【この△ラブコメは幸せになる義務がある。3】  榛名千紘 /てつぶた 電撃文庫

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「いつかじゃなくて──今じゃ、ダメですか?」

思い高ぶった麗良が天馬にした、突然のキス。そして、それを見てしまった凛華。三人の間にぎこちない空気が流れたまま、一学期が終わろうとしていた。
悩む天馬。距離を置く凛華。そんな二人を呼び出した麗良は……?
「合宿、しましょう!」
有無を言わせぬ夏合宿がいきなりスタート!? 天馬は二人が楽しめるよう、最大限協力をしようと決心するのだが……。
「私、あんたの部屋で寝るから」
ポンコツ凛華の様子が、なんだかいつもと違い!? 「最も幸せな三角関係」は、天馬の予想外の方向へ進み始める!
ラノベ史上最も幸せなトライアングルラブコメ、急展開の第3弾!
さらに電子限定書き下ろしショートストーリーとして、大人の女性ふたりの密談(?)も収録!

「ねえ、矢代。もしも、私が──」


仕切り直しの三巻でした。
気持ちを抑えきれずに、天馬にキスしてしまった麗良。それを目撃してしまった凜華。
凜華としたら、否応なく自分の中に芽生え始めていた天馬への想いを突きつけられる場面でした。性別を越えて愛する麗良が男とキスしているというショック。その相手が、いつの間にか自分の心を麗良と二分する形で占め始めていた天馬だったというショック。
基本本作は天馬視点で描かれているので、凛華が具体的にどんなショックを受けていたのかはわからないんですよね。さて、上記した2つがどれほど正解に近いのか。まあどちらかというのではなく、綯い交ぜになった混乱だったのでしょうけれど。そもそも、どこまで天馬への気持ちを自覚していたのか。或いは、このとき初めて自分にとってあの男がどういうポディションを占めているのかを自覚しはじめたのかもしれない。
麗良を奪われるという恐れか、それとも天馬を獲られるという怖れか。はたまた、自分ひとりが置いてけぼりにされてしまうという奈落の思いか。
いずれにしても、凛華は自分の中に生じた衝撃に打ちのめされ、その消化と整理にまるまる一巻費やしてしまう。

ちょっと意外だったのは麗良の動向である。これまでの三人の関係を破綻させかねないキスという行動に出てしまった彼女。これをきっかけに大きく動き出すのかと思ったのだけれど、彼女が選んだのは一旦引いての沈黙でありました。天馬に対しても、今後については保留ということで事を収めてしまいます。てっきり、この3人の関係が激しく動き出す、のかと思ってたんですけれどね。
キスは本当にただの衝動的な行動だったということなのか。
凛華は放心。麗良は待ちの姿勢。
思えば、麗良は凛華との距離感が微妙なことになってしまっていった際も基本受動的であんまり自分から動いてないんですよね。生徒会の一見でも天馬が介入するまでは能動的に組織を改革して人事を動かそうとはしなかった。
意欲的で活発で人間関係も積極的に見える麗良だけれど、こうしてみると自分から主導権を握って状況を牽引していくタイプではないのかもしれない。
おおよそ、凛華が自覚していない部分まで彼女の気持ちを察しているだろう麗良。彼女が一番この三角関係がどのような力学で成立しているかを把握していると思うのだけれど、そこに自ら手を出して動かしていくつもりはなさそうなのだ。
果たしてそれが勇気のなさなのか、自分の都合の良いように誘導する事がいやなのか。あくまで主体を天馬と凛華に任せているような気がする。
それだけに、彼女のキスという行動だけが普段の麗良からは外れているのだが、それだけ気持ちが溢れてしまった、と見るべきなのだろう。ぶっちゃけ、麗良が主導すればあっという間にこの関係、片がつくと思うのだが。三人の性質を見る限り、それが一番適しているのは麗良に見えるんですけどね。
繰り返すが凛華は完全に機能停止。フリーズ。ネガティブのマイナスに陥ってしまった。それをせっせと世話して立て直していく天馬くん。この男、なかなかえげつないなあ。人の気も知らずに、と言いたくなるけれど、一方でそこまで心配して気を遣って慮って手間を掛けて世話してくれるの、凛華としたら嬉しくないわけはないんですよね。これはもう献身の一言ですよ。
なんだかんだと、ジワジワと気持ちを立て直せていけたのは、天馬のおかげでしょう。もしずっと放置状態だったら、この弱々娘、そのまま自力でわらも掴めずにズブズブと沈むところまで沈んでしまったかもしれない。
でも、この男。麗良の保留というお言葉に甘えまくって果たしてどこまで真剣に麗良の想いに向き合っているのか。それが出来ずに、凛華推しという自身の欲求に従ってなんとか真っ白になっている凛華をもとに戻して、麗良との仲を応援してやろうと頑張っているのだが……いや、凛華を応援して麗良との仲を取り持ってていいの? それは蔑ろにするべきじゃないけれど、麗良からの想いを自分がどう受け止めるかを決めないまま、凛華の応援に終始してしまっているのはどうにも現実逃避が含まれているように見える。彼が麗良を好きで好きでたまらない凛華が好きでたまらない、というのは良くわかるんですけどね。その好きは今のところラブというよりも、推しに近いものにも思えるのだけど。麗良と凛華。それぞれを一人の女性として見てドキドキしているのは間違いないけど、それ以上に二人の友情を超えた関係が好きで好きで推しまくりたい、という感じなのかな、この男。
その分、自分の方に向けられる気持ちに対して無頓着であるのだが。

一旦仕切り直しの回でした。このまま三人の関係を新しい段階に進めるには、三人ともに腰が定まっていなかった、という事なのでしょう。まあ、仕切り直しも出来ずに混沌のまま状況を進めてしまうラブコメも多いだけに、これは折角の勢いを止めてしまった停滞にも見えなくないですが。
合宿も、三人きりでじゃなくてメイドの沖田さんと天馬の姉の渚が参加して五人で、という事になり、単に思いっきり遊んで良い思い出が出来ました、ラブ抜きで。という感じでしたからね。ちょっと沖田さんと渚が目立ちすぎて、三人が大人しいくらいでしたし。

さて、とにもかくにも凛華が自分の気持ちを整理したところで、次回今度こそ三人の状況が動いていくか、と思われたところでさらに状況をひっくり返す新たな登場人物が。正直、そっち方面からの刺激はどうなんだろう。安易な余分になるか、劇物として三人の決断を促していくものになるのか。
いずれにしても正念場だ。