【現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変 4】  二日市とふろう/景 オーバーラップノベルス

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現代社会を舞台にした乙女ゲームに転生した悪役令嬢・桂華院瑠奈。
アメリカで起きた同時多発テロ事件を機に、世界情勢は加速の一途をたどっていく。
ヘッジファンドの攻勢も強まり、各企業の目も厳しくなりつつあるなかで、それでも瑠奈は攻めの姿勢を崩さない。
急成長を続ける桂華グループは、国内からも統制を求められ、企業再編の対応に追われてしまう。それぞれの思惑が絡み、小さな女王はその渦中の人となり対処するが――。
「君には資格が無いと言いたいのだよ。私は」
恋住総理の容赦ない攻撃に翻弄される瑠奈の、数少ない味方が切り崩されていく。
そして瑠奈は知る――突き進んだ果てに、何が起ころうとしていたのかを。
『それ』を起こさないために、どれだけの大人に守られていたのかを。
現代悪役令嬢による日本再生譚、第4幕!


カラー口絵にもなってるけれど、岡崎と瑠奈のあのシーンはめちゃくちゃ痺れるんですよねえ。

「やればいいじゃないですか」
 まるで悪戯をする子供のように岡崎は言った。唖然とする私に岡崎はあっさりと己を私に賭ける。
「オレはお嬢様が見ている未来が見たいからここで働いています。
資金がない? 用意しましょう。
伝(ツテ)がない? 用意しましょう。
あとは貴方の声だけで俺は動きますよ」
迷いがなくて真顔だからこそ、私は揺れる。震える声で私は、最後の確認をとった。
「賭けるのは数兆円の大博打よ」
「いいじゃないですか。そこまで行くと勝とうが負けようが納得がいきます。全部失った所で、数兆で済むなら問題ありません」
岡崎は私の目線まで腰をかがめて笑った。その笑みに私は勇気づけられる。
「お嬢様、お嬢様がでかくした桂華グループの総資産は十兆を超えています。しくじっても鈴木商店みたいに残るものは出ますよ」
「それ、昭和金融恐慌の引き金引いてるじゃない」
その時、モニターにニュース速報が出る。それが私の心を決めた。
『速報:米国パソコンメーカーの委任状争奪戦、創業家が大差で勝利し女性CEOは辞職を表明』
「いいわ。じゃあゲームを始めましょう。掛け金は数兆円で。リターンは日本のコンピューター産業の中枢。だから、頭を下げるのは一緒にお願いするわね」
「もちろんですとも。で、何をすればよろしいので?」
「とりあえず、あの女性CEOをスカウトして」
さあ、世界を変えに行こう。



