【ロストマンの弾丸】  水田陽/LOWRISE 電撃文庫

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歪んだ街を疾る、ハイスピード異能バトル!

悪党たちが巣食う街、旧都トーキョー、通称ロストマンズ・キャンプ。
“植物を金属状に変えて操る”異能を持つ未那は、覆面のヒーロー「ビークヘッド」として活動しながら、母を亡くした十年前の事件について探っていた。
あるとき、ビークヘッドの正体について示唆する手紙が届き、未那は差出人のもとに赴く。モーテルの一角で対峙したのは、“存在を感知されない”異能を持つ、フリーランスの運び屋・東だった。
東は、未那をマフィア「名誉ある橙」の相談役である前堂に引き合わせる。
未那は前堂と取引することで、因縁の敵であるヴィトーの居場所をついに突き止めるのだがーー。
映画のようにスタイリッシュな物語と、圧巻の描写に熱狂する。第15回小学館ライトノベル大賞・優秀賞受賞作。

主人公でもある神栖未那。クチバシ付きの仮面を被り、ロストマンズキャンプと呼ばれる旧東京エリアの無法地帯で犯罪者たちを取り押さえ、困っている人たちを救護する一種のヒーローのように活躍する彼女。人呼んでビークヘッド。
しかしその正体はロストマンズキャンプの外にある全寮制の女学校に通う若い娘であり、「対岸の隣人(アコニー)」と呼ばれる異能者の一人でもあった。
その目的は十年前、母の命を奪ったマフィア同士の抗争の真実を知ること。母を殺したマフィアの男、ヴィトーを追うこと。そのために、日夜ロストマンズキャンプへと忍び込み、悪徳の夜を駆け抜けていたのである。
でもこの子ね、ヒーロー紛いの事をやっているくせにその本性はというと……本当に普通の子なんですよ。母の命を奪った事件のトラウマから銃声に対しては特に恐怖感を抱いていて、銃声を聞くと反射的に蹲り頭を抱えて動けなくなるような、一般人の女の子と変わらないんですよ。
決して勇気に溢れた気概のあるタイプの少女じゃない。むしろ臆病で暴力に晒されれば歯を鳴らして膝が竦んで動けなくなるような、悪意を向けられれば呼吸が浅くなりマトモに目を合わせられなくなるような、はっきり言って暴力と悪徳の街であるロストマンズキャンプには全くもって似合わない少女なのである。
彼女の怯える描写は特に真に迫るものがあって、彼女が本当に怖がりで暴力が苦手で嫌いで出来れば関わり合いたくない事を心から実感できるものだったんですよね。
だからこそ、彼女が、未那がビークヘッドとして活動している事自体が、違和感の塊なのである。決して使命感に駆られているとか、恐怖を押し殺して勇気を振り絞って、という感じでもないのだ。
だが、急き立てられるように、熱に浮かされるように、彼女は母の仇を追い求めて、怯える心そのままに命が尊厳があっさりと踏みにじられる街へと進入していく。
それは、母の死を前に、また自分もまた殺されそうになったときに発言した異能の力、いや異能の力を呼び起こした彼女の魂からの叫びが、感情が……そう、怒りが彼女に止まる事を許さないかのように。
でも、未那はそんな止まることのできない止められない衝動に対して、単純な復讐心という赤熱を宛がおうとはしていないんですよね。敵を討つ、のではなく、罪を贖わせる。犯人を捕まえて、正当な司法の裁きをもって犯人を罰し、無法の街に秩序を取り戻す。そんなお題目を唱えているのだ。
そう、お題目だ。未那は本気だろう、でも本気かもしれないけれどどうにもそこに芯が入っているように感じられなかったのだ。本気ではあっても、未那自身もそれが上っ面だけで自分自身そのお題目の奥、真実何を求めているのかをわかっていないんじゃないか。そんなふわふわとした地に足の付かない空虚さが、彼女の語る目的には感じられたのでした。
そして、これほど臆病で普通の子が、自分自身しっかりと掴みきれていない空虚な目的だけをよすがにして、熱に浮かされたように似合わない無法の地にはまり込んでいく。ある種の正気を逸した、狂気めいたものを神栖未那という少女には透かし見えているようだったんですね。

