【軍人少女、皇立魔法学園に潜入することになりました。3 〜乙女ゲーム? そんなの聞いてませんけど?〜】  冬瀬/タムラ ヨウ 一迅社ノベルス

Amazon Kindle BOOK☆WALKER DMMブックス

エリート軍人ラゼがセントリオール皇立魔法学園に潜入してからもうすぐ1年。
もしかしたら気が緩んでいたのかもしれない。乙女ゲームの攻略対象であるイアンに槍術を教えて親密度を上げたり、貴族同士のいざこざに巻き込まれたりと、本来はヒロインや悪役令嬢に起こるはずのイベントをラゼが回収していた!
そして、乙女ゲームのメインキャラたちは2年生に進級し学園祭を企画すると、材料の調達班に任命されたラゼは、攻略対象のアディスとクロードとともに水の都へ向かう。
そこでもなぜか、ヒロインに発生するはずのイベントでラゼが誘拐されて……!?

前世知識と軍人としての技能をフル活用しても、ミスをする時だってあるんです!
軍人ラゼの異世界転生ラブコメディ第3弾♪
見てくださいよ、この甘いジェラートに相好を崩しちゃってホント美味しそうに幸せそうにしているラゼちゃんを。
軍のエースにしてエリート部隊の隊長としての身分を隠して、貴人の子息たちの護衛という名目で学園に通うラゼですけれど、この笑顔を見たらどれだけ学生というこれまで彼女が経験できなかった身分を堪能できているのかが伝わってくるようじゃないですか。
それでいて、護衛の任務はきっちり務めてるんですよね。軍人としての任務を蔑ろにしている事は無論なく、やるべき事はきっちりと熟しながらちゃんと学生として楽しめているの、偉いんだよなあ。
休みの日は部隊に戻って、魔物の討伐や溜まった隊長としての裁可が必要な事務処理なんかもやりながらですから、ほんと偉いです。
友達から買い物や遊びに誘われて、必死の思いで仕事を片付けて休日を確保する様子なんか、二重生活の大変さとギャップを大いに感じてしまうのですけれど。社会人と学生の二足のわらじ、しかも軍人ってのは大変だろうなあ。どこか家族のために仕事に追われるパパ味を感じてしまうところでありますが、そうしてひねり出した休日で女学生らしくキャッキャとはしゃいで楽しんでいる様子がまた、なんとも味があるんですよねえ。頑張ってるよなあ。
……宰相たちも、ラゼのために学生身分の護衛任務なんて彼女の休養と貴重な青春を味わわせてあげるための言い訳をひねり出したくせに、軍人としての仕事は全然減らさないというのは結構鬼畜である。
いや、それだけラゼが有能すぎて、ついつい仕事を振ってしまうという事なのでしょうけれど。

でも、宰相たちエライさんの前ではきっちりと襟を正して【狼牙】ラゼとしての振る舞いを崩さなかった彼女が、任務内容とはまた別の学校に通っている際の私的な普段の様子や学園で出来た友人のことなんかを聞かれた際に、ラゼちゃんてばホロッと年相応の女の子に戻っちゃったんですよね。
上司に報告するのではなく、家族に家で学校のことを伝えるみたいに一生懸命手振り身振りまで加えるように、多分ちょっと早口になってまくし立てるみたいに、学園のこと友達のことを楽しそうに話し出すラゼの姿が、もうなんか尊くて尊くて。
これ、聞いていた大人連中も思わずニコニコしていたんですけれど、気持ちわかりますわあ。彼女がちゃんと貴重な青春を満喫しているのが、見るからに伝わってくるじゃないですか。
この任務、つけて良かったなあ、と思うじゃないですか。

特に本来のゲームの主人公であるフォリアや、同じ転生者にして悪役令嬢なカーナとの女の子同士の親密な関係も尊くてねえ。彼女たちの恋を応援するラゼの姿勢は、任務のものなんかじゃなくてあくまで友達だから、と奔走してるんですよね。こういう所はほんと自然体でいいんですわ。
転生者として原作ゲームに非常に詳しいカーナに対して、ラゼの方はさっぱりゲームについて知らない、というのも彼女の行動選択に余計なバイアスをかけない仕様になっていて、面白い要素になってると思います。一方で、この世界がゲームのシナリオにもとづいて動いていること、そしてカーナが悪役令嬢として悲劇に見舞われることはカーナが不安混じりに語って、ラゼに相談してくれることから良く承知しているわけで。
突如見舞われる色んなトラブルを解決してまわるラゼは、もちろん任務もあるんだけれど、友人であるカーナを助けるためという理由付けもあって、カーナから見てもちょっとしたヒーローなんですよねえ。ちなみに、カーナはラゼが転生者というのは知っていても、彼女が軍人で潜入任務についている事。その正体が狼牙という称号で呼ばれる実在すら疑われる伝説の生きた英雄である事は知らないんですよねえ。
この辺、ラゼは学生の範疇からは飛び抜けた実力を持っていることは、徐々にバレつつあるんですけれど、元冒険者という肩書でうまいこと隠蔽していて、正体についてはほぼ完璧に周囲には隠すことに成功しているので、余計にこう……正体を隠して戦うヒーロー味があるんですよね。
だから、いずれ正体がバレる、或いは堂々と正体を明らかにして軍服来て彼らの前に立つ瞬間が想像するだけでワクワクするのである。
それはそれとして、今の瞬間、誕生日を祝われて感動し、美味しいものを食べて昇天し、文化祭を成功させるために走り回り、夏休みを友だちと遊ぶラゼは可愛くて仕方ないのですが。
そういう可愛いラゼだからこそ、直向きな姿に男連中も色々と感化されてしまうのである。平民の特待生という特殊なポディション。そして元冒険者、という自分の腕で生きてきた来歴。現役の軍人という身分を隠していても、外の世界で一人で生きてきたという経験はふとした瞬間に、まだ学生の身の上である男の子たちには大人びた、と見える背中や横顔を垣間見せることになるんですね。
貴種として責任ある立場として幼い頃から厳しい教育のもとに育ってきたとはいえ、彼らはまだ社会の中で自分の力だけで生きたことが無いだけに、ラゼの中に垣間見えるゆるぎのない芯みたいなものは、きっと視線を奪われてしまうものがあるのでしょう。普段、普通の女の子と変わらないあどけない顔を見ているだけに、尚更に。
そのせいか、この作品に出てくる男連中って変に立派な青年的、男性的なところよりも、年相応な男の子らしい所がよく見えて、なんか可愛げがあるんですよね。
斜に構えて生きてる宰相の息子のアディスや、王太子の影として生きる事を受け入れているクロードといった面々ですら、まだ大人になり切れない十代半ばの男の子なんだなあ、という未熟さと背伸びするような頑張ってる初々しさがあって、いいんですわ。イアンくんみたいな無邪気さもそうだよなあ。
でも、そういう初々しくも頑張ってる姿にこそ好感も持てるわけで。頑張れ、男の子たち!