【異世界の落ちこぼれに、超未来の人工知能が転生したとする 結果、超絶科学が魔術世界のすべてを凌駕する】  かずなし のなめ/山椒魚 ドラゴンノベルス

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「心」とは――。その命題を求め、最強の人工知能が異世界に生まれ落ちる。

人が持つ“心”とは何か――その問い<バグ>を最期に機能を停止した人工知能は、落ちこぼれの少年に転生した。
僅かな魔力で再現した超技術<オーバーテクノロジー>“5Dプリント”により粒子兵器を生成し、学習を重ねる人工知能は、護るべき相手や王女との出会いを経て、その力を騎士として振るうことを選ぶ。
“心”を知るため、人々の笑顔を護る――これは、機械仕掛けの騎士譚!


人工知能が転生、って一体人工知能の何が転生したんでしょうね。
「電線に、電気を流すと、そこには意識が生じるんです。」とはあるSF作品でAI自身が語る台詞なんですけどね。彼……戦闘用アンドロイド・シャットダウンにはすでに意識が生まれていたと思うんですよね。果たしてそれが魂だったのか、心だったのかはわからない。
でも、彼は自分自身を認識し、自分自身に疑問を持ち、心とは何かを問いかけ始めた。
命じられるまま戦う自分に疑問を抱き、戦うことに無意味を感じ、いつしか彼は心というものの定義を求め始めた。心とは何かを問い続けるバグを生じさせてしまった。
さながら、自身に心を求めるが如く。

我思う故に我あり。

少なくとも、前世の人工知能の段階で、彼の中で何かが生じ始めていたのは間違いない。そして転生先で人間に生まれ変わったことで、彼はその手に入れたナニカを動かすためのOSとも言うべき人間の肉体を手に入れたのだ。
すでに動かす機能は備わっている。だが、ハードはあってもそれを動かすためのソフトを彼はまだ常備していなかった。
彼はそれを親身になって世話してくれるケモミミメイドのアイナを通じて学んでいくことになる。

機械が人間と同じ心を宿していく、とか人型の機械が本当の心を持つようになる、というパターンの物語は決して珍しいものではないけれど、機械がそのまま……そのままの定義も難しいんだけど、人工知能の在り方そのままに人間の肉体を得てしまう、というパターンはなかなか少ないんじゃないだろうか。
それでいて、人間のフリもせずにオールドタイプな人工知能そのままの喋り方で応対し続けるとか、これ普通にアタマおかしくなったと思われても仕方ないですよね。特にAIどころか機械文明すら存在しないファンタジー世界では、一度死んだ人間が息を吹き返して意識を取り戻したら、古いAIみたいな喋り方で意味のわからないことを話し始めたら狂を発したと思われても仕方ないと思われる。
肉体的にも社会的にも精神的にも彼……クオリアしか拠り所がなかったとはいえ、アイナはよくまあ何を言ってるかわからないようになってしまった主人に献身的に世話したものである。
アイリの献身的な介護のおかげもあったのだろうけれど、クオリアの元の肉体の持ち主である少年の脳がフォーマットとなった事も理由としてはあるのだろう。
彼の中に宿った心は、差別と悪意と欲望が振りかざされる世界の中で真っ当な健全さを宿して育っていく。善悪の区別無く真っ白に初期化されていた、というわけでもなさそうなんですよね、クオリアの心って。
もっとも、アイナが身を挺して人を傷つけること、人を殺すことの禁忌を教えてくれなければ。
ロベリア王女が正義の在り方を示してくれなければ、クオリアは最大効率の最適解を突き詰めていき、そこに現れるのは非人間的な効率を持って有益を取り込み、有害を容赦なく排除していくマシンに成り果てていったのでしょうけれど。
彼の人間としての成長には、たしかに他者との関わり、特にクオリアという少年のことを思ってくれる人との繋がりこそが必要だったのでしょう。
心を知りたいという欲求は、彼女らとの繋がりの中でやがて人間になりたいという希求へと大きく広がっていくのである。
しかし、そういった人との関わり合いの中での心というものの習学とはまた別に、すでに彼の中に心が生じているからこそ、彼の意識・制御を離れて衝動的に起こってしまう心の動きも発生する。
それは性欲であったり、怒りであったり、といった感情の爆発だ。そして愛おしさや、感謝といった他者に焚べる想いもまた、彼の制御できない心の動きとして、彼を突き動かしはじめる。
計算では図りきれない、効率では対処しきれない、様々な心の動きに、それを生じさせる人との関係に彼は直面し続けることになる。
そして、それらをかけがえのない大切なものとしてクオリアは認識し始めるのだけれど、その大切なものを守るためにこそ、人間になりたいという願いをかなぐり捨てて、再び機械に、ただ戦うための戦闘アンドロイドに立ち戻ろうと決断していく姿は、何ともこれぞ機械の身を経てついに手を届かせた心の発露、という感じで素晴らしかったなあ。
彼の視界が人間の目を通した光景から、0と1の数字で埋め尽くされた世界へと転換していくシーンは、人間から機械へと変化していく境界線をまざまざと見せつけてくれる実に印象を焼き付けてくれる描写でありました。こういうの好きです、はい。
妙に人間臭い機械、というのも大好きなんですけれど、無骨なくらいロボット的な機械が得ていく人間味、というのもまたいいものですよねえ。

まだ騒乱を巻き起こすべく暗躍している組織の全貌も浮かび上がってこず、またロベリア王女が失ったという家族のような大切な存在、という人の正体も妙に怪しさが残っていて、まだまだ謎も多いだけに、続きがまた楽しみであります。