そういうどこか浮ついた芯の通っていない、地に足のついていない子ほど、利用しやすいものはないでしょう。前藤なんていう口先だけで相手の魂までシャブリ尽くして思い通りに動かしてしまうような相手に付け込まれたのも、また仕方ないんでしょう。
彼女とビジネスライクとはいえ協力関係として付き合ってくれる東という青年もまた、前藤の言葉によってわかっていながらこの街に縛り付けられてしまっているように、あの男は本当に最悪の類、自分の意志で選ばせているようで、前藤の思うがままに選択を強制する状況に追い込んでいて、自分は安全地帯にいて薄笑いを浮かべながら神が俯瞰するように上から覗き見ているような存在だもんなあ。
あれは、未那が最初に考えた通りに正しく暴力暴力単純な暴力で口を開かせずに有無を言わせずに黙らせる、のが最善に思えるのだが。

本来の前藤の思惑通りなら、母の仇であるヴィトーと未那が顔を合わせることなく、ヴィトーはロストマンズキャンプから排除され、始末されていたのかもしれないけれど、果たして未那はついに母の仇のもとに辿り着くことが叶う。そこで知った真実は、彼女にとってどういう意味を持っていたのか。
中盤から、ヴィトー視点の物語も語られるようになるのだけれど、彼は冷酷非情で暴力の化身のような男でありながら、同時に真っ当に愛を知り、また仲間たちへの厚い友情を胸に宿した男でもあったのでした。ここらへんのマフィア哀歌は胸にくるものがあるんですよね。
罪を憎んで人を憎まず、とは行かないだろう。彼は確かに、未那の母の仇であったのだから。でも、誰よりも犯人であるヴィトーを憎んでいたのは、ヴィトー自身でもあったのだ。
致命傷を負い、刻々と死への階段を昇り意識が薄れていく中で、男がまとっていた虚飾のスーツは剥がされていく。そうして剥き出しになっていった男の姿は、銃弾に怯え暴力に竦む未那と変わらない、よく似た死を恐れ親しい人たちの事を想う一人の人間の姿だった。
そんな男が、生きていく上で悪徳に染まっていく。生きるために暴力に手を染め、犯罪に耽溺し、しかし犯した罪に苦しみ、闇の底から光の糸へと手を伸ばしている。
そんな悪の化身とも言える男の悲哀を目の当たりにしたとき、彼を通じて母の愛を、人の本来持つ優しさを垣間見た未那は、そこでようやく自分の戦うべき理由を、彼女が怒りによって手にした異能の力の使うべき道を、見出すのだ。
自分でも納得しきれない、実感しきれない、正しいと思いつつそこに芯を通せなかった想いに、はじめて芯が通ったのだ。
狂気に駆られ、衝動に突き動かされ、訳の分からないまま突っ走るのではなく。
心が通い、魂が篭もり、真実の願いが宿った。
無法の街ロストマンズキャンプに、人を救う秩序を取り戻すヒーローが。悪であるマフィアたちですら、その心の救済を、助けを差し伸べるだろうヒーロー「ビークヘッド」がこのとき、誕生したのだ。
そうか、これはひとりのヒーローの誕生譚だったのか。
そう思い至って、ものすごくすっきりした。すばらしく納得できた。ああ、これはそんな物語だったのか。
こうなると、やはり最大の敵となるのは悪の秩序の元締めというべき前藤になるんだろうなあ。今のところ、未那には相棒というべき相手はいないんですよね。東がどういうポジションになっていくのか。今のところ一定の距離を置いたまま傍観者に徹する、いや徹してはいないしこれ本心、心情的には味方寄りな気もするんだけれど、この男自縄自縛で自分を縛っているので、果たして……。
その分、桐乃さんが後押ししてくれそうなのだけど。

あと、主だった面々がだいたい外国人だったり、マフィアの在り方とか街の様子なんかがもろに海外風なんで、舞台が東京というのは凄く違和感というか居心地が悪かったなあ。
いっそもう海外が舞台で良かったんじゃないか、と自分は思いました。あと、アメリカのドラマ風の軽口の叩き合いはなんか全然軽口っぽくなくてリズム悪いし、ぎこちなかったなあ、と思いましたw