【俺にはこの暗がりが心地よかった -絶望から始まる異世界生活、神の気まぐれで強制配信中-】  星崎崑/Niθ GAノベル

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「はは……。マジかよ……」

異世界でヒカルを待っていたのは、見渡す限り広大な森。濃密な気配を纏い、凶悪な魔物を孕んだ大自然だった。

ある日突然全世界に響いた「神」の声。

それは「無作為に選んだ1,000人を異世界に転移させ、その様子を全世界に実況する!」というものだった!!
――望む、望まぬにかかわらず、すべての行動を地球の全人類に観賞される特殊な“異世界”。

懸けた命の数さえ【視聴数=ギフト】に変わる無慈悲な世界で、常時億単位の視線に晒され、幾度となく危機に直面しながらも、ヒカルは闇の精霊の寵愛を受け、窮地に陥る剣士の少女を救い、殺された幼なじみの少女の姿を異世界に探して、死と隣り合わせの世界を駆け抜ける!!

ほあーー、こういう話やったんかぁ!
主人公引きこもりっぽいし、もっと個人のこぢんまりとした話なのかと勝手にイメージしていましたわ。それが実際はワールドワイド。世界中から神様がランダム……本当にランダムなのか何らかの選考基準があったのかは不明ですが、無作為に集めたという1000人の人間が異世界に転移させられ、それを世界中の人々が視聴する、というスケールのでかい話に。
実際、視聴者が何億人というレベルになってますからね。しかも、転移するまでに準備期間としての猶予もある、というのはこれいきなり強制的に転移させられるのとまた違う空気感になりますよね。
もっとも、それが主人公のヒカルにとってはとんでもない事態を引き起こす要因になった、とも言えるのですけれど。

異世界に送ったら送りっぱなしで完全に地球側と断絶して、地球側の人たちはただ見ているだけ、というのなら単なる悪趣味で終わったのかも知れませんけれど、視聴者数による特典があったりそれこそゲームそのもののように第一達成者特典とか、ご褒美として地球側と連絡が取れたり、という報酬があるというのがこれ、強烈に世界的イベントとして機能してるんですよね。
とんでもねえなあ、これ。いやホント悪趣味ではあるんだけれど、この世界観そのものがメチャクチャ面白い。いや設定云々そのものよりも、それをエンターテイメントとして見事に描き出している描写が凄くイイんでしょうね、これ。
一方で、まさに事故によって他の999人と違って何の事前準備もなく異世界に飛ばされてしまったヒカルは、生きるために本当にギリギリの瀬戸際、崖っぷちを……いやそれこそ、断崖絶壁に張られたロープの上を全力疾走するかのような形で生死の境目を駆け抜けていくのである。
その余りにもギリギリすぎるサヴァイバルが、皮肉にも視聴者数の増加を呼び、それによって与えられる特典が命綱として彼の生存を繋ぎ止めていくのである。このあたりの選択を間違えれば、決断を誤れば、奈落を前に躊躇してしまえば、或いは思慮を巡らせずに安易に突き進んでしまえば、あっという間に死んでしまう過酷すぎる環境と状況に、ハラハラしっぱなしでありました。
それだけでも絶望的なのに、そこからさらに彼を、ヒカルをどん底に突き落とす展開が……彼がようやく死地から抜け出した直後に放り込んでくるのですから、鬼畜展開もいいところですよ、これ。
生きるためにあがいてきた彼を、そして何より本来自分ではなく異世界に転移するはずだった幼馴染のナナミ、彼女の生存を信じて、すがって頑張ってきた彼に突きつけられる、残酷過ぎる結果とそれ以上に彼の人格そのものを崩壊させる、凶悪な悪意……いや正義感、そのどちらもが入り混じった、人間のもっとも醜悪な部分が彼に浴びせかけられるのである。
タイミングとして、これ本当に最悪なんですよね。他の場面だったらまだもうちょっとなんとかなったかもしれない。でも、死ぬ思いをして死の大地を抜けきり、人の生存権までたどり着いて絶対に無理だと思えた希望をつかんだその瞬間ですからね。
これほど鮮やかに、人の心がグシャリと押しつぶされる瞬間はなかなか見たことがないです。
そうして思い知らされるタイトルの意味。彼にとっての命綱だった視聴者が、ぐるりと反転してその億単位の圧倒的な数字そのものが、彼を呪うものへと変わった瞬間。一部始終を常に見られている、ということだけでも恐怖なのに、それが何億人もの数の人間が、自分を敵意と嘲りと憎しみで見続ける、と考えたら、そりゃ頭おかしくなりますよ。そして、その目からは絶対に逃れられない。
誰からも見えないように、暗闇へ、暗がりへ。人目を避けるようにして、闇に姿を消していく彼の心情は身につまされる、どころじゃない絶望と悲哀が籠もっていて、もうなんて言ったらいいか。

