【紅蓮戦記 2】  芝村 裕吏/エナミ カツミ MF文庫J

Amazon Kindle BOOK☆WALKER DMMブックス
VS最強王族! 亡国から始まる大逆襲ファンタジー戦記、第2弾!

祖国の滅亡をきっかけに、最高位の軍人かつ王子となり、王女2人が突如として「妹」となるなどルース王国再興のすべてをその身に託されたマクアディ。敵軍にはその死を偽装しながら次なる反撃の糸口を探す若き戦争の天才は、かつての学友であるリアン国のエメラルド姫らの協力を秘密裏に取り付け、補給物資の調達に乗り出す。その結果、補給部隊の度重なる敗北の報を受けたニクニッス国の王女シーナは、有り余る魔力の矛先を「謎の敵」に向けることに。強大な魔力を持つ者同士の運命の激突の時が、刻一刻と迫ろうとしていた――!
リアン王国、エメラルド姫の暴走として片付けるのではなくて国を挙げてマクアディの支援に乗り出したか。
前回の感想でも、連合に裏切って戦勝国に入ったはいいものの明らかに次に収奪の対象になるのはリアン国、という空気感は既に色濃く漂い始めていましたからね。辛うじて裏切りによって首の皮一枚生き残ったリアン国でしたけれど、果たしてここからどう綱渡りしていくのか、と思いましたけれど、なるほどマクアディが暴れまわっている間は各国ともそちらに掛かり切りになって、リアン国に手出しする余裕を失ってしまうだろう、という判断か。
ただ傍観、という形で守りに入らず、マクアディに合流したエメラルド姫を通じて諜報や物資など具体的かつ積極的にバックアップに乗り出したのは、小国ならではのしぶとさというか強かさがあってよかったですねえ。これ、バレたらバレたで致命的ではあるんだけれど、いずれにしろ亡国なら可能性のある方に大きく賭けるよ、という果断さが素晴らしい。国王からのトップダウンではなく、施政権を買った商人たちによる合議制、というあたり特殊な形態の国なんですけれど、トップダウン型ではないにも関わらずここまで果断に決断が下せる、というのはそれだけうまく国が回ってるんだろうなあ。
国王陛下としても、娘のワガママを公で認めて後押ししてやれる、と素直に喜んでいるあたりはイイお父さんなんですよねえ。もしマクアディ支援が認められなかったら涙をのんで娘を切り捨てたであろうくらいはちゃんと国王してますし。
公式にはエメラルド姫、連合軍側のミスによって亡くなったという体になってて、という大きな政治的な貸しを連合軍側にリアン国が貸し付けた形になってるあたりも中々えげつなくて、連合軍側としてはこれで容易にリアン国を突けなくなっちゃってるんですよねえ。ほんと強かだこと。

まあ有志諸国連合側、もうルース王国の王都を落として王族の殆どを討ち取って、既にまっとうな戦争は終わった気分でいましたから、ゲリラとしてマクアディ隊が暴れまわっていてもまるで意識が戦時に戻らないんですよね。
おかげで、一巻の時よりもマクアディは容易に敵軍を撃破し補給線を寸断、どころか片っ端から撃滅して、王都への補給路を断ち切ってしまったものだから、王都を占領している敵軍は物資不足によって飢餓状態に陥る寸前に。
一巻のときはまだちゃんとお互い戦争してたので、マクアディ側もけっこう危ない橋渡ってるんですよね。彼も戦術指揮官としての能を、魔導士としてのそれ並に頻繁に使っていたのだけれど、今回に関しては敵の将兵残党潰しとしか意識していないのか、全然ちゃんと戦争出来ていないんですよ。
なので、マクアディとしては戦術の妙技みたいなのは引き出す必要なく、極々当たり前の軍の運用を心がけ、自分を必殺兵器として扱うだけでガンガン敵を撃破してしまえることに。
これだと、天才魔導士としての活躍は見れても、戦争の天才としては全くなんにもしていないような気がしたなあ(苦笑
部下たちもあんまり使わずに、殆ど先任軍曹と二人でととっと出かけていって大軍ぶっ倒して、みたいな感じでしたし。相手が戦争下手すぎるんですよ。お陰で、戦争じゃなくてただの無双シリーズになっちゃってました。ゲーム【信長の野望】の敵AIくらいのレベルだったんじゃないだろうか。最近のシリーズはプレイしていないので、昔より賢くなっているのかもしれませんが。
それでも、マクアディがあれだけ一方的に勝ち続けられるのは、並外れた魔力と創意工夫と練り上げられた魔導の技術によるものだけではなく、それを適切に戦場で運用できる軍人としての能力があってこそなのでしょう。
それが具体的にわかるのが、相手にマクアディと同等に近い魔力を持った決戦兵器たるニクニックス王国のシーナ王女が戦場に出てきた件でした。
この王女、おそらくは魔導の実力だけで見るならマクアディには負けてないはずなんですね。しかし、戦場においては全くといっていいほど役に立たなかった。マクアディに一騎打ちを挑んで追いかけ回すのだけれど、戦況にまったく寄与していないんですよね。うまくマクアディにあしらわれて、しかし彼女はマクアディしか眼中になく空回りするばかり。
彼女はあくまで王族の伝統に則って決闘をしようとしているのだけれど、もうそれは完全に時代遅れだったんですね。ここで行われているのは戦争であるのに、一人だけ違うルールで戦おうとしている。自分だけのルールを周りに押し付けられるのなら、それはとても強いんだろうけれど、戦争という強固なルールは、ただの個にすぎないシーナ姫の力など、その暴力の秩序の中に飲み込んでしまうのである。少なくとも、戦争というルールに則って戦っているマクアディとでは相手にもならなかった。
なかなかおもしろい対比になってましたねえ。

さて、意外だったのはエメラルド姫に対してのマクアディの対応でしょう。宝物のように大切にしつつ、その宝物を決して自分のものにしようとはしなかった彼だけれど、もうちょっと知らないフリというか、エメラルド姫の想いに対して知らんぷりを決め込むのかと想いましたけれど……わりと早いことエメラルド姫の思いを正しく認めた上で、受け止める覚悟を決めたなあ、と。
エメラルド姫だけのワガママでの同行ではなく、リアン国の意思としてエメラルド姫を託すという形になったのも大きかったのか。彼女の意思一つなら、彼女の将来を慮れば自分達との関係を断っていずれは無傷で戻してやらないと、という気持ちもあったのかもしれないけれど、父王自ら任されちゃったらなあ。マクアディ個人としても、何だかんだと好きという気持ちあったんじゃないか。
少なくとも、この娘を幸せにしてやらないと、という気持ちがちゃんとあって、それを自分がやってやろうと思えるのなら、エメラルドも十分嬉しいでしょう。

何となく、この巻で終わる感じでその後の大雑把な国際情勢が描かれているのですけれど、なんか最後にえらい名前が地図の外から降って湧いたように上陸してきたんですが。
なんか、大軍師ガーディーさんが軍率いて現れてるんですけど、この世界って前作の戦記と同じ世界だったんか! 前作の続きを、というのは難しいかもしれないので、もういっそ前作と今作統合したシリーズでこのあたりの時代の話をやってくれたら嬉しいんだけどなあ。