こっからパパンと4千億ドル…48兆円もの資金ひねり出す岡崎さん、マジ山師。48億円じゃないですよ? 48兆円ですよ!?
そこから2002年7月に起こるワールドコムの不正会計を大統領筋にリークすることで、起爆寸前だった米国ITバブル崩壊のスイッチを押し世界を揺るがす仕手戦を繰り広げるのである。
だから、もうスケールが……スケールが尋常じゃなさすぎる。背筋が震える。ふわーーふわーーっ。
岡崎は悪い大人ですよー! いや、ほんと周りは悪い大人ばっかりなんでしょうけれど、岡崎だけは質が違うんですよねえ。山師だから、というんじゃなくて、確かに本質的に瑠奈と同類なんだよなあ。だからこそ、特に馬が合うんでしょうけれど。自分のことに関してはあんまり興味がないというか、自分の利益や成功に対してさしたる思いを抱いていない所なんかが特に。そして、守るべきものが特に無いという意味でも。
ただ岡崎がスリルや面白さを求めているのに対して、瑠奈お嬢様はこの人は完全に歴史の敗北者の救済という方向に顔を向けているんですよねえ。
そこが決定的に普通の実業家や投資家と違っているところで、ひたすら儲けを至上として利益を追求する層が理解できない存在に足らしめている要素なんでしょうね。
彼らは金を儲けることこそが成功であり名声であり名誉であり、自らの価値を確立するための目的なわけだ。そんな彼らにとって、瑠奈お嬢様のやってることは折角稼いだ金をどんどんと溝に棄てているように見える。彼ら自身が総毛立ち羨むどころじゃない神憑りなほどに稼ぎまくる、至高の存在としてそそり立ちながら、しかし彼らが絶対に理解も納得もできないロジックでその金を無駄にしている、無為にしてしまっている、彼らにはそう見えるわけだ。
桂華院瑠奈という人が、まさに「溝に捨てる」ために金を稼いでいる、なんて彼らには想像すらできないのだろう。彼女にとって、金を稼ぐ、儲けるというのはあくまで目的を達成するための手段にすぎない。その得た利益を、財産を、成功を維持しよう、積み上げていこうなんて、さらさら考えていないなんて。いずれ、その全てを失うことを承知で、それどころか前提としているなんて頭の片隅にもないだろう。
その理解の齟齬が、後々ハゲタカファンドなどとの奇妙な相克へと繋がっていくわけですが。
それ以前に、瑠奈が求めている自身の魂の救済…歴史の敗北者をすくいあげるという意図こそ完全に理解はしていないものの、彼女が進む先には破滅しか無い。彼女自身がそれを受け入れていることを。自身の幸せを度外視していることを周囲の人間たちは、瑠奈を愛し慈しむからこそ薄々察し始めていたんですね。
そりゃそうだ。彼女が小学生の身でタタンタタタンと積み上げていった桂華グループ、それを支える人材がスッカスカで一つのグループとして機能させるだけの人を、瑠奈は全然用意する素振りを見せないんですもの。結果、内部では経営陣こそ刷新したものの、残った各会社・グループ閥による主導権争いが巻き起こっている。それだけじゃなく、政府からは突然誕生したこの巨大コングロマリットを解体するための手が伸びてきている状態。瑠奈の側近たちが必死に取りまとめているけれど、その取りまとめている彼らが一線を退けば、簡単にグループは崩壊する。だからこそ、一条さんも橘さんも自分達の意思を継ぐ、瑠奈お嬢様をもり立てていってくれる人材を用意しようと奮闘していたわけですが、基幹部分をアンジェラに託すのが精一杯。
将来的には岡崎に渡したいと思っているものの、まだ明らかに時期尚早。アンジェラ・サリバンは全力でお嬢様を支えてくれるだろうけれど、それでも元CIA筋の人間として彼女は合衆国の紐付きである事は逃れられない事実。新たに招いたカリンCEOも頼もしい経営者だけれど、彼女はあくまでビジネスパートナーですからね。
いずれ、桂華グループはバラバラに崩壊する。もっとも、それは滅び去るのではなく、破綻し潰れる寸前だった所を救われて力をもう一度注ぎ込まれて、再び一人で立っていけるように建て直されて。そこに元桂華グループという淡い連帯でいざとなったら支え合えるような結びつきを残しながら、それぞれがもう一度独り立ちしていく、という形なんだろうけれど。
そして、瑠奈のもとにだけ何も残らない形で。そもそも、最初から瑠奈はそのつもりでこの桂華グループを作り上げていっているわけだ。

彼女を愛する人達が、それを許せるはずがないですよねえ。
だからこその、岡崎を除いたほぼ全員による裏切りだったわけだ。だからこそ、彼らは恋住首相側について瑠奈を掣肘する側に回ったわけだ。
しかし、それが瑠奈が足を止める理由にはならない。彼らの気持ちをわかっていてなお、彼女は止まることができない。それは、拓銀救済のために立ち上がった時に定められたことだった。
自らを生贄にしても、彼女は歴史の理不尽に虐げられる弱者たちを救うべく立ち上がった。それが、自らの前世の魂の救済だと信じて。その報いは、自らの破滅だと受け入れた上で。
止まることなんて出来るはずがない。彼女は実業家でも投資家でもない。おそらく、正しく救世主なのだろう。

