【英雄と魔女の転生ラブコメ】  雨宮 和希/えーる 講談社ラノベ文庫

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平凡な高校生・白石護道には『秘密』があった。それは前世の記憶を持っていること。

こことは違う別の世界で、護道は人類を救った『英雄』だった。とはいえ、あくまで前世の話。今世ではごく普通の学生生活――のはずだったが、同じクラスに転入してきた少女・椎名麻衣の出現で平凡な日々は一変する。

彼女は護道と同じ転生者で、かつて異世界を災厄に陥れた『魔女』だった。前世では何度も殺し合った仲だが、今更何の用だと尋ねる護道に、麻衣は告げる。

「――私は、貴方がいないと生きていけないのよ!」
「……は?」

第11回ラノベ文庫新人賞《佳作》受賞、
異世界から現代日本に転生した世話焼き英雄とポンコツ魔女によるこじらせ青春ラブコメ!

生まれ変わって転生してゼロから、というわけにはいかなかったのだろう。魔女も英雄も。
前世からの記憶が蘇ったのはごく最近とは言え、その生き様は前世からのそれを引きずっている英雄。
魔女はそれどころじゃない、前世からの魂に根付いた呪詛を引き継いでしまった。魔女だった時代と違い普通の人間であり、魔力が魔術だという概念が存在しないこの現代では、それをどうこう出来るすべはない。
それでも、彼らはもう魔女でもなければ、英雄でもない。世界を呪った厄災でも、善きものを守るためのシステムでもない、普通の人間、普通の子供として生まれ変わった。
ゼロからは無理でも、自分たちを慈しんでくれる家族ができた、友達も出来た(出来てない娘もいるけれど)、この世界を好きになることが出来た。
ならば、新しくまっさらに生き直す事も出来たはずなのに、敵として出会うのではなくまっさらな関係の同世代の男女として出会う事も出来ただろうに。
いや、魔女の心身を蝕む呪いがそれを許してくれなかったのは理解できる。それは理解できるけれど、呪詛だなんだ関係なく、この二人は前世の生き様を……歪んだ生き様を引きずってしまったのだろう。

そもそも、前世からこの二人はあまりにも殺し合った敵同士、というには距離が近づきすぎてしまっていたんですね。英雄は魔女の境遇と心根を見続けて、彼女もまた自分が守るべき善き人の一人なんじゃないかと誤作用してしまった。
世界を呪う厄災そのものと化しながら、ずっと世界を守ろうとして孤軍奮闘し続け、しかしその末路に英雄を巻き込んでしまった事を後悔していた魔女。
新しく出会い直したことで、かつてお互いに抱いていた複雑な感情を、一旦整理して魔女でも英雄でもないただの男女として、素直に向きあうことが彼らには必要だったのだけれど……彼らは初手から再び魔女と英雄として向き合ってしまった。そこから初めてしまった。
繰り返すけれど、魔女の厄災の呪いを引き継いでしまった彼女……椎名麻衣にとって自分の生存のため、というよりも死んで災厄が世界にばら撒かれる事を恐れて、呪いを抑えるために必要だったのは英雄としての白石護道の力であり存在であった以上、お互いが魔女で英雄であった事は無視して避けられない事実ではあったんだけれど、お互いに敵であったという関係にこだわりすぎたんですよね。
その末期ではもう敵とはいえない関係だったにも関わらず。
ああ、面倒くさいことになったなあ。
敵として位置づけながらも、既に前世で相手に惹かれていた心象に引きづられて、目についてしまった相手の歪んだ生き方を正そうとする二人。魔女として、英雄として不自由に生きるしかなく、無惨な最期を遂げるしかなかったお互いの末路に対して、お互いに思う所ありすぎて、今世では真っ当に幸せに生きてほしいと、敵なのに思うのだ。敵なのに、敵だ敵だと意識しているくせに。
だからもうそれ、敵じゃないじゃん。と、突っ込む人がいないのよね。前世では絶対にいなかった。それを現代にまで引きずっちゃって。その時点で歪んでいる。
ところが、歪んでいるのは関係だけじゃなくて、それぞれの生き様からして前世の歪みを引きずっちゃってるんですね。とても、真っ当な人間の在り方じゃない自己犠牲であったり、平和な現代ではお呼びじゃない余計なお世話で不適合な生き方をしてしまっている。人間として破綻して壊れている、少なくともそうなりかけている過程を、目の当たりにしてしまうのである。
麻衣も、護道も。自分については棚に上げて。自分の壊れっぷりは無自覚で全然気づいていないのに。
相手のことは目についてしまうんですな。そうして、分からず屋な相手のことを何とか説破してこの現代で真っ当に生きていけるように、普通に幸せになれるように、言い聞かせようとするのである。
繰り返しになるけれど、自分を棚に上げて。お互いに、こいつ自分は完全にぶっ壊れてアレなことになってるのに、なに訳の分かんないことばっかり言ってるんだ。鏡を見ろよ、ひどいことになってるぞ。と、オマエが鏡を見ろ、と二人してえげつないすれ違いっぷりを見せ続けるのである。
お互いに言ってることは正論で、かなり鋭く現状を指摘しているにも関わらず、自分自身がアレな事に気づいていないものだから、まったく説得力がなくて伝わらないんですね。
うん、これはひどい。
前世からの歪みを、現代でも引き摺ってしまっている、という転生モノのパターンは珍しくないのかもしれませんけれど、ヒロインと主人公二人して揃って歪んでしまっていて、それを双方が自分を棚に上げて矯正しようとして噛み合わないというか、噛み合いすぎてお見合いになってしまって二進も三進もいかなくなってる、という状況は珍しいんじゃないだろうか。笑うに笑えない。

