない所で打ち崩していくのである。
シナリオチャートと睨めっこしながら一つ一つ分岐点を潰していくようなやり方ではなく、何も知らないながらも必死に一生懸命に目の前の困難を乗り越え、や身近な人の危機に奔走することで、悲劇に至る分岐を気づかずに乗り越えていく、というのはなんかこう、清々しいじゃないですか。
本来近づくつもりもなかった聖女リシアと知り合ったのも、親しくなっていったのも、レンの意図したところではありませんでした。ゲームでは自分の手で殺してしまうことになる聖女。どうして、自分が彼女を手にかけることになったのかわからない状態では、まず近づかないようにしよう、と思うことは自然だったかもしれません。でも、現実にはリシアの方から自分と同じ年頃ながら自分を上回る剣の腕を持つというレンに興味を持ち、彼女から近づいてくることに相成りました。
そうして二人は(リシアの主張では)ライバルとなり、共に死地をくぐり抜け、背中を預け、命を預けあい、運命を共にする共柄となっていくのです。
最初はリシアからの一方的なライバル関係(レンは迷惑そうだった)だった二人、そんな二人の間に流れる空気に熱が宿り始めたのはいつからだったでしょうか。
どれだけ追いかけても追いつけないレンの強さに、必死に食らいついていたリシアの視線に悔しさと切磋琢磨できる相手の存在への高揚とはまた別の熱が生まれたのはいつだったでしょうか。
避けるべきだった聖女に纏わりつかれ、それがいつの間にか嫌でなくなっていたのはいつからだったでしょうか。
たった二人きりの敵中突破の逃避行。絶体絶命の死地で、お互いの存在が支えだった。お互いの存在が勇気となった。絶望を前に、自分の命よりも大事なものが出来てしまった。
レンとリシア、二人の間に育まれていく絆と淡い想いがなんともキレイで素敵だったんですよねえ。なんかこう、ほれぼれとしてしまった。
遠くない未来、その手で命を断つ運命の相手との間に結ばれた、それは新しい運命。自分の未来にいったい何が待ち受けているのか、知らないままレン・アシュトンはリシアと共に悲劇を覆すことが出来るのか。これは続きが楽しみだ。まだ幾人か、ヒロイン候補がいるみたいですし。
現状、リシアが圧倒的というか唯一無二のパートナーに見えるんですけどねえ。