【ひねくれ領主の幸福譚 1 性格が悪くても辺境開拓できますうぅ!】  エノキスルメ/高嶋しょあ オーバーラップノベルス

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追放先の領地は未開の大森林……でも異質の才覚で大発展!?

大貴族の父と愛人の間に生まれた不義の子・ノエイン。
家族や使用人から蔑まれ、ひねくれた性格に育った彼は軟禁生活の末に屋敷を追い出される。
実家と縁を切る代わりにノエインが与えられたのは、王国辺境の飛び地と領主の座。
しかし辺境は未開の大森林が広がるだけの土地で!?
辺境を発展させて誰よりも幸福な領主になる――そう決意したノエインは開墾に着手。
軟禁中に極めたゴーレム操作の魔法と、書物で得た高度な知識で荒れ地を開墾して農業を始める……までは順調に進むが、肝心の領民は0人であった。
さっそくノエインは領民集めを開始。
その手法は尋常でなく――盗賊を懐柔して従士に登用!
難民を丸め込み従順な労働力を獲得!
商人の娘の心を誘導して財務担当へ引き抜き! ……と、悪賢く領民を増やすが、当の領民たちはひたすら敬愛を捧げるばかり!?
さらに辺境開発の優れた手腕が大商会や上級貴族からも注目されて――!?
ひねくれ領主の辺境開拓物語、開幕!


うわー、これは確かにひねくれているわ。
主人公のノエインはあらすじにもある通り、生まれたその時から不義の子として父の体裁のために一室に閉じ込められ、虐げられた人生を幼少からおくってきたわけだ。
父への恨みは骨髄に徹するほど。成人と同時に辺境の地に厄介払いされたノイエンは、悪徳貴族そのものだった父親への恨みを晴らすために行動を開始する。
ただ面白いのは、ノエインが父への復讐として直接父親に危害を加えたり、手段を選ばずにのし上がって権力や武力で父に復讐を果たそう、としているわけじゃないんですよね。
悪徳貴族で自分の欲望の為だけに他者を踏みにじり、不幸を振りまく父親に対して同じ道を踏襲して力を手に入れるのではなく、徹底して逆の道を行く事で父親への嫌悪や憎悪を晴らそうとしているのである。
それこそ、民を慈しみ領地を富ませ、人々を幸せにする健全で優れた領主になること。
人々から慕われ徳を積んで名君と呼ばれるほどの存在になることで、自分の存在をなかった事にした父親をにザマァするのだという。
ノエインって、父親そのものは嫌悪していても、父の悪徳自体は別にそこまで気にしてないように見えるんですよね。因果が逆、というか。父が俗悪なことをしているから憎んでいるのではなく、父そのものが嫌いだからこそ、坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、で俗物で小悪党で倫理に外れた無法を敵対するべきモノに寄り分けた、って感じなんですよね。
自分を襲った傭兵団を家臣に取り上げ、戦争難民たちを引き受けて慰撫して自分の領地の民にして慈しむという、優しく慈愛に溢れた領主、という体裁を取っていますけれど、実際ノエインは目標とは裏腹に民に対しての情とかは全然ないんじゃないだろうか。
本質的に、他人に対して無情であり、その情念は父への恨み辛みへと殆どが注がれて、非常に陰湿でネガティブな念がノエインという少年の基盤になっているように見える。
ただ、その発露が領地を発展させてそこで暮らす自分の民たちを幸せにして、自分も幸せになる、というすこぶる正のベクトルに向いているのが、ひねくれてて面白いと思うのだ。
民からしたら、領主様が実際心底で何を考えているか、その本質がどれほど粘質でドロドロしているか、なんてのは関係ないんですよね。彼が領主として自分たちに幸せをもたらしてくれる存在なら。建前さえきっちりとやり通してくれるなら、裏も奥も真贋も関係ない、それがこの世の真実となるのですから。
ノエインに根ざしている愛情とは、それこそ運命共同体としてずっと側に居た獣人の使用人マチルダとの愛だけなんじゃないだろうか、と思うものの、それがノエインの目標に対して障害になるものではないですし、マチルダの方もノエインさえ居れば良いという閉鎖的な感情だったのが、愛情故にノエインの足かせにならないように、マイ夫人の助言があったとはいえ努力して社交性を培っていき、ノエインの側用人として成長しているわけですしね。
二人共本来内向きのドロドロとした情念を、その情念の深さ故に内に押し込めておけずに外に吐き出して、でもそれがマイナスベクトルじゃなく、怨念故にプラスベクトルへと向けられているというのが繰り返しになりますけど、何とも面白い。
このあたりのノエインの歪みと本質的な冷たさ、恐ろしさを一番古参の家臣となったユーリやマイあたりは薄っすらと察していそうだけど、それ込みで恩義を感じ忠誠を誓ってるんでしょうね。地雷がどのへんにあるかもわかってそうですし、それさえ踏まなければ理想的な領主様であり続けてくれるわけですからね。

しかし、ノエインのゴーレム操作は実質人型重機みたいなものですから、これ最初期の開拓事業、杜をゼロから切り拓いていくなんて作業では、なかったらその時点で詰んでただろうなあ。便利どころじゃないですよ。これも軟禁されてた時期にひたすら努力して磨き上げてきた技量あってのことですからね。勉強家でもあり、時間が有り余っていたとはいえ、努力家なんだよなあ。
それに、最初に家臣となってくれた傭兵団の面々が粒ぞろいの有能揃い。その後の難民団のリーダーだった滅んだ村の村長の息子、これがまた逸材で、初期段階で少なくとも質の面では望むべく最良の面々が集ってるんですよね。
彼らをうまく心服させて領地を安定させ、隣の領の商人や領主とも強かにウィンウィンの関係を紡いでいくノエイン。本当にゼロからの開拓事業となったわけですけれど、地道ながらも着実な発展模様が面白い、これからどう伸びていくのかが楽しみな作品でした。