【創成魔法の再現者 3.魔法学園の聖女様(上)】  みわもひ/花ヶ田 オーバーラップ文庫

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――キミ。
本当はものすごく強いよね?

ユルゲンから密命を受け、貴族が通う王立魔法学園へ入学したエルメス。
とある事情で『原初の碑文(エメラルド・タブレット)』の使用を禁じられたエルメスは、家格や魔法に難ありの問題児が集まるBクラスへと配属される。
実力を隠して学園生活を送るエルメスを自分たちよりも弱く、出来損ないであると見下すクラスメイトたち。
そんな彼らの傲慢な所業にエルメスが黙っているわけもなく……!?
実力の一端を見せてBクラスを認めさせたエルメスは、彼らが燻る理由を優等生が在籍するAクラスへの劣等感だと看破。
Aクラスを超えるべく常識を破壊する魔法講義を開始して――!?
無才の少年が世界の常識を覆す最強魔法譚、第3巻!

ポニテ剣術少女は私の属性ストライクなんで、今回の表紙絵は見た途端にときめいてしまいました。
わーい、聖女さまカッコいいキレイかわいーー……あれ? 聖女ってこんな娘だったっけ?

違いました。違うじゃん! いや、サブタイトルが聖女ちゃんだったから、一瞬聖女ちゃんだと思っちゃったじゃないか。
真面目な話、今回のメインはこの表紙のニィナと聖女のサラの二人のうちのどちらなんだろう。ニィナはかなり目立ってはいたけれど、話の主筋からするとニィナはあくまでサポート的な立ち位置に徹していて、サラの方がメインっぽいので表紙を飾るのはサラの方で良かったようにも思うのだけれど、下巻の方がよりサラが主役になっていくんだろうか。
……実のところ、今回何気に一番メインだったのってアルバートな気もするしなあw

ユルゲンの計らいもあり、カティアの従者ながら魔法学園に生徒として通うことになったエルメス。
ユルゲンパパの思いとしては、エルメスに真っ当な学生生活を送らせてあげたい、という保護者目線の考えと同時に、エルメスが波乱の目となってこの国の魔法への考え方を根本からひっくり返してやりたい。その先鞭としてまだ腐りきっていない若者たちの意識改革を、エルメスが起こしてくれないか、と期待しての事だったんですね。
言わずとも、エルメスは放っておいたらどうしたって無視できない嵐になりますしねえ。
しかし、ようやくエルメスと一緒に学校に通える、とウキウキだったカティアが、魔法をちゃんと使えるようになった事でエリートクラスであるAクラスに昇格してしまい、エルメスはBクラスに編入という、一緒にクラスになれないという事態に見舞われて、絶望に膝をつく様子はなんかこう愉悦を感じますなあw
可哀想にw
いや、マジに楽しみにしてたのに、ほんとにかわいそうだな。
その後も、クラスの事にかかりきりになって、学校では会えないし家でも忙しそうにしていて構ってもらえない、という先日までと打って変わって全然エルメスと触れ合うことができなくなって、ストレスゲージがどんどん溜まっていくカティアさんが、なんとも愉悦でありましたw
いやー、面白いわこの娘。

