【見上げるには近すぎる、離れてくれない高瀬さん】 神田暁一郎/たけの このよう。 GA文庫

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身長差20センチ――だけど距離感0センチ

「自分より身長の低い男子は無理」
低身長を理由に、好きだった女の子からフラれてしまった下野水希。
すっかり自信を失い、性格もひねくれてしまった水希だが、そんな彼になぜかかまってくる女子がいた。
高瀬菜央。誰にでも優しくて、クラスの人気者で――おまけに高身長。傍にいるだけで劣等感を感じる存在。
でも、大人びてる癖にぬいぐるみに名前つけたり、距離感考えずにくっついてきたりと妙にあどけない。
離れてほしいはずなのに。見上げる彼女の素顔はなんだかやけに近く感じて。
正反対な二人が織りなす青春ラブコメディ。身長差20センチ――だけど距離感0センチ。

そうなんだよ、わかってるんですよ。背が低いなんて揶揄されたって気にしなければ良い、無視すれば良い、笑ってそうだねーと流せば良い。それが処世術だ。
でも、そんな事理解していたって、感情がついていかない事はあるんだ。相手に悪気すら無くたって、心は傷つく。力が入らなくなって、気力が湧いてこなくなる事だってある。
多くを割り切れる大人だってそうなのだ。一番心が柔らかくなっている中学生になりたてくらいの年齢の子供にとって、頭でわかっていたって心で処理できないこと、整理できないこと、受け止めきれないことは幾らだってあるのだ。そういう生き物なんだよ、思春期の子供ってのは。
もし、受け止められなかった事を落ち着いて受け入れられるようになるとしたら。こんな事に傷つく必要はないんだ、と自分に納得が得られるようになるとしたら、さてそれには何が必要なんだろうね。
それこそ、人それぞれだろう。別に受け止められなかったって悪いわけじゃない。でも、受け止める時に感じるものが変わってくる、というのは子供から大人へと変わっていく中で生じる変化の一つなんでしょう。それを成長なんて安易に言ってしまっていいかはわからないけれど、彼……主人公の水希くんにとって、高瀬菜央という自分よりも20センチも背の高い女の子との、淡くも甘酸っぱい交流はコンプレックスを刺激しながらも、果たして背の高低差が彼女と自分の関係に、その仲に何ほどの否定的要素となるものか、という向こうっ気みたいなものを育てていったんじゃないでしょうか。
そして、自分が嫌だった背の低さ、惨めだと思っていた小ささを、彼女は何も気にしていない。自分を傷つけた悪意に対して、おとなしい菜央が敢然と否と言ってくれた。そして、自分の存在をまるごと肯定してくれた。
彼女が受け入れて認めてくれて肯定してくれて、好きだと思ってくれたのは今の自分である。そんな自分を否定することは、菜央の想いそのものを否定するようなものだ。
好意は時として、勇気をくれる。自信を与えてくれる。肯定は、支えとなってくれる。
心が柔らかい思春期の頃なら、尚更に覿面にそれらは作用するだろう。
ついこの間までランドセルを背負っていたような、幼子の殻を被っているような中学生という子供たち。乱暴に触れればそれだけで壊れてしまいそうなほど繊細で潔癖で、柔らかく、純粋で未熟で、しかし目一杯全速力で頑張っている、柔軟で弾けるようなエネルギーの塊で瑞々しいくらいに生きている年齢世代の子供たち。
そんな難しくも麗しい世代の子供たちの内面を生き生きと、丁寧に、これでもかと躍動的に描いている……その作家さんの前作が、真っ当なお日様のあたる道を踏み外しかけた擦れた大人たちの、息苦しさに喘ぐような、人の情に飢え焦がれるような生々しい薄汚れた現実と希望を描いた【ただ制服を着てるだけ】だというのが、これ比べてみると凄いですわー。
いや、圧巻と思えるくらい真逆の作品なんですよね。共通しているのは、描かれている登場人物への慈しむような労るような筆致くらいで、作品の雰囲気は本当にぜんぜん違うんだ。
見事な書きわけである。いや、いやいやいや、これほど鮮やかに書き分けられるんだ。描く主体となる登場人物の年齢や立ち位置によって、これだけ内面心情描写や登場人物の振る舞いから伝わってくる物語全体の色彩を、匂いを、手触りを作品に合わせて変えて描けるんだ。
その自在性たるや、これはちょっと凄いですわ。この作者さんの作品は色々な舞台設定で読んでみたい、と強く思わせてくれる牽引力でありました。

何より、水希と菜央の中学生、カップル未満の初々しくて辿々しくて甘酸っぱくてピュアピュアな恋模様は、なんかもう素敵でねえ、心洗われるようでした。可愛らしくて仕方なかった。願わくばずっとこんな二人で居てほしいけれど……でも、彼らもまた高校生になり成人になり、と成長し変化していくんですよねえ。それを見たいような、見たくないような……うむむ、でも何れにしてもいとおしくなる二人でありました。