【運命の人は、嫁の妹でした。】  逢縁奇演/ちひろ 綺華 電撃文庫

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結ばれるのは今世の嫁か、それとも前世で愛を誓ったその妹か!

互いの顔を知らないまま結婚する――その名も「ブラインド婚活」なる蛮勇をかました俺、御堂大吾。
初の待ち合わせ場所に現れたのは超美人な嫁……ではなく、その妹・獅子乃。
その時突然、俺たちに前世の記憶が蘇る。そこでは、俺と獅子乃は運命を誓い合った恋人どうしだった!?
……つまり〈運命の人〉は嫁ではなく、その妹だった!? 俺もう君の姉と結婚しちゃってるんだけど!?
しかも、実家のゴタゴタから守るため、まさかの嫁より先に獅子乃との同棲生活が始まってしまい……! どうなる、俺の理性と新婚生活!

誰も読んだことのない、予測不能なヒロインレースが幕を開ける!

こいつ、バツイチじゃん!!!

こ、この主人公すごいな、名目上の結婚とかじゃなくて、本気で結婚して本気で離婚してるんですけど!?
しかも、前妻にまだ未練タラタラ。そんな自分を振り切るために婚活はじめて、何をどう行き着いたのか、チャットでしか話した事のない相手とオフ会などで直接会うこともなく、というかテレビ通話で顔を合わすことすらないまま、ブラインド婚なんてのをする男である。
一から十までこいつ、本気である。……なんかこう、社会でやっていけないタイプなんじゃないのか、この男。仕事の方もまともな就職が出来ず、普通の職は長続きしないのでアパートの管理人とローカルな雇われ探偵みたいなのをやってるくらいですし。わりと周囲に奇人が集まり、なんやかんやと助けて貰ってズルズルと生きていけるタイプか。絶対幸せな一般家庭とか築けなさそうなんですけど。
探偵という職業もあくまで調査系の探偵で、ミステリーとか不可能事件の解決! なんてのを警察と連携してやる探偵じゃないです。ああいうのは性格悪いか捻くれてるか破綻してないと出来ないけど、この御堂大吾は破綻はなんかしてる気がしてきたけど、基本頭にお花畑が咲いているほど相手を疑わず、信じることに徹する人なので、疑う職業は向いてないですよね。調査系の探偵だって、実は向いてるかどうか、てなもんだけど。不動産探偵って、なかなか面白いな。

ともあれ、ガチバツイチのライトノベル主人公というのはなかなか見たことないですよ。
なんというか、まだ学生って身分だとなかなかガチの落ちぶれた人間ってなれないんですよね。学生って可能性の塊だから。まだ何者にもなっていない過程の存在だから。
どれほどこいつもうどうしようもないな、というどん詰まりに見えても、まだ何とかなるじゃないかという期待を伴ってしまう。
その点、一回社会に出てしまうともう学生という身分保障もないから、落ちるならどこまででも堕ちていける。どん底まで行きつける。
中には学生の身分で、オマエもうそれはアカンやろう、という所まで逝ってしまう猛者もいるけれど、まああくまでも例外だ。
離婚くらいは珍しくもないご時世ですしバツイチだろうが離婚しまくろうが、カッコよく生きてる人は男女問わずなんぼでもいるでしょうけど、こういう身を持ち崩しかけてアップアップしている人間、というのはやっぱり十代の学生では描くの難しいですよね。

さてもこれ、あらすじでもブラインド婚、なんて出会った事もない人が嫁で、先にその妹と出会ってしまった、という展開はタイトルから今盛り上がりつつある背徳系ラブストーリー、ガチ不倫系かと構えてた自分にとっては、一気にセーフティゾーンに滑り込んできたな、という印象だったんですね。
何しろ、肝心の嫁に対して出会ったことがないのなら、全然気兼ねする必要がない。そもそも、それ結婚ってちゃんと成立しているものなのか。その結婚した姉というのは単なる物語上のギミックであって、名目的に存在しているだけで肝心のラブコメは主人公と義妹だけで繰り広げられる安心設計なんじゃないのか!?
そう、これはラブコメ安全基準法を完全に遵守した健全で穏当なラブコメだったんだよーー!!
結婚も実は間違いとかそれこそ本当に名目上で、姉は実在しないか実は別の人と結婚しているのを偽装する目的もあって、主人公に名義貸ししてもらってた、とかで義妹とのラブコメを邪魔してくる存在どころか応援してくれる存在だったんだよ! なんて、安全な構成!