さて、この魔法学校、血統魔法の強さによってAクラスとBクラスに分かれてるんですね。わかりやすく、エリートクラスと落ちこぼれのクラスという形に分断し、カーストを形成することで下位と位置づけた相手を踏みにじることで、自分達の立ち位置を確立していく、という最初から与えられた力によって階層を決定し、意識もそれが当たり前だという上下関係を刷り込んでいく。たしかになかなかに腐っている。
虐げられながらも、階層意識を刷り込まれたBクラスの生徒達は平民落ちし、魔法も大したものを扱えない(と装っている)エルメスを、Aクラスの連中と同じようにあざ笑い下に見下して安心を得ようとするんですね。
サラや、剣術に長けたニィナといった例外を除いて、Bクラスの面々は変わることを拒絶し、自分達を虐げる構造に閉じこもったままで、現状を維持しようとしているのである。
それを、しばらくこのBクラスで過ごしたエルメスはすぐに見限ってしまうんですね。感情が非常に希薄になってしまっているエルメスにとって、身内と認めた親しい人達以外に割く関心は非常に乏しく、エルが劣等だろうと図抜けた天才だろうと変わらず拒絶反応を示すBクラスの連中に対して早々に興味を失ってしまうんですね。
それを一生懸命引き止めたのが、サラでした。エルが十把一絡げに見ていたBクラスの面々。僅かな時間しか触れていなくて、しかも興味関心を抱かずに通り一遍等のコミュニケーションで判断してしまったエルと違って、サラは長い間諦めること無くずっとBクラスの面々一人ひとりとこれまで触れ合ってきたんですね。だから、一人ひとりのことをモブでも書割でもなく、一人の人間として語ることが出来る。その人が抱えている思いも、悔しさも、その在り方も語ることが出来る。
サラがこのBクラスで聖女と呼ばれ、本気で慕われているのは、単なる上っ面の優しさゆえじゃないんですね。キレイで美人で優しいから人気なんじゃない。本気で寄り添って本気で虐げられて縮こまってしまった自分達の心に触れてくれた人だから、サラはBクラスで絶大な人気を誇っているのでありました。単なる人気者じゃなかったのだ。
そんなサラが、エルメスとBクラスの面々を繋いでくれたのである。彼らの抱えていた悔しさを、表に出せなかった情熱を、魔法へと純粋な渇望を、強さへの憧れを、自分も出来るんだと証明したい滾りを……燻って熾火になってしまっていたそれを、掘り起こして、エルメスに突きつけてみせた。それがサラの成し遂げたことだったのだ。

Bクラスが変わったのは、たしかにエルの存在があったからだろう。彼の強さが、Bクラスの面々にもしかしてと思わせた。彼の教導が、これまで強くなる方法を知らなかった生徒たちにきっかけを与え、彼の厳しい訓練が火をつけた。でも、それはエルが手取り足取り引っ張って起こしたことじゃなかった。
ちゃんとBクラスの面々が自分達で立ち上がって、自分達の意思で勝ちたいと、悔しく惨めな思いを覆したいと、Aクラスの面々を見返してやりたい。落ちこぼれだと決めつけた世間をひっくり返してやりたい。その思いを自分で引き起こし、立ち上がってみせた。自分達で。
それが素晴らしかった。
圧倒的で手が届くとは思えない遥かな頂きを目の当たりにし、自分の身に味わっても、折れずに諦めること無く、いつか自分もと奮い立つ若者たち。
先日のカティアのように、若い芽が確かに芽吹こうとしている。

師匠は嬉しいだろうなあ。かつて諦めてしまった、見限ってしまった自分の代わりに、愛する弟子が自分一人だけじゃなく、若い世代全体に魔法の可能性を拓いていこうとしている。カティアやエルメスの兄の存在だけでも相当に嬉しかっただろうに、今度はこんなにもたくさんの若者たちが、でしたもんねえ。
それはそれとして、我慢が限界に達してAクラスとBクラスの対抗戦で自分をハブにして盛り上がっちゃってるエルメスたちに、いい具合にスイッチ入ってブチ切れてしまうカティアさん。Bクラス相手にそんな無双しちゃって、まあw
わりとエルメスに関しての事で全然我慢できないあたり、カティアと師匠ってわりと似たもの同士ですよね。というか、エルメスは師匠にやるくらいの勢いでカティアの事毎日ちゃんと甘やかさないとこれすぐに爆発するように、カティアさんセットされちゃったんじゃないだろうかw

対抗戦がキレイに決着して、話としても区切りがついたと思うのだけれど、巻としては上下巻構成なんですね。劣化アスター王子だったクライドが結局小物だったくせに血統魔法に関してはついに最後まで開示しなかったのは、次回につなげる伏線なのだろうか。小物なのはどうやっても変わらなさそうだけど。あと、ニィナの切り札であろう血統魔法もまだ秘密のままですし、次はニィナがメインになってくるんだろうか。