【百花宮のお掃除係 7 転生した新米宮女、後宮のお悩み解決します。 特装版【短編小説付き】】  黒辺 あゆみ/しのとうこ カドカワBOOKS

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天才琵琶師・許(シュ)は、恋人が東国の戦で命を落としたと聞き、演奏を辞め、自棄になって阿片騒動の犯人だと嘘をついてしまった。しかし雨妹(ユイメイ)たちは、明(ミン)が拾った東国から流れついた
という記憶喪失の男こそが死んだはずの許の恋人ではないかと推測し、彼の記憶を取り戻すべく動き出すことに!
また、未解決の阿片騒動の後始末をすべく、黄美蘭(ホァン・メイラン)の宮の掃除を任され、仲良くなった雨妹。美蘭の息抜きに生け簀へ釣りに誘ったところ、東国の密偵と遭遇してしまい……!?


皇帝陛下、先日に杜という偽名の宦官を装ってついに雨妹の前に姿を現してしまった事でもう自重が失せてしまったのか、なんか暇さえあれば杜さんとして出現しはじめたぞ!?
雨妹のところに遊びに来るだけならまだしも、ひょいひょいと王城の外である明さんの所まで用事があったとはいえ、自分で顔出しているあたりお忍びの外出にハマってしまったんじゃないだろうか。
いや、元々フットワーク軽い人だったみたいで、若い頃から件の明さん連れて外出歩いていたわけだから、最近になってまた腰が軽くなったという事なのでしょう。鬱々としてあんまり動く気になれなかった頃と比べれば、随分と前向きになって意欲が戻ってきたという事なのでしょう。
琵琶の奏者である許子の件では積極的に手をうち、自分でも脚を使って動いていたわけですしね。
ともあれ……なんか、いつの間にかお兄ちゃんな太子殿下よりも志偉陛下の方が出番増えてるぞ。増えてるというか、この人自分でグイグイと呼んでもいないのに出てくるようになったからなあ、上記したように。
でも、色々とスマートに物事を解決へと導いていく手管、というか道筋の付け方がやっぱり叩き上げで皇帝になった人だけあってか、練達なんですよねえ。威風堂々として。頼もしいですわ。
まだまだ太子はこういう強引なくらいの豪腕さと、それをスムーズに形にする経験値が若さ故か足りてないかもしれませんねえ。太子だけ見てた時はまったく不足感じてなかったのですけれど、上には上がいるということだなあ。それでも将来有望、陛下も太子を後継者としてビシバシ仕込んでいくつもりみたいですし、頑張れお兄ちゃん。
もうちょっと強引に出番確保してもいいんだぞ。いやまあ、これからちょっと忙しくなるかもしれないから、妹の所に遊びに来るなんて真似している暇ないかもしれませんけれど。
結局、阿片をはびこらせた黒幕の根っこまでは掘り起こせなかったですもんね。ばらまいていた仕組みとルートは雨妹の好奇心もあって、だいたい引っ張り出せたかもしれませんが。
それでも、宮殿の端っこの方とはいえ武器持った間者が後宮の中にまで忍び込んでる状況というのは、何気に相当危ういですよ。さて、手引をしているのはどこの誰なのか。
陛下あたりは絶対、芋づる的に最後の根本まで引きずり出すつもりで虎視眈々と狙っていそうですが。
でも、それは最終的にどれほど仲が悪くても、恨みしかなくても、実の母親と決着をつけないといけない、という事で。覚悟は決めていても、心に淀むものはあったかもしれません。
でも、皇帝ではないただの杜という宦官として、ただの掃除係の下っ端である雨妹との気楽で肩肘張らない語らいの中で、血の繋がりとは関係ない、親は子が自分で選べるもの、という雨妹の言葉は彼にとって曇を晴らしてくれる本当の救いの言葉だったんじゃないかなあ。
変に公主として取り立ててしまうのは雨妹も望まないだろう、と察してはいても、愛した女の愛する娘が下女として働いている事を本人がどう思っているか、なんだかんだと気になっていただろう時に、本人の口から今幸せですよー、と告げられた事も相まって、陛下の気がかりとか重石みたいなもの、今回で本当に一切合切取り払えたんじゃないでしょうか。
この二人、お互いちゃんと父娘であると承知していて、相手がそれを知っている事もわかっていて。でも表向きは他人同士の振りをシて、でもちゃんと父娘として語り合ってる姿が今回は本当に尊くて素敵でした。皇帝と公主じゃ話せなかっただろうことも、くだけて本音で語り合えて。
親は子の方で選べるんだ、と言いつつも、雨妹は陛下の事をちゃんとお父さんとして接してるんですよね。辺境で育ててくれた尼さんたちを親のように思い、今再会したこの父親のことも、父親だと思っていると何気なく伝えてるんですよね。
屈託なく笑い合う二人の姿、本当に良かったなあ。ここいち素敵なシーンでした。
この巻の本題となる、悲劇の琵琶奏者の愛する人との奇跡の再会も、皇帝陛下の見事なプロデュースで、あれだけ劇的にやられるともう完敗の乾杯ですよ。
最後にちらっと、余がお膳立てしたぞよ、てな感じでバラすのも、ちょっとした時代劇の名場面的な盛り上がりがあって、良かったですよ。許子さんもよりにもよって皇帝陛下ご本人がずっと手ずから助け守ってくれた末に死んだと思われていた恋人と再会するまでを尽力してくれていた、なんてわかったら感動どころじゃないでしょうし。
今回は良い父娘タッグでありました。その脇で、えらい勢いでパシリにさせられていた立勇さん、マジご苦労さんでした。太子の側近で偉いはずなのに、今回何度メッセンジャーとしてあっちこっち走り回らされたんだかw
まあ、放っておくと何かを仕出かすか、巻き込まれる雨妹を心配して自分で立候補した回数も多いんでしょうけれど。こちらの二人もいいコンビだとは思うんだけれど、色気のかけらも生まれないなあw
前半の黄美蘭徳妃の方が男勝りの自由人なんだけど、ちゃんと妃として務め果たす気があって乙女心見せてくれてるんだよなあ。
いや雨妹も、美蘭さまにお嫁さんとしての心構えを教えるのはいいけれど、あんたはどうなんだ、とw
雨妹はオバちゃん気質と小娘気質が尖りすぎてて、ちょうどいい塩梅の乙女の部分が全然見当たらないの、これどうにもならんのだろうなあ。


