【転生したら皇帝でした 3 ~生まれながらの皇帝はこの先生き残れるか~】  魔石の硬さ/柴乃櫂人 TOブックス

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(これ、常に狙われるってことじゃん! )
二大貴族の死でざわめくブングダルト帝国で、その立役者・カーマインは動揺していた。自らの扱いが“無能"から“英雄"へ劇的に変化したのだ。
民を安心させるため、腐敗した政治体制にメスを入れ、残党殲滅を目指す。だが、まだ深刻な資金&武器不足のなか、反皇帝派が挙兵してきた! さらに浮かび上がる、先代愚帝の負債、そこに漬け込む刺客、怪しい忠臣の存在。
前途多難のなか全てを平定するため、エスプリ幼帝は “悪魔"との契約を決断して?「
余の辞書に"不可能"はない! 」(重圧やばすぎ……)いざ戦争のど真ん中へ! 王政サバイバルファンタジー第3弾!


長年に渡った傀儡状態、いつ殺されてもおかしくなく、無能に育つように強いられた偏向教育、薬漬けという生まれたその時からの押しつぶされそうな状態から、政治を壟断していた二大巨頭というべき貴族二人を討ち果たした事でようやく解放されたのに、カーマインの慎重さは微塵も変わらないんですねえ。
ちょっとは解放感に浮かれてイケイケドンドンになるかと思ったのに。
まあ、二大勢力の頭目は討ち果たしたものの、アタマを取っただけでその勢力そのものは残っちゃっているわけですしね。また、宰相たちが散々国を食い物にした結果、国家の状態はボロボロも良いところの最悪のありさま。まあ彼らのみならず、先代までの歴代皇帝のやらかしの積み重ねで、皇帝位についたはいいものの負債を一気にカーマインが背負う事になっちゃったわけですしねえ。
浮かれてる場合じゃないのもまあわかる。わかるけれど、それでも浮かれてしまうのが人間ってもんでしょうが、それを少なくとも表に出さない慎重居士なところが、彼をここまで生き残らせた由縁なのでしょう。
そもそも、この若き皇帝、勝負するなら絶対に勝てると確信するまで策を練り練りして状況を整えて、とひたすら勝つための可能性をあげるための要素を積み上げていくんですよね。戦いの勝敗は戦う前の段階で決めておく、というのを地で行く堅実さである。希望的観測を極力許さない、非常に我慢強い部分が実際に権力を握る段になっても微塵もかわらないあたりがとても頼もしいです。
それでいて、いざ必要と思えば自分が最前線に立つことも厭わないのは、勇気というよりも合理性の発露というべきか。
これで、周りが信頼できる忠臣で固めていられれば安心も一入なのですけれど、なにしろ腹心中の腹心ともいうべき宮中伯がその有能さは疑いよう無く信用に値するも、個人的にはまったく信頼できない人物なのが、なんとも厳しい。
クーデターの功績一等は間違いなくヴォデッド宮中伯なんだけどなあ。何だかんだとカーマインも彼に対する信頼を深めつつあったところで、冷や水を浴びせられるような事があったわけで。
ただ彼に関しては野心という面では全く不安に思う必要がなく、あくまで役割に徹しているというあたりで、ラインもはっきりしているので信用はしやすくはあるんですよね。それでも、個人的忠誠心が全くないんじゃないか、というのがやっぱり怖いんですけど。
ただ、巻末の書き下ろしの過去回想や、先帝に対してかなり思う所ある様子なのを見ると、感情がないわけではなくむしろ情が深い人物に見えるだけに、どう振り切れるかわからない怖さもあるんですよね。
何より、ヴォデット宮中伯がカーマインの情報や諜報に関するほぼすべてを掌握しているあたりが非常に怖い。ともすれば容易に偽情報や嘘じゃないけど全部を語っていない切り取った情報なんかで、カーマインの思考を誘導したりもできるわけですしね。これに関してカーマインは対処のしようがない。
これに関しては、やっぱり情報系の組織は少なくとも二系統は欲しいってところですよね。交わらぬ二つ以上の組織から得た情報を精査すれば、少なくとも一方からもたらされる情報を信じるしか無い状態ではなくなるわけですし。
となると、やはり宮中伯の属する組織と対立している教会系の組織が一番の有力な対抗馬になるのかしら。ヴォデッド伯の断縁した息子も所属しているわけですし。
さらに今回、商取引や金融関係で味方につけたイレールの黄金羊商会も、いわば商人の側からの情報をもたらしてくれる可能性もあるので、宮中伯一人に情報を一手に握らせる、という危険は避けられる道筋はあるんですよね。
とはいえ、現状だと宮中伯は側近くに居すぎて果たして他の組織を介在させる余地があるんだろうか。
ヴォデッド宮中伯はほぼ真っ黒な灰色なのでそりゃ信頼は出来ない人物ですけれど、彼に限らずワルン公とチャノム伯もカーマイン、全面的に信じてるわけじゃないんですよね。
二人共信用に値する人物ですし、チャノム伯は娘をカーマインに助けてもらった恩を深く感じているわけですから、裏切りとかはまずないのですけれど。それでも、大きな権力を持つ貴族である以上は常に意に反する独自の行動を取る可能性がある、と警戒は緩めてないっぽいんですよね。
実際問題、この二人は将来的にカーマインの外戚になる可能性が高いだけに下手をするとラウル公とアキカール公の二の舞いになりかねない、という危険性は否定しきれないわけだ。当人達はともかく、後代はどんな人物が継ぐかわからんわけですしね。
とはいえ、疑ってばかりだと疑心暗鬼になって誰も信用できなくなってしまうので、慎重さとのバランスは難しいよなあ。
とりあえず、側用人であるティモナは全面的に信じているし、ファビオへの信頼もなかなか厚いように見える。そして何より、皇后となる婚約者のロザリアは傀儡時代からカーマインに寄り添ってくれた人だけに、このあたりは心開いて付き合える人たちがいる分、まだ安心材料なのですが。
ヴェラやナディーヌとも打ち解けているわけですし、そう考えると家庭内では警戒を緩めることができそうでまあ良かった。でも、そんな自分にとっての一番柔らかい部分を担う人たちの一角であるヴェラやナディーヌも、今回の親征では危険な戦場に連れていくことを皇帝としてやらなければならない、と甘さを捨てる覚悟をさらに重ねてしまっているのは、果たして頼もしいと思うべきか危ういと思うべきか。