【霊能探偵・藤咲藤花は人の惨劇を嗤わない 3】  綾里 けいし/生川 ガガガ文庫

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相対する白と黒。死をいざなう蝶が導く先は。

永瀬の地獄から逃げ出した朔と藤花。
しかし二人の行く先にはもはや安寧の地などなく、さらなる地獄のしがらみが二人を絡めとる。

「神がかりの山査子」に保護されたものの、異能を強めるその特異な眼を狙われる朔。
滅びの力をもつ神をその身に下ろそうとする山査子の男と、それを邪魔せんとする少女の間で繰り広げられる「地獄めぐり」。
その中で、朔は藤花を危険にさらすものを呼び込む己の眼と運命を呪いはじめる。

そして死をいざなう蝶が二人を導く先では、燦然と繰り広げられ続けてきた醜悪な舞台がその幕を下ろそうとしていた。

先の2巻が一人の男を想うが故に起こった美しき破滅であり、美しき地獄だというのなら。
この3巻で繰り広げられたのは、我執渦巻く醜い地獄。それも小さく卑賤で詰まらない、脚にまとわりつく泥のような地獄の数々。そんな小さな地獄を一つ一つ味わうように、確かめるように、巡る巡る地獄巡りのそんなお話。
ただまあ、これは朔くんと藤花にとっては殆ど関係ない地獄なんですよね。関係ない、よなあ。ただ山査子兄妹が弄び玩具にして転がすために、弄って嘲笑って踏みにじるための地獄巡り。楽しみのために娯楽のために享楽のために、自分の浅ましさをも確かめるように。
霊能探偵・山査子春日は人の惨劇を嗤い倒す。
それに付き合われる藤花はさても玩具の延長だったのか。
でも、春日が人の惨劇を嗤って踏みにじるそれは、どこか自分自身を嗤うかのようでもあったんですよね。兄との確執を、兄への憎しみを、どうしても拭い去れずその感情に踊らされて、さあ自分こそが弄ばれているかのように、愚かさを噛みしめるように。もう後戻りできない自分自身を嘲笑うかのように。
藤花が人の惨劇を嗤わないのは、自分自身を嗤うつもりがないからなのではないだろうか。彼女は常に必死だ。自分の生き様を信じぬいて貫いている。その果てが惨劇だったとしても後悔など一切ないように。朔と生きるために、朔と死ぬために。かつて、そのために人を殺した。神を殺した。そうまでして、朔と生きることを選んだのだ。
彼女は、その自らの生き方を、惨劇を嗤わない。彼女は自分の愛に正直だ。本当のことを口にできなかった山査子兄妹のような欺瞞を持つ余裕などないのだろう。
後悔だらけの、でも後悔のない生き方だ。同時に、その惨劇を、朔には味わわせたくはないとも思ってるんですよね。藤花も朔も、共に生き死ぬ時は狂気にまみれて共に果てることを選んでいても、その過程でもう一度愛する人の手を汚させることは望んでいない。自らの手はどれだけ汚そうとも、相手にそれをやらせるのは絶対に嫌なのだ。
それがすれ違いにならないか、多少心配だけれど、すれ違わなかったらすれ違わなかったで二人してどこまでも行き果ててしまいそうだから、今くらいでいい塩梅なのかもしれない。
それにしても、今回は春日に連れられて一つ一つは小さな、人間の情念や妄執によって複雑化した殺人事件をはしごすることになったのだけれど、人の深すぎる故に淀んでしまっている感情をぶちまけたような事件に首を突っ込むのは、異常者じゃなかったらやっぱりストレスがんがん貯まるんですよね。
藤花も朔も、そういう事件を楽しめるような人間ではない。自然、ストレスフルになっていく。と、どうなるのか……。

この二人、場を弁えずにイチャイチャベタベタしはじめたぞ!

それまでの陰鬱で昏く重たく冷たい空気に耐えかねたのだろうか。その空気一切無視して、一瞬にして二人のいる狭い空間だけピンクのポワポワ温かい空間になるの、シュールを通り越して一種のホラーなんですがw
うん、わかるよ。精神的に張り詰めすぎた心を回復させるために、癒やしが必要だってことは。神経いっぱいいっぱいになった時は柔らかくてあったかいものに抱きついて癒やしを求めるのがいいんですよ。セラピーですよ、アニマルセラピーならぬ藤花セラピーですよ。お腹やわらかいのかー、そうですかー。
そのたびに置いてけぼりになる山査子の妹だったり兄だったりが、微妙に不憫でありました。この二人の空気に割って入るの、傍若無人なこの二人だとてなかなかしんどかったんじゃなかろうか。
これくらい素直になっていれば、この兄妹ももう少しマシな末路を辿れたのかもしれません。いや、これくらいってこれは無理だろうな、普通は無理だ。
結局、行き着く所に辿り着いてしまってから、もう絶対に後戻りできない所まで行き着いてしまってから、憎しみや嫌悪の向こう側に隠れていた淡い想いに気がついても、どうしたって遅いのである。
それでも、気づけた、それを共有できたというのは幸いなのだろうか。何も気づかないまま憎しみ合って殺し合っていれば、それが良かったのだろうか。手遅れであるが故に惨劇、なにもかもがいまさらだ。でもまあ……愛憎は裏表、今更だとてそれを受け入れられたのなら、それはそれで納得の末路だったんじゃないだろうか。

そして、目覚めさせてはいけないものが目覚めてしまった。比喩ではなく、狭い個人の意識の世界ではなく、物質界の世界の危機。でもそれは、藤花と朔にはやっぱりなんにも関係ないんじゃなかろうか。彼らはただ逃げるのみ。ただ二人きりで居られる世界を求めて。でも、その世界そのものが滅びてしまうのなら、やはり向き合わねばならないんだろうか。どこまで行っても彼らは逃げられないんだろうか……。