【陽キャなカノジョは距離感がバグっている 出会って即お持ち帰りしちゃダメなの?】 枩 葉松/ハム 富士見ファンタジア文庫

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クラスの高嶺の花・佐々川綾乃。そんな彼女を偶然ナンパから助けたら――
「ありがとう、藤村」
って、日陰者な僕の名前をまさかの認知! その上、妙に懐かれるようになり……!?
以来、休日には家に連れ込まれ、子どものように「褒めて?」と迫ってきたり、お泊りしたり。
陰キャぼっち生活を謳歌していたはずなのに、気付けば彼女の存在が日常になっていて……。

「今日も家来るでしょ?」
「ぼっち? じゃあ私がひとり占めできるね!」
「……キミのこと、特別だと思っちゃダメなの?」

遠い世界の人だと思っていた彼女が、今となってはゼロ距離に。
大胆すぎる彼女に翻弄される、青春カーストラブコメ!

大胆なんかじゃ全然無いよ。余裕なんて全然ない。必死じゃないか、この娘。離さないようにしがみついている。置いていかないでと縋り付いている。そういう切実さだ。懸命さだ。
佐々川綾乃は確かに陽キャと呼ばれる人種に分類されるのかもしれない。モデルの仕事をしていて端役ながら役者としてもテレビにも出ている有名人だ。彼女の周りには人が集まり、彼女は多くの人に囲まれている。
でも、そういう娘だからって決してコミュニケーション強者というわけじゃないんですね。
主人公の京介は中学の時の失敗から、人と関わることを自ら避けているボッチだ。でも、綾乃の方も人の集まりの中にいるけれど、結局誰とも繋がれていないボッチなんですよね。
お金を介してしか繋がれない、集られるだけの友達と言えない友達関係。それでも一人ぼっちは耐えられないから、少しでもつながっていたいから、お金で仲良くするしか無い。そんな不器用で幼い人付き合いしか出来てこなかったのが綾乃という娘だったんですね。
社会に既に出ていて大人とも付き合いがあって経験豊富で友達も多くてグイグイと距離を詰めてくる陽キャ、なんてもんじゃなかったのだ。
綾乃の距離感がバグっているのは、単に友達との付き合い方を知らなかっただけ。だからこれ、陽キャに目をつけられた陰キャの主人公が、彼女の自由さ奔放さに振り回されながら彼女の世界に引き込まれていく、なんて陽性の話じゃないんですよね。
家族とも上手く行かず、形ばかりの友達にいいように利用され、空虚で寂しい想いをしていた孤独な女の子が、同じ孤独を纏いながらも親しい人を傷つけるのが嫌で誰とも親しくなろうとしてこなかった少年とめぐり逢い、孤独な者同士、凍える心を温め合うように寄り添う物語なのだ。
いや、寂しい寂しいと縋り付いていく子犬のような少女を、見捨てられず突き放せず、誰も傷つけたくないからこそ孤独を選んだ少年は、だからこそ傷ついたその娘がそれ以上傷つくのを見ていられなかった、不器用に辿々しく、でも誠実に彼女に寄り添おうとし続けた、そんなお話だ。
明るく笑いながらも、無邪気にまとわりつきながらも、綾乃の根底にあるのは切実さだ。世間体とおカネと風体で飾り立て覆い隠して繕っていた本当の自分を見つけてくれた少年を、離さないように、置いていかれないように、浮かれ湧き立つ心の裏で不安を押し殺しながら必死に健気に一生懸命に縋り付く。幼気な彼女は京介という少年に何を見ていたのだろう。
大人びた容姿でファッションセンスもビターで可愛いというよりもカッコいい大人の女性そのものな綾乃だけれど、その中身は見た目とは裏腹に年齢以上に幼いものに見える。そんな彼女が縋ったのは庇護者なのか自分を守ってくれる騎士さまなのか。何れにしても、異性だ男の子だ男友達だという括り以上により掛かる対象だったように見える。依存、という類のものとはまた違うだろう。彼女の心身のアンバランスさは、彼女自身の芯みたいなものをグラグラと揺さぶっていて、ただまっすぐ立つのも覚束ないふらついた状態だったんですよね。そして彼女にはそんな自分を支えてくれるものが何一つなかった。
そんな時に現れた京介は、小柄な少年にも関わらず、ボッチで決して人付き合いも良くないし上手くないにもかかわらず、綾乃のことをしっかりと受け止めてくれた。彼女自身を見つけてくれた。彼女を傷つけようとするものから守ってくれた。
心から頼りにして、拠り所に思ってもこれは仕方ないでしょう。それでいて、見た目は男の子ながら可愛らしいくらいで、反応だって自分の言動でからかえるくらい初々しくて。
そりゃあね、夢中になってきますよ。
そして、綾乃のそんなまっすぐにぶつけてくる好意に、何も感じずにいれるほど京介も木石ではなく。彼もまた、今度こそ裏切れない大切なものを見つけてしまったわけだ。
若い人特有の、とても大切なものを見出してしまった子特有の、あの一心不乱さ。脇目も振らない必死さというのは、清々しくて優しくて愛おしくなってくる。
特に、綾乃が彼の手の届かない所でまた傷つきボロボロになっていこうとした時に、遠ざかっていきそうだった彼女を自分の手で、声で、意思で食い止めて、手繰り寄せた。大事なものを守れた。
あのクライマックスでの少年のアクションは、泣いている女の子のもとに駆けつけるシチュエーションとして、あれはもう百点満点でした。行くべきところで行けた、言わなければならない場面で大事なことをちゃんと言えた。選ぶべき時に、それを選べた。
あの瞬間は、よくやった!と喝采をあげましたよ。カッコいいとは、まさにこの時の京介くんを言うんだよ。
たとえどれほど幼気だろうと、彼女はもう立派な一廉の女である。だから、心に灯ったその火の名前を本能で知っている。
その心に灯った、どうしようもないくらい無茶苦茶に火を点けられたその熱の名をこそ、恋というのだ。