【高嶺の花には逆らえない】  冬条 一/ここあ ガガガ文庫

Amazon Kindle BOOK☆WALKER DMMブックス
ふふっ・・・・・・逃がさないから。

佐原葉は、学校一の美少女・立花あいりに一目惚れをした。イケメンな友人・進藤新に相談をすると、告白のセッティングをしてくれることに。伝えられた場所に行くと、そこにはあいりに告白をする新の姿が。友人に裏切られ、好きな人を目の前で奪われた葉は、ショックでその場を逃げ出してしまう。翌日、教室に入ると新はなぜかスキンヘッドになっていた。さらに、恋人がいるはずのあいりから積極的にアプローチをされるように!? 好きな女の子が、なんだかヤバい! 謎多き高嶺の花と織り成す、ゾクゾク必至の新感覚ラブコメ!

こわっ! え、えぇ。ちょっ、このヒロイン、ガチで怖いんですけど!!
立花あいり。高校生という年齢でこの情念の重さは正直ビビる。
これっていわゆる美人局の範疇なんだろうか。いや、これの場合は進藤新の側から葉を騙す形で立花さんに声をかけてきたわけだから、立花あいりが自分から罠を張って新が告白するように仕掛けてたわけじゃないから、美人局系の詐術とはまた違うか。
それに、あいりは付き合うための条件を突きつけただけで、それに応えたのは新の方ですもんね。たとえ、あいりが最初から新と付き合う気は皆無で、それどころか新を社会的に抹殺、或いはモテるイケメンとしてのイメージを復旧不可能なまでにグズグズに叩き潰すつもりであったとしても。
それにしても、やり方が本当にエグいんですが。正面からボコボコに叩き潰すんじゃなくて、時間と手間をかけて、付き合うかもという素振りで相手を離さないように引き付けながら、丹念に丹念にじわりじわりと取り返しのつかないありさまに仕立て上げていく、その執念。偏執的なまでの情念。
どうも小さい頃に新にやられた事の復讐もあるみたいなんだけど、それ以上に新が葉を目の敵にしてトップカーストの立場を利用して主人公の佐原葉を陥れ立場をなくさせようとしている事で、あいりにとってのポイント・オブ・ノーリターンを超えちゃったみたいなんですよね、これ。
大事な人を守るための殲滅戦。彼を守るためには、彼を攻撃する相手を二度とそんな気にならないまでに叩き潰し、二度と立ち上がれないくらい周囲から孤立させ、二度と逆らえないくらい精神的に踏みにじる。そこまでやるか、と思う所なんだが、幼少期の経験が彼女をそういう生き物、子連れの野生の熊みたいな危険な生物へと育て上げてしまったのだろう。
まあ、進藤新はこちらはこちらでやりすぎていて、人間的にもゲスの極みというのもあって、自業自得以外のなにものでもないのだけれど。
それでもまだ十代の若い身空でそこまでガンギマリに重い情念をブンブンと振り回しているのを見ると、この重い情念を負ではなく正方向とはいえ、一身に受け止めることになる主人公は大変だなあ、と思ったんだけど……。
この主人公、佐原葉。彼は彼で……めっちゃ軽いな! 軽いといっても軽薄というタイプの軽さじゃなくて、ふわふわとした綿雲のような柔らかくも軽やかな軽さ、というべきか。或いは、なんにも考えていないかのような楽天的であっけらかんとして温和で他人を悪く見る感性をそもそも持っていないかのような、そんな明るく温かい軽さなんですよね。
なるほど、この子ならあいりさんのような激重も偏執さもそもそも認識すらせずに受け止めてしまうかもしれない。包容力と受容性の塊なんじゃないのか、彼。
それでいて、意志力まで軽いというわけではなく、受動的で流されやすいというわけでもなく、ラストのあのクラス全体に声をあげて積極的に気後れ無く自分の意思を表明し、ネガキャンされかかっていた新を庇った姿を見ると、ほんと引け目がないというか世間体にとらわれないというか、自分の思いを貫くことに気負いがないんですよね。ああでも、告白することに関してはめっちゃ気後れしてたなあ。ここらへんの彼の精神構造、あっけらかんとしつつ人を慮り、深く物事を考え捉えていないようで無神経とは程遠い配慮があり、と単純なようで思いの外奥行きがある、ようでないような人物でなんとも面白い。
この実際なんにも考えてないんじゃ、という特性は彼だけじゃなくて妹を筆頭に両親含めて佐原家全員から漂ってくるんですよね、面白い一家だ。そしてそんな自分達を一番面白がってそうなの、あの妹ちゃんですよね。
てっきり、先に胃袋掴んできて家族同然になってしまっていた武田さん、武田千鶴にあれだけ懐いてしまっていただけに彼女の味方になるのかと思ったら、立花あいりが現れた途端、彼女の素性を知ったこともあるんだろうけれど、簡単に旗幟を不鮮明にして両人とも頑張れ、と明らかに状況を面白がって観覧にまわりやがりましたからね、この妹。

にしてもあいりさん。新をすりつぶすのに夢中になっている間に、肝心の葉からは新と付き合っていると誤解され、さらには武田さんという伏兵が佐原家内部深くに侵入してしまって、これトンビに油揚げをさらわれるんじゃ、とおもったら挽回力も凄くてかなり無理くり佐原家内部に自分も入り込んできましたね……いいのか、佐原家の面々w
武田さん、あれだけ家族ぐるみになるわ殆ど両親二人とも武田シンパになるわ、とどんどん外堀が埋め立てられて付け城まで建てられてしまう勢いだったのに、立花あいり怒涛の追い上げでありました。新をグリグリと踏み潰しながら、せっせと葉にもアプローチする彼女のバイタリティがとんでもねえなあ。
だが、武田さんはまだここから必殺技のゲージを貯めている段階なんですよね。ダイエット成功の暁には、一体どれほどの破壊力を持って葉のハートを揺さぶることになるのか。
一方で立花さんの方は彼女の方で、肝心の葉が一目惚れで立花あいりの事が好き、というどうしようもないアドバンテージがあるんですよね。未だ繰り出していないけれど、あいりには両思いという必殺ブローが控えている。
果たして、武田千鶴と立花アイリ。未だ繰り出していない必殺がクロスしたとき、いったいどうなるのか。そして、あの進藤新があれで心いれかえるとは思えないだけに、まだまだ爆弾は導火線に火がついたままなんじゃないか。
二巻の動向が、これは気になりますわー。