徒然雑記 : 英雄失格者の魔獣グルメ ★★★☆

【英雄失格者の魔獣グルメ】　山夜みい／ファルまろ講談社ラノベ文庫

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第13回講談社ラノベ文庫新人賞<佳作>受賞作!!!!

食べ尽くせ、この世界のすべてを――!!!!!!

どんな魔獣も狩る、料理する、食べる、世はまさに大調理時代ー!

狩猟と調理の概念が融合した『猟理人』の誕生から三百年あまり。
かつて勇者の一族からも将来を嘱望されていたレンはとある理由で失格者の烙印を押され、ひょんなことから世界一の猟理人を目指す少女ルーシーのバディを務めることに。

名門クルーエル魔獣猟理学院に通う彼女は人一倍まじめな性格にもかかわらず、膨大な魔力を暴走させるせいで落ちこぼれとバカにされていた。レンの教えで才能を開花させていくルーシーはある日、相棒の壮絶な過去を知り――

「あたしと一緒に来なさい、レン!」

これは少年と少女が紡ぐ、世界一美味しい英雄譚。

やー、面白かった。王道の面白さだこれは。
話の展開自体はオーソドックスなんですけどね、だからこそ物語の描き方、語り口、文章の妙やテンポが問われてくるわけだけれど、本作はその点グイグイとお話の中に引き込んでくれる。メインを担う主人公とヒロインであるレンとルーシーのキャラクターが目線を引き付けて放さない。
図らずも、いや図ってるのか無いのかは知らんけれど、最後に二人が出す料理はオムライスという誰もが作れる目新しさのないオーソドックスな料理でしたけれど、だからこそ小細工が通じない……細工や工夫・仕込みはしっかり丹念にやってますけどね、でも小手先の目新しさで引っ張り回そうとしない、ドンと腰の座った実直で腕によりをかけた、技術と経験を練り込んだ一品に仕上がっていましたが、本作もまたそんなオムライスさながらの、堂々とした王道を練り歩いた一作でした。

何より、胸のすくようなボーイミーツガールなんですよね。
レンとルーシー。ふたりとも、生来持つ欠陥が所以となって、魔獣を狩猟し調理する「猟理人」というバフ効果のある料理を作り出す料理人の道を半ば閉ざされている。どれほど努力を重ねても、欠陥を克服しようと頑張っても、彼らの努力は実らない。技術を磨き経験を蓄え先人の言葉に習い自ら工夫し繰り返し繰り返し反復して、それでも二人は望むところに手を届かせることが出来なかった。
挫折である。挫折して挫折して、挫折して……でも、それでもなお彼らは諦めきれなかったのである。
彼らにとって、猟理人の道は夢で憧れ。ただただ好きだった。
でも、周りは彼らをその努力を嘲り、嗤い、踏みにじり、二人の夢はずっと否定され続けてきた。
やめてしまえば楽だっただろう。違う道も彼らにはあっただろう。それでも、彼らは自らのうちから湧き上がる「好き」という気持ちを抑えきれなかった。諦められなかったのだ。
だから、二人はここで出会った。愚直に努力を繰り返し、どれほど嘲笑されても歯を食いしばってこらえ、猟理人を目指し続けた。だからこそ、出会うことが出来た。
愚直は美徳だ。
賢くはないかもしれない。本当に何一つ可能性がない事を繰り返し続けることは、ムダで無為で愚かな事だろう。信じるものとて救われない。
こういうのは、状況次第なんだと思う。本当にダメなら、止めてやらないといけないと思う。
でも、愚直は美徳だ。嗤うなんて持ってのほかだ。愚直であることを嗤う価値観になってしまったら、きっと世界は停滞してしまうだろう。無数の愚かの中の一欠片、無駄無為無価値という当然の評価と結末の中に埋もれていく山の中に、わずかわずかに現れる金の砂粒ひとすくい。その愚かの極みが、人類の未来を切り開く切っ先となってきた事を忘れてはならない。
愚直は美徳である。
それを思い出させてくれる、信じさせてくれる主人公とヒロインだった。
レンもルーシーも、ふたりとも今まで自分が歩んできた艱難辛苦の人生があったからこそ、相手の姿が輝いて見えたのだろう。それは自分の姿の鏡写しだ。そして、もうひとりの自分が自分が歩んできた道を肯定してくれた。あなたこそが必要だと求めてくれた。
これほど勇気が湧いてくることはないだろう。心に火がつくことはないだろう。出口が見えない闇の中を歩き続けるような生き方に、レンの存在は、ルーシーの言葉は、どれほどの光となって映ったただろうか。
カッコいい所見せてよ、なんて女の子に言われるなんて、男の子の誉れだろう。もう全力全開、なんだって出来る心地に舞い上がる。
実に胸のすくボーイミーツガール料理バトルでありました。

個人的に、あのひたすら悪役極めていた卑しい貴族のボンボンは手づからしっかりぶっ飛ばしてほしい気持ちはありましたけれど。いや、サクッと別の本命ライバルたちに描写すらも与えられずにぷちっと潰されてしまっていたのこそ、雑魚モブに相応しい顛末と言えるのかも知れませんが。
きっちり、終わった後に報い受けましたしね。