【創成魔法の再現者 4.魔法学園の聖女様(下)】  みわもひ/花ヶ田 オーバーラップ文庫

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クラス対抗戦でBクラスを教導し、勝利へ導いたエルメス。彼に魔法の教えを乞う生徒が続出する一方、敗北したAクラスのリーダー・クライドにはクラスメイトの非難が集中していた。追い詰められたクライドは逆上し――「なんて自分勝手な人たちだ! アスター殿下と同じように――罰が下ることになるぞ!!」
根拠のないクライドの発言を嘲笑うクラスメイトたち。しかし’罰’は現実となり、翌日には3人が教室から姿を消してしまい……!?
事件を知ったエルメスは’罰’の真相究明に乗り出す。その裏で魔法学園に王国暗部の脅威が迫り――!? 無才の少年が世界の常識を覆す最強魔法譚、第4巻!


クライドの小物っぷりが際立ちすぎて、立派にこの国を覆っている害悪の代表みたいになっているのはいっそ凄いよなあ。自分が正しいと心から信じる人間の癒やしさが、これでもかとぶちまけられていたキャラクターでした。
同じ自分が正しい自己肯定の王様であったアスター王子の俺様もヒドい事この上なかったけれど、クライドのそれは自己正当化の権化で自分が変革者であり弱者の味方であると心から信じているのがまた気持ち悪いんですよね。その上で、自分と意見が違っていたり自分に逆らったりする輩はみんな間違えている、誤っている、僻んで悪意を持って足を引っ張ろうとしている、悪心から逆らおうとしていると本気で考えている。自分が悪いなんて毛ほども思っていない、自分が間違っているとは考えもしない。自分自身に疑問を感じず、責任を持たず、正しいことをしようとしているのだから何をやってもいいのだと思ってる。
こんなの、話が通じるわけがないのだ。
恐ろしいことに、この国の貴族の大半はこんな感じだというのだから、その子女が大きく影響を受けているのも仕方ないだろう。
それでも、前巻はこの国に蔓延るいびつで醜悪な価値観に染め上げられ、腐り果て諦め尽くした子どもたちが、それでも諦めきれずに立ち上がり、成長することを望み、自らの意思で閉塞を打ち破っていく、そんな物語が展開されていきました。
可能性は誰にだって残されている。人は変わることが出来る。
師匠のローズの影響や自身の生い立ちから、他人に期待を持つことが出来なかったエルメスの価値観をひっくり返す目覚ましい成長を、Bクラスの同級生たちを中心に見せてくれた回でありました。Aクラスに追い出されてしまったカティアが嫉妬するくらいに。
しかし、それだけの若者たちの可能性を見せつけておいて、この巻ではそんな期待感を踏みにじるように、どうやっても変われない人間も居る。腐ったまま腐り果てていく以外出来ない人間もいる、という現実を冷酷に突きつけてくるのは、なんとも残酷じゃあないですか。
それをもろに喰らうのがサラなんですよね。
母親にずっと尊厳を踏みにじられながらも諦めなかった彼女。いや、彼女もどこか諦観を胸にこびりつかせていたからこそ、当初はアスター王子に唯々諾々と従っていたのでしょう。
それでも同じような境遇にあるBクラスの面々を励まし続けて、彼らの支えになっていたのは彼女自身の最後の拠り所でもあったのでしょう。彼らを見捨てずそしてエルメスを必死に説得して離れていく彼を引き止めて、結果としてBクラスのみんなが自ら立ち上がり、目覚ましい成長を見せてAクラスを対抗戦で破ったのは、サラにとっても大きな成功体験だったのでしょう。
でも、自分でも何かを変えられるかもしれない、自分自身も変わることが出来るかもしれない、という期待感は高揚は、しかし今回徹底的に踏みにじられてしまいました。
最初から話を聞く気が一切ないような固定された人間には、本当に何を話しても馬耳東風、端から聞いてすら貰えない、理解しようとしてすらくれない。
でも、それはサラが悪いんじゃないんですよ。その事実は、サラを否定するものじゃない。彼女がこれまで成してきた事をなかったことにするものじゃなかったわけです。
彼女の行いには、これまで多くの人が心救われてきた。決して無駄ではなかった。彼女の願いは決して絵空事では終わっていなかった。その価値は些かも減じることはない。
それどころか、彼女が見つけた魔法はそれを証明するものですらあったのですから。
これまで彼女が助けてきたすべての人が、今度はサラを助けるために祈った。思いを束ね、幸いをもたらす力となす。まさに聖女の所業である。
貴女はもう囚われていない、呪いの言葉を聞かなくていい、縛られている必要はない。貴女はもう変われている。貴女に手を差し伸べられた多くの人が、貴方の幸いを願っている。
だからもう、いいのだ。もう貴女は自由になっていい。貴女はもっと羽ばたける。
これは、そんなお話だったんじゃないでしょうか。

そういう意味では、例えばニィナなんか絶賛まだ縛られまくり中なんだけれど、既に種は植えられ芽吹いてはいるんですよね。ニィナの心の澱となっていた諦めは薄まり、そこには期待が芽を出している。それだけの水と肥料と温かい光を、ヘルメスは存分に注いだんですからねえ。
彼女を縛る茨はまだまだ深く彼女を傷つけているようだけれど、ヘルメスはもう助ける気満々だもんなあ。
しかし、ココに来てこの国に根ざす深い闇の存在が顔を出してくるとは。黒幕、みたいなのがいたのか。それこそが、この国の上層部が…というか大人たちが腐りきってしまっている事自体誘引した根本原因みたいだけれど。さすがに、この国の上層部が学園の教師たちみたいなレベルだと国の運営自体支障を来しそうだもんなあ。いくら何でも人格的に歪みすぎている人間が多すぎるとは思っていたのだけれど……。

ともあれ、学園での騒動も一段落して、これまでエルメスとなかなか同じ時間と空間で過ごせなかったカティアお嬢様がようやくエルメス成分を存分に吸収できるかと思ったら、またぞろカティア様から遠く離されそうなオーダー入りましたよ!? カティアさま、そろそろ噴火するんじゃね!?