【悪役の王女に転生したけど、隠しキャラが隠れてない。】  早瀬黒絵/ comet TOブックス

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「大丈夫、もし君が死にそうになっても、死ぬ前にオレが殺してあげる」
その“暗殺者"は、わたしににっこりと微笑みかけた——。
乙女ゲームの世界で5歳児の“悪役王女"・リュシエンヌになって以来、ずっと王妃たちからの暴力と空腹に耐える日々だった。そんなある日、隠し攻略対象の彼と出会った。名前はルフェーヴル。薬草の手当てで寝かしつけてくれたり、動けないわたしに水やビスケットをくれたり。生まれて初めて触れた温かさに——わたしは決めた。
「お兄ちゃんにだったら、ころされてもいいよ」
シナリオにはなかった孤独な二人の出会いが、ゲームを根底から変えていく! 無垢な王女と腹黒アサシンの年の差・偏愛ファンタジー!


ぎゃーー、これはアカンやつやー。
王女でありながら、その生まれから王妃たちによって生まれたその時から虐待され続けていたリュシエンヌ。
彼女は愛を知らない。幸せを知らない。人の優しさというものを知らなかった。
とにかく虐待がえげつないんですよ。路上の浮浪児とさてどちらがマシか、という扱い。食べ物すらもろくに与えられず、城の調理場に夜中に忍び込んで残飯を漁る日々、って想像を絶するんですが。それもまだ5歳にも満たないような娘が。
肉体的な暴力も日常的に与えられ、姉妹兄弟であるはずの他の王女や王子からは野良犬のように痛めつけられ、遊びの的として石をぶつけられるのも当たり前。
そりゃ、心も育たない。
正史では、この後あまりにも酷い国の運営をしていた王族たちは、クーデターによって鏖殺され、一人リュシエンヌだけが除名され、新たに王となった男の養子として育てられるのですが……。
哀れみを持って命だけは救われた彼女は、しかし新たな家族にも虐待はされなくても、国を傾けた旧王族として忌避された結果、愛を与えられること無く……彼女は長じて味わったことのない愛を求める怪物と化していくのでありました。
自分には与えられなかった義兄弟たちの、家族の愛を奪い取っていくゲームのヒロインに、憎悪を滾らせ、そもそも存在しない愛を取り戻そうとするモンスターに。
リュシエンヌとは、そんな来歴を辿るはずだった悪役令嬢。その卵。しかし、ふとした瞬間に取り戻した前世の記憶が、彼女の運命を変えてしまう。
記憶を取り戻したリュシエンヌだけれど、ゲームの知識を利用して歴史を改変する、なんて真似は出来なかったんですよね。そりゃそうだ。自由のない囚われの被虐待者。自分の命を繋ぎ、守るだけで精一杯。使用人も誰も彼女に関わろうとしない、孤独の5歳児。何が出来るというわけじゃない。
ある時、出会ってしまった暗殺者の男を除いて。
記憶を取り戻したことでリュシエンヌが得たのは、理性でありきっと当たり前の優しさだったのでしょう。辛いことを耐える我慢もそうだったかもしれません。この娘は、どれだけつらい目にあっても、自分以外の誰かを気遣える強さを得たのでした。それが、気まぐれな暗殺者の興味を引くのである。
でも、どれだけ前世の記憶で愛を知り、幸せの意味を知り、優しさを取り戻しても、王妃たちの与える苦痛が辛いのは変わらない。辛いなんてもんじゃない、あれは拷問だ。それが幼い心をどれだけ傷つけ、壊していくのか。
どれほど理性的であっても、リュシエンヌの心は間違いなく壊れていく。純真無垢のまま歪んでいく。
そして、その歪みにピッタリとマッチしてしまったのが、ゲームの隠し攻略キャラだったルフェーブル。隠しキャラの彼の存在は知っていても、その攻略はゲームをプレイする前に死んでしまったリュシエンヌには預かり知らぬこと。だから、彼女は彼の魔性に引かれていき、彼は彼女の無垢に溺れていく。
ルルことルフェーブルは、完全にヤベえ奴である。サイコパス、どころじゃないよな、これ。悪鬼魔性のたぐいでしょう。明らかに人格が歪んでいる。喋り方からして気持ち悪いし、異常をわざと漂わせてると言っていいんじゃないだろうか。
そんな彼がリュシエンヌと出会って、歪んだ心が癒やされたかというと……いやこれ、だめですね、余計に歪んだんじゃないだろうか。5歳児に夢中になっていく暗殺者。自分に依存させて自分がいないと生きていけないようにしてやろうと五歳児を沼に沈めてやろうとしながら、自分がズブズブとハマっていってしまうのを、自覚しむしろ興に感じて自分からズブズブとハマっていく変態野郎。
将来彼女が成長したら嫁にすると、私的にも公的にも権力者相手にも確約させてしまうヤベえやつ。病んでる、もうどうしようもなく病んでるよ。そんな彼を小さな体と真っ白な心でまるごと受け止めて受け入れてしまうリュディエンヌ。
さながら癒着するかのように、お互いが離れがたい離れようとも思わない依存関係へと沈んでいく二人。これもまた、幸せの絶頂と言えるのか。
そんな二人だけど、それでもクーデターが始まる前のリュディエンヌがひたすら虐待され続け、それを彼女が小さな体でじっと我慢している姿を見せられていると、早く助けてあげて。どれだけ異常者でもルルの庇護にいるほうがマシだ、と思えてくるんですよね。本当にギリギリだったリュシエンヌの心を支えていたのは、ルルとの逢瀬。彼こそが救世主であったことを思えば、後から周囲がやいのやいの言ったところでもう二人の間にどんなくさびも打ち込めないんですよねえ。
リュシエンヌは優しいから人の話はちゃんと聞く娘で、相手から愛情を与えてもらったらそれを返そうとする娘だけど、それでもルルはあまりにも特別な相手になってしまった。

これ、成長していくに連れてリュシエンヌは新王族の養子である旧王族として複雑な立場に立たされるし、長じてゲームと同じ年齢になっていけば学校にだって通うことになるわけだけど、他人との関係が増えていく中で果たして、この二人のズブズブの関係はどう維持されていくのだろう。新たに兄弟となった義兄の王子様とは、正史と違って仲良くなれたわけだけれど、仲良くなったらなったでルルのヤバさがやばい形で発露されないか心配になってくるスリル。
無敵の暗殺者すぎるので、いざとなると平気で皆殺しルート入っても不思議でないヤバさなんだよなあ。むしろ、リュシエンヌがスイッチであると同時にマトモな彼女自身がストッパーなんだよなあ。
ちょっと成長したあとの2巻が、色んな意味で楽しみでちと怖いw