このときの彼の心境を忘れずにいたならば、新たな特典によって殺されたナナミの蘇生が叶うかもしれない、という可能性がヒカルの前に提示されたときの、彼の一瞬にして決めてしまった覚悟の凄まじさがジワジワと痺れるように伝わってくるんですよね。
一気に、彼のまとう空気が一変しましたもんね。彼の抱えていた恐怖を一瞬にして踏み潰し、グシャグシャになっていた心が刹那に固く定まった。
すげえ男ですよ。なんちゅうやつだ。あの一瞬で、幼馴染を生き返らせるために、数十億の悪意を憎悪をたった一人で受け止める覚悟を決めたのだ、この少年は。どれほど醜く浅ましい真似をしてでも、自分を数十億の視線の前に晒す覚悟を決めたのだ。
このヒカルの纏う雰囲気が一変したのに、これまた一瞬で乗っかって地球側で猛烈な勢いで場を整えだすヒカルの双子妹がまた凄い、てかなんだかんだとこれ血の繋がった兄妹だわ。

面白いのが、本作でもっとも強烈な存在感を示しているのが、作中で掲示板の話題などでしか登場していない、ヒカルの双子の妹たちというところでしょう。ヒカルが負った冤罪によって家を焼かれ、海外へと避難しなければならなかったにも関わらず、人外の天才性をもって世論をひっくり返し、ヒカルのバックアップ体制を整えてしまった双子姉妹。作中にちゃんと登場していないにも関わらず、その活動といいキャラクターといい峻烈といっていいくらい輝いているもんだから、地球サイドも異世界側に負けず劣らずホットスポットとして動向が目を離せず、温まってるんですよね。
むしろ、これだけ凄い存在感のキャラを異世界側に送らずに、地球側で活動させるという展開がすごいですわ、めちゃくちゃ面白い。しかも、その活動は第三者の目を通す形でしか知る事ができないのが、逆に牽引力になってるっぽいんですよね、面白いっ。

他の転移者たちの動向も、特にど派手な活動をしている面々を中心にチラチラと見せてくれているんですが、正直こんなに生き残るとは思わなかった。
転移の際の転移特典の割り振り点数、あれは一人突然転移させられたヒカルだけじゃなく、他の転移者たちも結構予期せぬものがあったでしょうし。転移先についてはかなりランダムを選ぶ、避けられずに選ばざるを得ない人が出てくるかと思ったんだが、賢明かつ時間の余裕を持って点数配分を済ませた人が多かったのか。
てか、ヒカルは気絶してた分、選択時間を消費してしまっていたから時間が足りなかったのか。

ともあれ、終始ハラハラしっぱなしで面白いことこの上なかった作品でした。人の生存権にたどり着き、しかし人の中に混じらずにダンジョンの中で細々と生きていく展開になって落ち着くかと思ったら、この子…ヒカルくん、あれだけ人間不信というか恐怖症を負ってしまったにも関わらず、ついついダンジョン内で死にかけている子を助けてしまったり、ともう根っこがいい子すぎてねえ。
そこに、あの覚悟完了でしょ? そりゃもう、世界中の人が彼の動向を見守ってしまうのも分かろうな、という面白さでした。そりゃもう、勇んで次巻行きますよ?