【俺にはこの暗がりが心地よかった 2 -絶望から始まる異世界生活、神の気まぐれで強制配信中-】  星崎崑/Niθ GAノベル

Amazon Kindle BOOK☆WALKER DMMブックス
24時間365日、一挙手一投足全てを生配信され、多くの者が脚光を浴び、また落命した異世界で、暗がりに塗れ、目的もなく迷宮を彷徨うヒカル。
偶然彼が出会い助けたリフレイアは、そんなヒカルを照らし、闇から光へと誘った。
何か、変わるかもしれない。変えられるかもしれない。微かに心が揺れたところに、再び無慈悲な神の声が響く。

『第1回視聴率レースを開催します。
大会の目玉賞品は『死者蘇生の宝珠』。
ぜひ1位を目指して視聴者を獲得してください』

――刹那、動きかけたヒカルの心は再び固まった。

どんなことをしても、たとえリフレイアの想いを利用してでも、1位を獲ってナナミを蘇らせる。
そんな思いを秘めたまま彼女と迷宮に潜るヒカルは、視聴率上昇が確実な魔王と遭遇。全身全霊を懸けて激突する――!!
大人気配信系ファンタジー大作、死に迫る第2弾!!


目的を達成するために何でもする、なりふり構わず自分を好いてくれる人でも利用して。
ナナミを蘇らせるために、ヒカルは非情の覚悟を決めるのですが……。

ほんとねー、ヒカルの価値観においての最低とか下衆とか鬼畜って、本物の外道のそれと比べると全然価値基準が違うんですよ。ヒカル、とてもとても良い子なんだよ。
本当に配信視聴者の反感を買ってネガティブな歓心を買うために外道ムーヴするなら、リフレイアはもっと食い物にして冒険者としても女としてもしゃぶり尽くさないといけないはずなのに、ヒカルの中ではそういうの、発想から存在しないんですよね。
自分の配信に巻き込むことで、十億単位の視聴者の視線に晒してしまう。その一点だけで彼はリフレイアを利用いてとんでもないヒドいことをしている、と思ってる。
それは彼にとっては凄絶な覚悟なのだ。そして同時に、こんなひどい目に合わせてしまっているリフレイアを、これ以上決して傷つけるわけにはいけない、と厳しく自身に戒めてもいる。
どんな事をしても、と言う割にはヌルい? いや、違う、違うのだ。そうじゃない。全然ヌルくなんかない。妥協して日和ってこの基準にしているんじゃないのだ。此処には、ヒカルの凄まじい信念が貫き通っている。
彼は決して自分の許せぬ限界を踏み越え、しかし彼自身認めないだろうヒカルの善性は、リフレイアの想いをこれ以上なく頑なに守ろうとし、大事なものとして尊んでいる。彼はそれを踏みにじっている、と思っているようだけれど。
ここの差異に、越えないラインに、ヒカルという少年の何て言うんだろう……人が持つ善き心の可能性というか、救いみたいなものを感じるんですよね。
あの双子の妹ちゃんたちがお兄ちゃんに見出していたもの、ってそういう所だったんじゃないだろうか。彼が、この放っておけばどこまでもどんな倫理も踏み越えて飛んでいってしまうだろうこの双子の錨になっていた、止まり木になっていたんじゃないだろうか。彼の在り方を見ていると、何となくそう思う。
一方で、ヒカルは自分に対してはひたすらにストイックなんですよね。それこそ、ナナミを蘇らせるためには何でもする、このこの何でもするの部分。こと自分自身に対しては掛け値なしに言葉通りなんだ。自分に関することなら、本当に何でもするつもりで彼はとことん自分を追い込んでいく。
命をかけるなんて前提の前提だ。半ば生命を投げ捨てる覚悟で無茶無謀に挑むことを、最低限のラインにしてしまっている。
そもそも、地球の配信者たちに自分の姿を見られる事がもうトラウマになっていたはずなのに。人の視線に耐えられないくらいの心の傷を負っていたのに。ジクジクと苛んでくるだろう心の痛みを、軋みを、悲鳴を敢然と無視してこの少年は自分をさらけ出し、見世物にして、わざと痛めつけて歓心を買おうとするのだ。ほんと、事自分に関しては覚悟ガンギマリなんだよ。
他者に対してこれほどまでに優しく、自分に対してこれほどまでに厳しく、そして目的は理不尽に殺された幼馴染を救うため。こんな健気な姿を見せられて、そりゃあ視聴者たちがハラハラしながら頑張れ頑張れ、と応援してしまうのもわかるってもんですよ。共感どころじゃないですよ。

幸いにして、彼が深く関わることになったリフレイアは恋する少女である以上に、自分の想いよりもヒカルの事を優先してしまえる優しい子でした。愛を与えてしまえる子だったんですね。
それ以外にも、同じ異世界からの転移者として初めて出会い、同じダンジョンで冒険者として過ごすアレックスも、こいつめちゃイイやつなんですよね。おかげで、ヒカル、ダイレクトな人間関係で今のところ闇を抱えずに済んでますし。
アレックスに関しては、ほんとイイヤツすぎて、ヒカルのメンタル慮ってくれすぎて、折角の双子からのメッセージをヒカルに伝えられなかった、というのはなかなか皮肉にも思えますけれど。

魔王と呼ばれる変異体との戦いは、あの森を抜けるギリギリの戦いを上回る、明らかに格上相手で手持ちの札が明らかに足りない状況での、ギリギリのバトルでもうハラハラしっぱなしでした。双子ちゃんじゃないけれど、見ててたまんないですよ、このギリギリすぎるヤバさは。
その上、あれほどの覚悟を決めて、自分を追い込んで追い込んで、自分で自分を許せない境界を踏み越えて成し遂げようとした目的を、ナナミの蘇生を……あそこで決断して諦められる、あの諦める勇気ですよ。凄いわー。はたして、あそこでどれほどの葛藤があったのか。葛藤の深さを、苦しさをこれほど感じさせつつ、その決断自体は即座に下すあの果断さ。色々な意味でたまらなかったですわ。

最大の難関を突破しながら、生きる以上のそれこそ死んでも叶えなければならなかった目的を果たせなかったヒカル。成功者でありながら、失敗者であり、諦めたモノとなってしまった彼は、縋るリフレイアの背中を押して送り出し、もう成すべき事をゼロにしてあとは余生を送る気満々なんですよね。また誰の目にも届かない暗がりの中に引きこもってしまうのか。
そんな彼に近づく、輝きの暴力。いや暴力的な輝き? わが道をゆく唯我独尊。闇だろうが暗がりだろうがその圧倒的な光、というかなんかもう存在感の塊魂でふっとばしそうな怪物きたる、にヒカルが果たしてどう対応するのか。
こういうの傍観者気分のワクワクですよねえw