さて、特装版に付属の短編は3話。
1つ目は以前に登場した雨妹の腹違いの弟妹である友仁皇子と莉公主。故あって病気がちだった二人共すっかり元気になって、皇族なのに大丈夫?という勢いでお供の人置き去りにして走り回ってるんですがw
元気なことは良いことだ。二人共雨妹に懐いているし、良い形で個性的な面も出てきているから、本編に出番がないの勿体ないんですよねえ。
もう一話は陳先生と一緒に苦いお薬を美味しく飲むための方法に頭をひねるお話。オブラート、なんてものはまだないわけで。昔は水飴を舐めるのが定番だったんですねえ。でも、下手すると余計に苦味が出てしまうというのは知らなかった。
そして最後は、最初期に雨妹に掃除の仕事を押し付けて、自分はサボった上に徒党を組んでなにやら出世を狙っているかのような振る舞いを見せていた、同じ掃除係の李梅のお話。
ただ仕事したがらないやる気のない下女、というわけじゃなかったのか。彼女にも彼女なりのこの後宮にやってくるだけの理由があり、複雑に入り組んだ感情があり、それをコントロールしながら強い意思を持って目的を果たそうと、戦っている。色々と事情のある、そして行動している娘さんだったんですねえ。
まあ雨妹とは生きる上での趣旨も、後宮での目的も何もかもが違って、相容れないというよりもかち合わないすれ違わない別世界にいる、という感じなので、二人の物語が交錯することはまずなさそうだなあ。そして掃除は絶対にしないw