【ここでは猫の言葉で話せ 3】  昏式 龍也/塩かずのこ ガガガ文庫

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ガールズ・ミッション、夏休みを謳歌せよ!

夏休み、それはロシア犯罪組織の暗殺者だったアーニャにとって未知の領域。
少女に課せられたら使命はただひとつ、
女子高生としてジャパニーズサマーを遊び倒すこと!

射的、かき氷、浴衣、水着、etc……待ち受ける数々の夏イベントと、甘い誘惑。
さらにCIAエージェント姉妹も仲間に加わり、新たなカップル誕生の予感!?

一方、明良と黒蜂は、暗殺の仕事中に囚われの少女・凛音を救い出す。
凛音が抱える闇が、アーニャの運命を大きく変えることをまだ誰も知らない。

明かされる過去と、真実。少女たちの忘れられない夏が始まる!

そういえば、猫アレルギーで中和出来ていたから、アーニャが未だに毒に冒されたままなのを半ば忘れてしまっていました。アーニャ自身、今後一生猫と過ごしていく心積もりっぽかったのもあるんだよなあ。最悪、今回の海への旅行みたいに猫の毛を持っていったら対処は可能みたいですし。
だから、いずれにしても喫緊の問題ではないと思っていたのですが、まさか旭姫のママさん、そこまで業の深い事をやっていたとは。
凛音が語るように、夜霧さんがそこまでするのは、アーニャ自身を愛おしく思っているのも間違いないでしょうけれど、アーニャが実の娘であるユキが自分の命をかけて守り抜いた存在だから。まさに、アーニャは愛の証明なんだなあ。
でも、アーニャからすると初めての友達であるクラーラ然り、姉同然だったユキ然り。自分のために犠牲になった大切な人たちの存在は、ある意味アーニャの心を凍らせていた原因とも言えます。
彼女の凍りついた心を溶かしたのが、旭姫や小花たちの愛情であるのも確かなら、そもそも彼女の心が凍ってしまったのは愛ゆえに。
だから、自分に向けられた愛情ゆえに、非道が行われ傷ついた娘がいるという事実はアーニャにとってショック以外の何物でもないでしょう。
でも、ただそこからアーニャがどう進むかなんですよね。受け取った重すぎる愛を、当たり前のように享受することは出来ない。なぜならアーニャは猫ではなく人間だから。
でも与えられた愛を取りこぼしてしまうほど、もうアーニャは未熟でも欠けてもいない。旭姫という愛しい家族と過ごす日常は、小花という愛しい友人と過ごす生活は、幸せの具現である猫と暮らす日々は、もう彼女を後戻りできないくらい立派な一廉の人間へと生まれ変わらせたのだから。
凍り止まり続ける日々に、彼女はもう戻ることはないでしょう。あるがままのアーニャを肯定し受け入れてくれる人たちが、そこに居る限りは。

だけれど、果たしてもう一人の闇に沈んでいる子供、凛音はどうなんだろう。彼女はずっと愛のサイクルから外れ続け、搾取され続けた子供だ。
アーニャが心を凍らせ停止し続けていたとするなら、凛音は生まれついたその時から耐えず強い圧力をかけられ続け、冷たく隅に押し込まれ、固く形を歪ませてしまった子供なのだろう。果たして、元の形がどうであったのか、わからなくなるくらいに。
それでも、恨み辛みを吐き出せるのはまだマシな証拠かもしれない。本当に壊れきって価値観も正気もグズグズに崩れてしまっていたら、まともなネガティブな感情なんて持ち得ないのだから。
恨み辛みが言えるのなら、それを痛いと辛いと思えるのなら、憧れ羨ましいと思える気持ちがあるのなら、そこを目指せるよすががある。
でも、そんな細い細い命綱の蜘蛛の糸を、手繰り寄せられる人がいるだろうか。アーニャは、あまりにも羨望の対象過ぎる。恨みつらみの当事者だ。同世代で真っ当に生きている娘の言葉が、凛音には届くだろうか。
旭姫だけ、ちょっとわからないんですよね。旭姫が憧れていた読者モデルとしての凛音は、虚像であるけれどある意味凛音の闇を映していない虚像だからこそ、凛音の光足り得るかもしれないし。
いずれにしても、同世代には難しい凛音の闇を照らせるのは、この娘を愛してくれなかった親の愛情なのではないでしょうか。でも、実の親はもうアレだ。だとするならば、この娘を拾って真っ当な慈しみを抱いている明良に命運はかかっているんじゃないだろうか。
明良って、生き方が本当にメチャクチャなんだけれど、情欲以外にすごく真っ当な子供に対しての情があるんですよね。子供は守らなければならない、子供は慈しまなければならない、子供は愛してあげないといけない。そんな人として平凡で当たり前な、子供への庇護欲が。
そういう所、凄くまっとうなのになんでこの人極端に刹那的なんだろう、生き様が。ある意味、そこしか真っ当な所がないから、と言えるのかもしれないけど。
ただ、凛音に対してはそれじゃあダメだと思うんですよね。場当たり的では、或いは……どこか自分の人生について投げやりでいつ終わっても良いという刹那的な生き方をしている限りは。
猫を飼うには、最後まで責任を持たなきゃならない。でも、いつ死んでもいいや、という気持ちで生きていると猫は飼えないんですよ。死んじゃったら、飼われてた猫はほったらかしになっちゃうじゃないですか。
無責任に生に対して投げやりなら、猫も飼えないし子供も愛し続けられないんですよ。
そろそろ、生き方を変えるべきときが来たんじゃないだろうか。シュエに対しても、もうちょっと本気で責任とってあげる頃合いなんじゃないだろうか。明良の殺し屋へと至るその人生の回想が語られていたけれど、彼女にとってもターニングポイントがきているのかもしれない。

いずれにしても、今回は次の事件への導入編、という感じでありました。今回は猫についての要素がずいぶんと少なかったのですけれど(その分ガールズのガールズによるガールズラブ成分が液状化しそうな密度で散布されてましたけど)次回は、猫猫成分が増し増しになるんでしょうかね。
猫を幸せの象徴を通り越して、実体化した幸福というように語り、それを毛嫌いする少女。果たして彼女は、猫を愛し慈しむようになるのでしょうか。猫は彼女を救うのでしょうか。彼女は、幸せを、猫を受け入れることが出来るのでしょうか。
すべては次回に続く。