などと妄想を繰り広げていた頃もありました。

……速攻で出てくるじゃん! 嫁! 
いやもう、本当に義妹のターンを速攻でターンエンドさせて、あっという間に出てくるじゃん!?
いやさ、もし、万が一登場するにしてもこの巻で義妹との仲が深まりに深まって泥沼にハマったところで、2巻に続く直前でどーんと満を持して登場するとか、そういう展開じゃなかったのかー!?
様々な要因から、御堂大吾が千子獅子乃というまだ幼気な少女を意識せざるを得ない中で、しかしまだ全然に心の段階が後戻りできるところで、早々に嫁……兎羽は運命の女性さながらの劇的な登場で大吾の心を掻っ攫っていくのである。
そして、またこの女がいい意味でも悪い意味でもなく、なんかこうダメな感じで魔性の女なのである。なんかこう、無駄に情緒を揺さぶるというか、平静を奪っていくというか、心根が雑魚すぎてなにか都合が悪いことがあるとすぐに逃げ出すという悪癖から、相手の心をぐちゃぐちゃに引っ掻き回すどうしようもない女なんですよね。ついでに、自分の情緒もぐっちゃぐっちゃにかき回していくので、もうお互いに感情がしっちゃかめっちゃかになるのである。
ところが、そもそも大吾という男は頭が花畑。他人に対する一途さが常識とか客観性とかを全く関知しないので、どんな突拍子もない言動でも受け入れちゃうんですね。
……前妻と別れた原因ってなんなんだろう。普通の女性なら、この男のこういう所耐え難いものがあるのかもしれない。ただメンタル薄弱の割にワガママで自分を守るために嘘を付き、自分も相手も傷つけ振り回しがちな兎羽みたいな女には、魔性なんじゃないだろうか、このタイプ。

わりと大吾くんの感性は間違っていなくて、フラットに見ると彼にとっての、そして彼女にとっての運命って、大吾と兎羽のカップルに見えるんですよね。

ただ、この物語においては、運命とは曖昧模糊としたイメージだけの概念ではない。
厳然とした「約束」だ。
そういう意味においては、大吾と獅子乃は間違いなく運命の間柄。大吾にとっての運命の女は獅子乃なんですよね。
それは、前世にて命の尽きる果てにて交わされた絶対の約束。来世の誓い。
果たしてそれを運命と呼ぶのなら、運命は遂げられるべきなのか。

どうやら、その前世の世界には兎羽の席もあったんですよね。しかし、前世では兎羽は大吾の運命にはなれなかった。しかし、その事実もまた考えてみれば運命的ではあるんですよね。

さても、彼らの経験した、そして思い出しつつある前世とはいったい何なのか。
1962年という年代に繰り広げられるサイバーパンクの世界。というだけで、それは単純な過去ではないことは伝わってくる。では未来? いや、未来と言うには1962年という年代が否定してくる。
それはさながら、似たような世界の皮をかぶった異なる次元の世界。現代とは違う文明の発展をみたパラレルワールドなのか。はたまた、どこぞの神のまどろみによって生み出された胡蝶の夢か。あるいは狂った計算機によって導き出された仮想の世界なのか。
単純に未来世界にしなかったのは面白いと思うんですよね。滅びゆく肉の実態を失いつつあるサイバーパンクな世界、というのはどこかレトロな雰囲気があるんですよね。銀河鉄道というフレーズが出てくるからか、おとぎ話のような風情もあり、60年代という時節も相まって大四畳半惑星的なオールドSFの空気もある。
異世界というにしろ、どこかの未来世界というにしろ、なんか現実感がないんですよね。その一方で、登場する人間には命の脈動を感じさせる。
前世も、そして今、大吾たちがいる日本も、果たして現実に実在している世界なのだろうか。なんかおう、世界観そのものに大きなギミックが隠されているような感覚があるんですよねえ……。

とはいえ、メインは大吾を巡る姉妹の相克である。
彼らの前世は、今と直結している。前世の記憶は、今の彼らの記憶である。記録じゃない、感情を伴う、想いを引き連れた、連続した記憶だ。
である以上、愛する想いは叶わなかった前世を発射台にして、今や止められぬ噴射となって彼らの背中を押していく。
一方で、この今の時代で芽生えた思いもまた真実だ。かつてのそれが運命なら、今ここで巡り合ったのもまた運命。過去と今の運命が、姉妹として激突する。そして、ダメな誠実屋であるバツイチは、嘘をつけないし約束を投げ捨てることも出来ず、想いに対しては常に一途だ。
そして今、運命も愛も想いも厳然として二つある。
……うん、やっぱりどうしようもなく修羅場だね!!