でも、歴史そのものと対決し、世界そのものを背負うような行為は、世界の政治と経済を壟断し自らの手で、意思ですべてを動かしていく、その重さに彼女は壊れていく。
そして、恋住はそんな彼女を糾弾する。彼女のために。そして彼女を犠牲にして繁栄したという汚名をこの国に着せないために。
でも、桂華院瑠奈は知っている。この国がどうやって時間を、繁栄を、幸せを失っていったのかを。子供である彼女が、責任を持てる立場に立ったときにはすべてが手遅れだったからこそ。だからこそ、今なのだ。今でないと、すべてが手遅れになってしまう。
でも、それを理解させるすべを彼女は持たない。だからこそ、桂華院瑠奈はカサンドラなのだ。その予知は、誰にも信じてもらえない。
だからこそ、だからこそ。彼女は自ら手を下す。自ら動き自ら歩き、自ら手を差し伸べて、世界を揺るがし予言を覆していく。自らの破滅という結末を贄に捧げて。

しかし、ほんとに各決定的なシーンが劇的なんですよねえ。カリンCEOをスカウトするシーンとか、なんですかあれ。世界を引っ張る携帯電話事業の未来展望を語った上で、時間になったのを見計らって、メイドにテレビをつけさせて。そしたら日米をまたぐ大合併のニュースが速報として流れていて。その画面を背景に、この誕生する巨大企業を貴方に任せたい。この会社を世界一にすればいいのね。お受けしましょう、ボス。という流れ。
映画でもこんな場面、滅多ないよーー! 痺れるぅぅ!!
そして、ここで起こった出来事は、やがて崩壊するだろう日本の電化製品産業そのものの救済なんですよね。果たして、その意味を理解している人がいるのだろうか。

一巻だったかでも、泉川さんが選挙に勝った時に選挙事務所に首相から電話かかってきて、入閣が依頼された時に、瑠奈がサラサラとメモ帳に「受けて」と書いて電話中の泉川さんに見せるシーンなんかも、政経ドラマの粋の極みだよなあ、と感動したものですけれど、いやーほんと映えるシーンが多い。
もうとっくの昔に、だけど世界中が彼女の動向を見守っている。日本の小さな投資家なんかじゃないんですよね。規模があまりにも桁違いだ。イラク戦争に先駆けて、サウジに鉱山鉄道という名目で鉄道網を完成させつつあるとか、発想というか視点の立脚点が全然違うんですよね。
また、これを読むとみずほ銀行のシステム障害の根本原因がとてもわかり易く理解できます。
古川通信って、富士通かー。みずほの勘定システム開発という地獄から撤退じゃー! と瑠奈お嬢様自ら乗り込んで現場で蹴り飛ばして総撤退させるシーンは、まあもう痛快としか言いようがなく。

恋住首相、そして壊れゆく彼女を労る周りの大人たちによって敗北し、一時の休息を得た瑠奈。軽井沢での帝亜栄一とのデートなんて、その最たるものでしょう。挿絵も殆どが大人たちと顔を突き合わせて真剣な顔で話し合っているシーンが多い中で、同い年の少年と街を歩く笑顔の瑠奈のシーンはこうなるともう貴重かもしれない。
彼女をこれ以上壊さないように、あまりに遠くが見えすぎるその目が曇り光を映さない日が来ないように、改めて日米の政治家、彼女の周囲を固める側近たちは大人としての責任を果たすべく血道をあげていくわけですが……。
イラク戦争はすでにカウントダウンに入り、アメリカでうごめくネオコンは瑠奈の想像を超えて史実を上回る暴走をはじめつつある。
そして、ついにあのすべてを崩壊させる鐘が鳴り始める。

サブプライムローン――それこそが桂華院瑠奈の破滅に至る引き金である。




追記:適当に名前変わってるの、実際はこれかなあ、という当て推量。

町下ファンド←村上ファンド
アイアン・パートナーズ←スティール・パートナーズ
帝国電話←電電公社w
新田銀行←足利銀行
古川通信←富士通
WCI←ワールドコム
ポータコン←コンパック
ゼネラルエネルギーオンライン←エンロン
四洋電機←三洋電機
畑辺製薬←田辺製薬
帝産銀行←中部銀行
帝商石井←日商岩井
帝綿商事←ニチメン?
五和尾三銀行←UFJ銀行
太永←ダイエー
鐘ケ鳴紡績←カネボウ
穂波銀行←みずほ銀行

自分でも忘れないようにメモということで。