それでも、お互いに正面からぶつかりあえば、自覚できなくても問題がある事自体は徐々に認識していけるというもの。だから、相手のためになんとかしようと動いてしまう行為は、無駄ではなかったんですな。
そうして問題が浮き上がってくれば、それを指摘してくれる友だちもいる。少なくとも、英雄だった時代と違って、現代で普通に生きてきた護道には、ずっと自分のことを見続けてきてくれた幼馴染がいたわけで。
こういうすれ違いは、結局どちらかが自分の襟を正す他ないんですよね。そして第三者として外側からそれを指摘してくれる人がいる、というのは大きな幸いなわけだ。そうして、この現代ではそうした幸いを得られるだけの当たり前の普通の人間としての人生を送れてきたんですね、少なくとも護道の方は。
まー、でもなー。改めて自分の歪みを自覚させてもらって、幼馴染の比奈に叱咤激励されて尻叩かれて、麻衣とはもう敵ではないという当たり前の事をようやく理解して……それでもなおこの男、わかってない所はまだ全然全くわかってないんですけど!?
いや、受ける側の麻衣の方も完全に同レベル。あの告白を通り越して、プロポーズレベルの長い人生投げ売って相手に捧げます、くらいの宣言で結ばれたのが、ただの友達という関係なの、アタマどうかしてるんじゃないか、二人共!?
なんであそこまでやり取りして友達止まりなんだよ! そりゃ、魔女と英雄の本来の関係からしたら、それが生まれ変わってただの友達として関係を結び直せるって、そりゃあとてつもない偉業かもしれないし、途方もない感動かもしれないけれど。
それはもう友達どころの関係じゃないんだよ! 親友でも足らんわぃ! 恋人ですら、型落ちだ!
さあこれについても、二人共お互いに全然わかってないぞ。果たして、これで関係前に進むのか? それともやっぱり外部から後押ししてもらわないと、自覚することすら無理なのか? 傍から見たらこれきっともう恋人どころじゃない只事ではない関係だけに、ツッコミいれるのも難儀だろうなあ。
きっと周りが大変だよ、これ。色んな意味で比奈さんご愁傷さま、になってしまわんだろうか心配である。