【オーク英雄物語 4 忖度列伝】  理不尽な孫の手/朝凪 富士見ファンタジア文庫

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オークの英雄はビーストの国で姫から一目惚れされる――

(戦が始まる前に勝利を確信することは幾度となくあったが……)

第三王女の結婚が間近に迫るビーストの国で、第五王女のシルヴィアーナから一目惚れされるオークの英雄バッシュ。
敬愛していた勇者レトを殺した張本人のバッシュへ積極的に迫ってくるシルヴィアーナだが……。
ビースト族の必勝モテマニュアル(雑誌)を手にした英雄に隙はなく。
「デートだ」
「いけずなお方……私は食後のデザートということなのですね?」
順調に逢瀬を重ねていき――。
愛と平和の使者、エルフの大魔導、サキュバスの軍人も入り交じり権謀術数が渦巻く中、英雄は闇を晴らすことができるのか!

恋愛モテマニュアルとか、結婚雑誌とか普通の作品だとものの役にも立たないポンコツアイテム扱いだったりすることが大半だけど、今回の月刊ブライ・ビースト族恋愛結婚特集は大活躍でしたよ!
ほぼほぼ完璧にバッシュを礼節を弁えたイケメンオークとして導いたじゃないですか。モテマニュアルがこれほど見事に役に立った事は史上初なんじゃないだろうか。それもモテマニュアルとしてちゃんと機能して、ですよ。細かい錯誤はともかくとして、ビースト族の女性に対してのエスコート指南書として何一つ間違いない指導本として機能したわけですからね。
シルヴィアーナの裏の思惑を外す結果になったのも、バッシュがオークとしてというよりも今回は男の本能というべきか、それにかまけずにあくまでジェントルマンとして、女性に対しての配慮を行き届かせたからですからね。
バッシュの思惑はあくまでモテて嫁取り、なんですけれど、そんな世界の平和とか大きな枠組みで物事を考えていないのは確かですよ。でも、通常の勘違いモノと違うのは本質的にはバッシュのやってる事と周囲がバッシュが何を考えているのか、というのはそれほどすれ違ってないんですよ。
オークであるバッシュが女性からモテようと考えている事自体、そもそも女性の意思なんざ考慮しないオーク族の常識からは逸脱しているわけですし、お互いの同意の元に嫁をもらおうという行い自体が、異種族間の融和を志向しているとも言える。本人がそんな深く考えていないとはいえ、女性の意思を尊重しよう、他の種族の文化や誇りを敬意を持って扱おうという姿勢そのものが、ナザール王子が目指す融和の未来と同じ方向を向いていると言って良いわけですしね。
そういう意味ではバッシュは間違いなく未来志向の英雄なわけだ。そして彼の実際の行い、姿勢はバッシュを見て敬意を抱く周囲の人たちの思い描いているものとさほど食い違っていない、敬意に値するものなんですよね。彼らが想像するよりも大仰じゃなく、かなり個人的な思惑によるものであったとしても。
それにしても、長きに渡った戦争が終わってもそれで完璧な平和が訪れるわけではない、というのはわかっていたつもりですけれど、肝心の戦争終結の立役者であるナザール王子がこれほど苦労しているとは思わなかった。というか、彼こそが本当に勝者も敗者も分け隔てなくあらゆる種族が融和し平和に過ごせる世界を望んでいる人物だったんですねえ。それもアタマお花畑の理想家ではなく、現実という断崖絶壁に挑み続けるような、そして無力感に打ち震えながらも戦い続けるような不屈の人だったとは。結婚したい願望に奔走しているサンダーソニアさん、あなたのお仲間、頑張ってますよ!?
まあこのエルフのおばちゃんも、婿探しに奔走しつつ世話好きの面からついついあちこちで助けて回って、バッシュよろしく意図しないところで世直し旅してるみたいですけれど。
サキュバスクイーンのキャロットが困窮を通り越して種族全体が飢餓状態の滅びの危機に瀕死ているサキュバス族を救うために、泥をすするように抗っているように、各種族の英雄たちはみんな戦後の平和を享受する、なんて真似をする余裕もなく現実と戦ってるんだなあ。
サンダーソニアさんは、モテないという現実と戦っているみたいだけどw
バッシュさんはなにげにモテまくってますw
キャロットの鬼気迫る戦う姿と、戦士としての誇りを失わない姿勢はカッコいいの一言で、サキュバス族の特性がなければ、ほんとにバッシュとお似合いと言って良いくらいカッコいい女性だったんだけどなあ。ままならないものである。

いずれにしても今回も面白かった。確実にモテてるはずなのに、婚活としてはうまくいかない不思議こそ、一番のすれ違いポイントなのかもしれませんなあ。