【虚ろなるレガリア 4.Where Angels Fear To Tread】  三雲 岳斗/深遊 電撃文庫

Amazon Kindle BOOK☆WALKER DMMブックス
魍獣化した日本人を復活させる手段を求めて京都に向かうヤヒロたち。しかし名古屋に駐留する中華連邦軍によって、ギャルリー・ベリトの装甲列車は足止めを食らってしまう。
 魍獣の絶え間ない襲撃に悩む中華連邦軍は、通行料としてギャルリーに山の龍の遺存宝器を要求する。だが、そのときすでに遺存宝器は絢穂に適合し、彼女との一体化を終えていた。
 絢穂を守るためにヤヒロと彩葉は魍獣襲撃の原因究明に乗り出すことに。そして二人は魍獣群生地の奥で、封印された古代の冥界門を発見する。
 中華連邦軍の裏切りにより冥界門に突き落とされたヤヒロたちが暗闇の底で見たものとは!?
 廃墟の街で出会った少年と少女が紡ぐ、新たなる龍と龍殺しの物語、第四巻!

サブタイトルの【Where Angels Fear To Tread】は訳すと「天使も踏むを恐れるところ」。
エドワード・モーガン・フォースターというイギリスの小説家の処女作だという。残念ながら読んだことはない。あらすじや他の方の感想なんかを読んでると、異なる価値観からの衝突によって生じる人々の反発や理解を描いている作品らしいのだけれど、さて本作の場合誰が保守的なイギリス人で、誰が奔放なイタリア人なのか。
少なくとも、強烈な個性……いや、我というべきか。強烈な我を持つシア・ジーグァンは自分の知らぬ価値観というものを一顧だにもしなさそうだったが。
そういう意味では、頑なそうに見えて常に揺れ動いているのは鳴沢八尋なんですよね。ただ、今回の動揺の原因は原因だけに彼が定まらなくなるのもよくわかるんですよね。
魍獣の正体が絶滅したはずの日本人だった、という衝撃の事実に重なって、もしかして魍獣と化した日本人たちを元の人間に戻せるかもしれない可能性、という未来への展望が、希望が開けたのが前巻でありました。
明らかになった真実について、それは喜ばしいことだとばかり認識していたのですが……そうか、そうなんですよね。魍獣が日本人だった、人間だったという事は、つまりそれを殺してきた事=人間を殺してきた事になってしまうわけだ。
ただでさえ大虐殺を引き起こした原因となっているヤヒロ。それは妹の珠依によって無理矢理に起こされたものでヤヒロの意思ではなかったにしろ、大きな罪として彼はそれを背負っている。
その上に、自覚がなかったとはいえ自分の意志で殺していた魍獣が、同胞である日本人だった。自分が原因で魍獣になってしまっていた人たちを、さらに自らの手で殺してしまっていた。
繊細なところがあるヤヒロです。その事実を受け止めてしまったがゆえに、動揺激しく魍獣相手に戦えなくなってしまうというのは、不死者(ラザルス)失格ではあるんでしょうけれど仕方ないと思うんですよね。
でも、そんなヌルい事を言っている状況でもない。
京都に向かう途中に足止めされた中華連邦が支配する名古屋駅要塞は、ひっきりなしに魍獣たちが攻め寄せてくるホットポイント。おまけに、中華連邦の連中はベリトをイビってでも通行料をがっぽりとせしめる所存で、敵対とまでは言わずともいつでも害する要領で威圧してくる始末。
腑抜けていられる場合ではないのだけれど、それでもいつも以上に調子が戻らないヤヒロに対して、むしろ今回は彩葉が頼もしかった。
いや、この娘は前から無分別に前向きで相変わらずのポンコツだったけれど、前回でヤヒロが自分のラザルスだ、という確信、というか自信を得たからか腰が据わった感があるんですよね。
魍獣をなんとかして元の人間に戻す、という目標も定まった事でやること成すことにブレも少なくなりましたし。どうも考えがすっ飛んでいて、周りを振り回してしまう傾向は相変わらずですけれど、目線が定まったせいか突拍子はなくても修正の必要がなくなって、周りがしっかりと支えればいい、という感じになったのは大きいかと。
魍獣と意思疎通が出来て従わせることが出来る、という特性も今までは危険を回避できる要素くらいのものだったけれど、段々とその事自体にカリスマ性を帯びてきた気がしますし。
ともあれ、今回は彩葉が拙いながらもグイグイと主導権を握って引っ張ってくれたお陰で、悩めるヤヒロもとりあえず動くことが出来て、そこから気持ちを整理する方に持っていけたんではないかと。
そういう意味では彩葉、今回は十分以上にご主人さましてたんですよねえ。大いに頼りがいがあったような気がする。おっちょこちょいで何仕出かすかわかったもんじゃないのは相変わらずだけど。
他のラザルスや龍の巫女たちが、癖者揃いとなって暗躍するモノも事欠かない状況で、彩葉が何だかんだと貫禄みたいなものが出てきてドンとブレずにいてくれるというのは本当に助かる。
おまけに、失われた記憶が戻ることで芯みたいなものが更に通った感がありますし。
まだまだ、わかっていない謎は多く、そもそも今意識のないすべての原因である妹・珠依の真意も定かではないけれど、何はともあれこれからだ、というヤヒロにとってのリスタート回だった気がします。
物語のストーリーライン的には、魍獣の密集地帯の奥で落ちてしまった冥界門の先で遭遇した出来事が重要になってくるのか。どうやら年嵩の巫女たちは「記憶」があるみたいだし、果たしてこの時見た異なる日本とどう関わってくるのか。あそこで出会った彩葉の中に居た存在はなんなのか。
すべては、京都で待っている迦楼羅と出会うことで扉が開いていきそう。

しかし絢穂ちゃん、てっきり死んだ山の龍の巫女の代わりに二代目になるのかと恐々としたのですが、遺存宝器―リアクト・レガリアの適合者という形になったのか。いやあ、彩葉に珠依の二人の巫女からラザルスとされているヤヒロに、さらに三人目の巫女がラザルス使命して、という恐るべきトリプルラザルスになるのかと思ったのは、さすがに杞憂でしたか。
絢穂にかぎらず彩葉が面倒見てた子どもたち、みんなキャラ立ってきてイイ感じだなあ。特にちびっこ三人組探偵団は何だかんだと毎回けっこう重要な活躍やお仕事しているんですよね。ほのかという少女をボスに、希理と京太という男の子たちが付き従う。この三角関係、成長した先を見てみたいんですけど、まだちっちゃいからなあw